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銭湯みたいなテントサウナ?

神奈川県小田原駅から車で約10分。山深いキャンプ場に併設される形で、その奇妙なサウナはあった。
2023年9月にオープンしたばかりのそのサウナ名は『ノサウナ』。コンセプトは、公衆アウトドアサウナだ。どういうことか?

代表の済田さんに話を聞いた。
「普通、こういったアウトドアサウナは、イベントで体験するものであったり、時間制、予約制であったりしますよね。でも、銭湯はそこに行けばやっているものです。それを、アウトドアのテントサウナで実現したかったんです。」
テントサウナの熱源は、基本的に薪ストーブであることが多い。だから、決められた時間に、予約制で営業する。予約がない時間帯は、ストーブに火を入れる必要がないからだ。でも、『ノサウナ』は違う。
「お客さんが来る来ない、いるいないは関係なく、一日中薪を燃やしています。一度入ってもらったら、営業時間内は時間無制限で、利用して頂けます。」この辺りの間材を使っているので、リッチな薪の使い方ができるのだそうだ。
実際、オープンの10時ぴったりに施設を訪れたが、3張りあるテントサウナは、どれもコンディションが完璧に整えられていた。

駐車場から山道を下った先にノサウナはある
受付もテントによって作られている

受付で料金を支払い、ロッカーキーを受け取る。現金のみのアナログさも、銭湯寄り。

ロッカールームも、テント内
シャワー室もテント内に
地下水利用の冷水のみ

水着に着替えて、外へ。
私が訪れたのは、11月5日の日曜日。3連休最後の日。この連休は、記録的な暖かさで、この日も寒さは感じなかった。

テント幕で囲われた施設内はにはウッドデッキ調の道が整備されている

テントは温度違いで3張り。収容人数とアロマが異なる。いきなり高音に入りたくなる衝動を抑え、まずは低音から。

一番大きなテントが低温サウナ

アロマはアブラチャン。油ちゃん?
済田さんが、このテントの裏を指差し、この木ですよ、と教えてくれた。

葉を取って匂いを嗅ぐと、爽やかな香りが
ノサウナの中でも最大のテントサウナ

このテントの最も大きな特徴は、床に敷かれた畳!私のサウナ人生でも畳張りは初。誰もいなければこの畳の上で大の字に横になることもできる。

畳に座ってみた
最も低い位置でゆっくりとサウナを楽しめる
各テント、ロウリュを自由におこなうことができる

このテントのベンチ椅子は、他テントの倍近い幅があり、ウィスキングのサービスも今後取り入れていきたいと済田さんは話してくれた。

窓の外はすぐ山

温度計は70℃を示していた。ロウリュで湿度を上げると、先ほどのアブラチャンの爽やかな香りがテント内に充満する。大きなベンチ椅子に横になると、窓から優しい秋の日差しが差し込んでいて、体だけでなく、もっと内側からゆっくりと温められていくのがわかる。心地よい発汗だ。

サウナのすぐ脇を流れる沢

さて、この『ノサウナ』、一番のメインは水風呂にある。施設内に水風呂はなく、自己責任にてこの沢に入るのだ。

夫婦(めおと)バイブラ小滝

済田さんが「夫婦バイブラ小滝」と名付けた場所。ここに入ると半身浴できるほどの深さがあり、清流が熱った体を流してくれる。

周りのテント泊の客から好奇の目で見られる

もちろん寝転べば全身清流に浸かることができる。温度は15℃程で、痛みを伴わない冷たさだ。夏以外で、初めて清流に全身浸かった。
気持ちいいー!
しかし、真冬は6℃にまで冷え込むらしい。危険!

ととのい岩

済田さんが「ととのい岩」と名付けた石に横になる。強制森林浴が、気持ち良くないはずがない。この「ととのい岩」、Googleマップにも登録済みらしい。

もちろんリクライニングチェアも完備

チェアに座って目を瞑る。鳥や、虫や、遠くで子供がはしゃぐ声(キャンプ場)、秋の陽射しの色、針葉樹の香り、全てが感覚に訴えかけてくる。
言葉を失う。最高だ。

薄曇りの空から降る光が優しい

約2時間程度、私はこの施設を独占して使用することができた。12時頃に、8名の団体が来客するまで、私1人だったのだ。なんというぜいたく。

中温サウナはヨモギのアロマ

中音サウナと言いつつ、中の温度計は110℃!ラドル一杯のロウリュで蒸し出される程の熱さ。ヨモギは、やはりなんとなく体に良さそうな健康的な香りがする。

狭いテントはすぐに蒸気が降りてくる

さて、今回、このサウナで最も大きな発見となったのは、アロマ水。
中でも、高音サウナのクロモジの香りが、私は初体験で、一発で好きになった。

高温サウナのアロマはクロモジ

このクロモジ、日本古来から香る植物として認識されていたらしく、ローズウッドの香りに近いとされる。
都会的で、少しだけアヴァンギャルドな雰囲気。その香りに満たされた自分自身も、垢抜けた錯覚に包まれる。背伸びした香りだ。心地いい。

ウォーターサーバーの水で生き返る

ここで使われるアロマオイルは、実は全て済田さんの手作り!敷地内の野山で自分で摘み、蒸留して精製しているのだそう。自作の蒸留機も作製したのだとか。
先ほどのクロモジも本来は高級なアロマだそうだが、自作のため、コストダウンできている。

ちなみに、クロモジの高温テントサウナの温度計は70℃を指していた。が、ネックレスを熱くてすぐに外さずにはいられなかったことから想像しても、明らかにもっと高温であったと断言できる。斉田さんにそのことを尋ねると、やはり「あ、あの温度計、壊れてます」納得。体感として、120℃超え!
「サウナストーンは真鶴の本小松石を使用しています。江戸城の石垣にも使われた溶岩石です。割れにくく、ロウリュに適しています。燃料の薪も、アロマの原料の植物も、この森のものを使用しています。地産地消を心がけています」

テントサウナは、本来、フィクションなアミューズメントに位置付けられていたはずだ。
それが、ここに来れば、いつでも体験できる。
今はまだ土日休日のみの営業だが、もっと認知され、先を見通すことができる様になれば、平日開催も視野に入れていると言う。
真冬、6℃の水風呂体験を、今から心待ちにしている自分がいる。
アウトドアテントサウナが、フィクションではなく、ルーティン化する日々。誰かに教えたくて、でも、誰にも教えたくないとっておきの場所。
小田原風鈴が、風もなくりーんと、鳴った。
秋の、美しき休日。

ととのいスペースに吊るされた小田原風鈴

ノサウナの公式HPはこちら

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