初夏の森林浴 南足柄「おんりーゆー」
聞こえるのは、湯の湧き出る音、鳥のさえずり、沢のせせらぎ、だけ。ここの客は、みな無口だ。おしゃべりよりも、聞きたい音がある。聞くべき音がある。
ここは、森の中の温浴施設、神奈川県南足柄市「おんりーゆー」。
温浴施設の周りに、人工的に森林をあしらえたのではない。本物の森林の中に、温浴施設をあしらえた、この表現が正しい。
ここの露天風呂は、必ずまどろみを連れてくる。38℃と低く設定されたアルカリ泉。初夏の太陽の光が、木々の緑に乱反射する。全裸で、浴びる。纏うのは、湯のローブだけだ。泡沫の浅い夢。
揺蕩う(たゆたう)。ふと、その単語が頭に浮かんで、フラフラと揺れる。思考まで、揺蕩う。
森林浴の最適解。
森林は、全裸で浴びるものだ。全ての皮膚が、緑色の湿気を帯びた空気を、深く吸いこむ。全身浴。リフレッシュ。
山、滴る。
六月の、土曜日。
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