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【紀行文】ヤマトタケルを導いた白きオオカミが潜む三峯神社

 氣守りで有名な三峯神社を訪れた。
 ヤマトタケル伝説やご眷属信仰など、歴史が古い神社だけあってさまざまな伝承、伝説がある。由来を調べてみると、創建は景行天皇の御代。つまりヤマトタケルの時代である。そのヤマトタケル伝説の一つに、一行の道案内をしたのが白いオオカミであり、ここのご眷属様である。景行天皇により、この地に神社が創建され、三峯神社と言う名を賜ったとあった。

 その後、修験道の開祖として有名な役小角がこの地で修行したと伝わり、ここは修験道の聖地・修行の地としても全国に知られることとなる。神仏混淆・習合は江戸時代まで続き、天台宗の寺となっていた時代が長く、仏僧による奉仕がされていたようだ。
 明治維新後の神仏分離により寺院はすべて破却され三峯神社と再び相成った。

随身門もそうだったが、道教的な影響を感じる絢爛たる装飾

ご眷属信仰を支えた講組織

 民衆レベルでは、「講」と呼ばれる組織があり、秩父一帯はもとより、広く関東や諏訪地方まで広がっていたようだ。
 この講の目的は、ご眷属信仰、つまりこの三峯神社にゆかりのオオカミの力を借りることである。親しみを込めてお犬様と呼ばることもあるようだ。山里では猪や鹿避け、そして町や村では火伏盗賊避けに霊験灼(あら)たかであるとされていた。 
 このご眷属信仰は、静岡県民の私の周りでは聞いたことがなかった。
 例えば、ある神社にお参りしその神徳を持ち帰るには、お守りやお札などの護符やお札が一般的だろう。
 一方このご眷属信仰にあっては、そのご眷属様そのものを借りると言う形を取る。ここが面白い。つまり「神様」をお借りする、お連れするのはあまりにも畏れ多いが、そのご眷属であるからには、神様をお連れするよりも、もう少し気軽ということであろうか。
 三峯神社では、特別の参拝によってそれが許され、御正体と書かれた木箱にお借りしたご眷属様を入れ、地元にお連れする。当然生きておられるので、木箱には空気が空いている。信仰の深さ、リアルさがうかがえる話だ。

御眷属拝借
三峯神社の神様のお使い(神様の霊力を受け、神様と同じ働きをするとして仰がれる動物)はオオカミです。日本武尊の道案内をされ、その勇猛、忠実さから、当社の使い神に定められたと伝えられています。
またオオカミとは、三峯山の不思議な霊気を言うと古書にも見え、大口真神(親しみを込めてお犬様、ご神犬、御眷属様とも呼ばれる)は、あらゆるものを祓い清め、さまざまな災いを除くと言われます。
古くからこの御眷属様を御神札として1年間拝借し、地域の、或いは一家のご守護を祈る事が行われています。これを御眷属拝借と呼び、火難盗難除、諸難除の霊験あらたかです。
御眷属を拝借されて一家の無事息災をお祈りください。

三峯神社HPより

三峯神社の神楽殿

 参拝を終え、氣守りをいただいあと、ご神木の前に立った。
 このご神木の前に立ち、深く呼吸を三度し、ゆっくりとその霊木の氣がこのお守りに宿るように祈った。太くすっくと立つこのご神木を見ているだけでも身体に中に涼やかな気が流れる感じがした。気持ちの良い体験だった。
 身体が清められた感覚のまま、境内の中を散策する。
 近くには、祓戸と呼ばれる場所や古そうな神楽殿があった。

佇む神楽殿 素朴なつくりが歴史を感じさせたが明治期のもののようだ

 この神楽殿が気になったので少し調べてみた。神楽殿は、通常その神社に由来のある故事や縁起を神楽舞で奉納する場所であるが、歴史あるこの三峯神社の神楽とはどのようなものであるか気になった。
 神楽殿の裏手に立札形状の解説があった。このようなことが書いてあった。

神楽殿
神さまのみ心をお慰め申上げるために舞(神楽)の行なわれる殿舎です。
太々神楽、または里神楽といわれるお神楽(当社では氏子滝の沢神楽連奉仕)は日本の神話を基にした舞劇で、いわゆる神楽衣装をつけ、面をかぶって笛太鼓に合わせて踊るものです。
三峯の神楽は霧の流れる境内にひびく笛と太鼓の調和よく、その巧妙な撥さばきによって彼の宮本武蔵が二刀流を開眼した(吉川英治著 小説 宮本武蔵)と伝えられるものです。
この神楽殿は明治41年5月、一の鳥居及び保存金1000円と共に東京堅川講社から奉納されました。
恒例神楽奉奏日 4月8日 5月8日

