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『渋谷SAUNAS』妖精のいたずら

ゴールデンウィーク真っ只中の5月3日、僕は渋谷桜坂にいるはずだった。
しかし、どう言うわけか、約8000キロの距離を超えて、僕はフィンランドラップランド地方の湖畔で、空を見上げていた。
湖畔の周りは森になっていて、モミなどの針葉樹に混ざり、立ち枯れたケロが寂しそうに、でも凛として佇んでいる。その下には、シダ植物が茂る。
5月の優しくも、力強い日差しが降り注ぐ。植物たちと競う様にして、僕は太陽の恵みを全裸で浴びていた。

渋谷SAUNAS。予想に反して、空いている。奇数日と偶数日で、男女入れ替え制となっていて、この日、男性は「LAMPI」と呼ばれる東側のエリアだった。西側の「WOODS」には何度か来たことがあったが、こちらは、初めてだ。

サウナは、施設そのものによって得られる満足度が大きく変わる。言い換えてしまえば、良いサウナと悪いサウナがある。しかし、それは体験する人の好みによるところが大きい。
僕の周りでも、SAUNASの西と東、圧倒的に「WOODS」の方が、人気が高い。

でも、初めて訪れたこの「LAMPI」の異次元的空間演出に、僕は完全に脱力した。この脱力が、圧倒的な多幸感を伴うものだった事は、言うまでもない。

フィンランドの言葉で、池を意味する「LAMPI」。
3Fの外気浴スペースには、深い水風呂がある。澄んだこの池に飛び込めば、心地よい浮力が全身を包む。浮かんで空を眺めると、それはまるで、冒頭の湖水浴体験へと変わる。
外気浴スペースには、僕以外、他の客がいない。初夏の太陽を独り占めだ。

この日、1番の驚きは、水から上がって、ぼーっと木々を眺めていた時に訪れた。
急に、何の前触れもなく霧が立ち込め始めたのだ。外気浴スペース全体が、一気に深い霧に包まれた。マイナスイオンたっぷりの森林浴。霧で木々も見えにくくなっているのに、空からは日光が届いている。
僕は、自分の頭をよぎった言葉に、思わず笑みを浮かべてしまった。
これは、妖精のいたずらに違いない。北欧の妖精たちも、きっとこの湖畔の森で遊んでいるのだ。太陽を、独り占めしようとして、ごめんね。

ゆっくりと霧が晴れてくる。
僕は我に帰ると、渋谷の空を見上げた。目の前の針葉樹やケロは、小さな水滴で濡れ、キラキラと輝いていた。
この施設で遊ぶ妖精が、僕を北欧にまで連れて行った様だ。
僕は、まどろみながらも覚醒した頭で、本気でそう思った。

渋谷SAUNAS「LAMPI」には、妖精が住む。
あなたにも、いたずらしてくるかも知れない。
でも、それはきっと、歓迎の証だ。

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