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〈31〉Kちゃんが本当に巣立った/同僚と一緒にお酒を飲みながら話すっていいよね!

一年前まで、うちの事務所でコピーライターをしていたKちゃん。私が事務所の縮小を決め、独立を促した。フリーになって自宅で仕事をしている。そのKちゃんと話をしたくて、いやいや実際は一緒にお酒を飲みたくて、10月末の金曜日、自宅に来てもらった。お土産の一升瓶やワインをリュックに背負ってやって来てくれた。いつも気づかいの人なのだ。

私もKちゃんが来るんだからと、朝から買い物に行って、お料理を準備した。ガーリックシュリンプ、梨と豚肉巻き、里芋とモモ肉の揚げびたし、グリーンサラダ。久しぶりにリキが入った。どれも美味しくできた。

一緒にビールを飲みながら、Kちゃんから仕事の話を聞くのは楽しい。こんな仕事をしている、誰それとチームを組んでいる、腹が立つほどみみっちいギャラの仕事もこなしている。そんな話のひとつひとつが嬉しく泣けてくる。そーかそーか、頑張ってるね。まるで昔の自分を見てるみたいだ。そういうチャリ〜ン♪と子ブタの貯金箱の音が聞こえそうな単価の仕事を積み重ねていって、まずは生活費を稼ぐのだ。

気づくと、Kちゃんは立派なフリーになっていた。勤め人時代は、自分から仕事を取りに行かなくても、毎月給料が入る。だからそれほど欲はないし、金のために働く私の気持ちを理解できなかっただろう。でも、今はすべての仕事が自分の生活や老後を支える。だから、彼女も積極的になっている。独立をすすめた当初は「スーパーのレジ打ちでもしようかな」なんて言って私をがっかりさせたけど、今はフリーの覚悟を決めたみたいだ。

ああ、変わったね、立派になったね。

Kちゃんが帰った後、とても安堵した。が、その後、急に寂しくてたまらなくなってしまった。まるで子供を巣立たせた後の母親のようだ。うちには子供はいないから、そんな気持ちを感じたことはない。でも、多分、この気持ちは母親の喪失感だ。調べてみたら、やっぱりあった。「空の巣症候群」。ひなが巣立った後の母みたいに、ぽっかり心に穴が空いた感じ。実際、その後2日間ほど落ち込んでいた。でも、本当の母じゃないし、ゴルフの打ち放しに通っていたら、いつの間にか治っていた。

フリーランスはラクではないけれど、今のKちゃんには合っていると思う。35年間に何人ものアシスタントを雇って、初めてそんな人を育てることができた。私も嬉しい。ありがとう、Kちゃん!

追記:公開まで時間が空いた。予想外に仕事が忙しくなって読み直す時間が取れなかったから。なんだかマが抜けてる気がするけれど、私の記録だから、まっ、いいことにしようっと。私もオトナになったな。

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