【紀行文】昔と今をつなぐ異空間。新橋のお茶の文化創造博物館で気づいたお茶の素晴らしさ
毎日の食事では、緑茶を飲む。
これが当たり前の家庭で育ち、今もそうなのだが、この当たり前を見つめ直す機会があった。
旧新橋停車場にお茶文化をPRする博物館が出来ていた
東京は新橋。高架下のレトロ昭和を感じさせる飲み屋街も魅力的。このレトロと超モダンが混在する街に、まさにその象徴のような一角がある。
旧新橋停車場跡は、汐留の高層ビル街に埋もれるように存在しており、付近には電通ビルやパナソニックの美術館などが立ち並んでいる。その中にレプリカであるが、旧停車場の遺構が再現されていた。
遺構が、超高層ビルの中にあり、まるで昔と今をつなぐ異空間のようだ。
この旧停車場駅舎のレプリカ建物の中に、お~い!お茶で有名な、伊藤園が設立したお茶文化を紹介する博物館ができていた。
「お茶の文化創造博物館・お~いお茶ミュージアム」であるが、前者が日本文化に密接な関係がある喫茶文化全般を紹介する博物館であることに対し、後者はお~い!お茶の製品にまつわるエピソードなどを紹介するコーナーのようだ。
共通スペースには、喫茶を楽しめるスペースとお土産コーナーがあった。折角なので、有料の博物館に立ち寄ってみたが思いのほか面白かった。
私が茶道を嗜んでいたことやお茶の産地、静岡県民であることを差し引いても、お茶文化について分かりやすく解説されていて、自然と興味を引く展示となっていた。
年表形式でお茶の歴史を概観
博物館に入ると、まず茶の歴史が年表形式である。その下にはお茶の最も素朴な形である固形のお茶の実物と薬研が置いてあった。薬研は、体験できるようになっていた。
平安期に、固まったお茶を薬研で細かく砕き、煮だして飲むのが、日本に伝わった時点での飲み方のようだ。
武家政権が成立した鎌倉時代には、徐々に石臼で粉状に挽いていくものが主流になっていく。
室町時代には、茶道のイメージに近い、粉末状のお茶を茶筅で点てる形が成立する。千利休が茶道を確立した時代だ。
そして、江戸時代には煎茶が登場し、茶のエキスを抽出して飲む方法も広まっていく。
明治以降は、政府の重要な輸出品として世界各国に日本のお茶が広まっていく。
栄西が記した喫茶養生記から始まり、現在の我々が飲む煎茶や抹茶に至るまでの過程がよくわかる資料だった。
庶民に広がる喫茶文化
別のコーナーには、様々な茶道具について展示があったが、これまで美術館で見たような形式ではなく、庶民が手軽にお茶を楽しむための道具類が飾ってあるのが面白かった。
やはり日本人は大きいものを小さくミニチュア化するのが得意なようで、携帯茶道具は、細かな細工が施された粋なもので、見ていて楽しかった。
他にもお茶を運ぶからくり人形などの展示があった。こうしたゼンマイ人形は、その精緻なからくり構造が狂気を感じさせるほどだ。
素朴で端正な人形の外見からは、想像できないほどの細かな構造が中に隠されているのが、粋だ。
これからも日本のお茶文化を伝えていくために大事なこと
特設シアターでは低年齢層向けにも分かりやすくお茶文化を紹介するアニメーションが上映されていた。私はお茶所の静岡県なので、小さい頃からお茶の歴史は学校でも郷土文化として習い、家でも当たり前のように飲んでいるものであったので、今更感があるような内容であったが、今では、日常で全く飲まない家庭も多いと聞く。日本全体で見れば、お茶を飲む人は減っており、茶葉の生産量、そして消費量も減っていると言う。
そのような現代では、こうしてお茶の歴史や文化をわかりやすく伝える博物館が大事であると思う。
伊藤園の営業担当者から、おーい!お茶は、全国から集めた茶葉をブレンドしていると聞いたことがある。私が住んでいる地区のお茶も、かなりの量が使われているらしい。
それでも、茶農家では高齢化が進み、茶畑を維持していくのも難しくなっている。採算性も厳しいようだ。
先日、茶農家の方とお話をする機会があったが、今までのように作れば売れる時代は終わったのだから、これからは工夫や独自性が必要だと強く語っておられた。その姿を見て後継者も育っているらしい。
日本茶を飲む習慣を大事にしたい
お茶は栄西が日本に伝えた昔から薬として使われてきた。お茶の効用はカテキンからカフェインポリフェノールまで様々なものがある。
朝お茶を1杯飲めば七難を逃れると言う諺もある。(地方によって若干の言葉の違いがあるようだ。)お茶は日本文化に深く関わり、その歴史を知る事で、日本文化のあらゆる分野に興味を持つことが出来る。武芸、華道、書画、着物などなど。お茶を知ることは、日本人として必須であり、人生を豊かにするものであると思った。
私の日常には、自然に溶け込んでいる喫茶習慣だが、改めてお茶のすばらしさに感謝しながら、おいしく飲んでいきたい。
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