現地案内板説明文

 意外や意外、宮本武蔵とも関りがあるとは! とは言え、出典が吉川英治の宮本武蔵と書いてあるところが、また面白い。
 神楽殿自体は、明治の寄進となっているので、比較的新しいものであることがわかる。宮本武蔵に二刀流の極意を悟らせた撥捌きが伝わるこの神楽に俄然興味が湧く。

 YOUTUBEで見つけたのがこの神楽だが、宮本武蔵を開眼させたような撥捌きがどれかは分からなかった。神楽の調べは妙なる調べ、三峯の山々を伝わる霧が流れる中、それは神々の降臨を予感させるものであったであろう。

ご眷属信仰の社

 ご眷属信仰があるからには、きっとそのお社が別にあるに違いないと思い、パンフレットを見ると、境内から西に外れた場所に「御仮屋」というところが、ひっそりとある。人の流れを見ていると、境内の西はずれに向かう人がおり、そちらに向かう。
 歩き始めのころから、小雨が降り始め、御仮屋に着いた頃は、しっとりと辺りが濡れ、傘を取り出すころ合いとなった。
 比較的新しいお宮のようだったが、多くの参拝客が訪れていた。お宮の周りには、オオカミの石像が多くあり、こちらは少しかわいい感じもして親しみがわいた。女性の参拝者が多いように感じたのも気のせいではないだろう。

御仮屋は、ご眷属様を祭る仮のお宮であり、普段はこの山中に身を潜められているとのこと。
お犬様の石像が多くあった

ヤマトタケルの像が見るものは

 再び境内に戻り、元来た道を戻る。随身門を出て左に折れると、ヤマトタケルの像がある。パンフレットには、三峯神社に来たらこの像をぜひ見てほしいとの記載があった。

霧の中に佇むヤマトタケルの像

 いよいよ霧が深くなり、ヤマトタケルの像を見るのもやっとだった。ヤマトタケルの像は、この三峯の地からどこを眺めているのだろか。霧が深く私には見えなかったが、白きオオカミに案内され、悲劇に彩られた古代史最大の英雄が見た景色。再訪の機会があれば、ヤマトタケルの像とともに眺め、神話の世界に遊びたいものだと思った。

おすすめ! わらじとんかつ丼

 境内を一通り見終わり、腹が減った。土産物店のほうに戻ると既にこちらに来たことがある方からLINEが来ていた。
 ここのわらじとんかつがおいしいと言う情報だった。せっかくなので、そのわらじとんかつを求めて注文してみた。展望デッキに腰掛けと一息ついた。霧で何も見えないのが残念だが、あまり暑くないのも救いだ。
 直ぐにわらじとんかつが運ばれてきた。写真の通りボリューミーである。

丼からはみ出る大きなわらじとんかつ そのお味は・・・

 こういったお土産店の観光地の食事はあまり期待できないのが相場だが、一口食べてみて、そのうまさに驚いた。タレが独特なのであろうか。わらじとんかつの肉そのものは、おそらくそこまでたいしたものではないのであろうが、タレが抜群に旨かった。甘みと旨味がしっかりと染み込んだタレが食欲を誘い、あっという間に平らげてしまった。
 今回、娘の受験用のお守りも買ったのだが、合格の際には家族でお礼参りに来ようと思っている。その際には、ぜひここのとんかつを食べさせたいものだ。
 静岡からの道のりは遠いが、神秘的な山の中にある霊験灼たかな三峯神社。その氣守りを求めてきたのであるが、ご霊木の氣に触れ、また数々の瑞祥や歴史的な建造物に触れることができ、とても気持ちの良い参拝ができた。来年、ぜひ再訪したいと思った次第だ。

おまけ:三富にあった気持ちの良い温泉 白龍閣

 長い車旅の帰途に着いたが、まだ日が高く若干の余裕があったので、道々いい日帰り温泉があったら入ろうかと思いながら、車を走らせていると山梨県の三富のあたりでよさそうな温泉を見つけた。
 それが写真の白龍閣であり、佇まいに風情もあるが、温泉そのものも素晴らしかった。写真撮影が禁止されていたので、下記HPを参考にしていただきたいが、川辺にあり、近くには小さな滝があって、素晴らしい景色だった。泉質も肌に優しい蕩けるような温泉であり、ゆったりと気持ちよく旅を終えることができた。

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