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ばあちゃんと暮らす〜13日目〜

ばあちゃんと暮らして13日目になる。
ばあちゃんとの思い出を鮮明に残しておきたいと日記にしてみる。

誰に読んでもらいたいとか特にない、他愛もない日記だ。
いつの日か振り返って思い出を笑い会えるように些細なことでも書き留めておく。


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2月18日 火曜日

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AM08:00のアラームで目が覚める。
東京で一人暮らししていたときには、これを早起きと言った。
まだ寝たい気持ちを堪え、右手を伸ばし、ふすまを開ける。

私の部屋はじいちゃんの仏壇がある、4畳の畳の部屋。
私の荷物は最低限な服と本と化粧道具くらい。
後はすべて東京においてきた。正しくは捨ててきた。

ふすまを開けるとすぐにリビングがある。
ばあちゃんはその頃、だいたいソファーに座っている。

しかし今日は予想ハズレ。
キッチンカウンターの前においてあるテーブルについていた。

今日の朝は叔母がいた。
一緒に御飯を食べたのか、ばあちゃんの前にはお皿とスプーンがあった。
「おはよう」と声をかけると「おはよう」の後に「あついあつい」といった。昨夜食べたモツ鍋の残りで雑炊を作ってもらい、食べたらしい。

ばあちゃんは最近、お箸を持てなくなった。
右腕の付け根の軟骨がすり減り、右腕が上がらなくなってしまった。
年を取ると出てくる問題の一つのようだが、こういうのって、いつどこで進行をストップすることができるのだろう。いつの初詣で「治りますように」と願えばいいのだろう。


ーーーーーーー14:30ーーーーーーー

朝から実家に帰った私が帰宅する。
帰宅する途中で電話をかけたが、電話に出ず、留守番電話サービスの声が鳴り響く。
1回の着信音には、もう間に合わない。かかってかけ直すまでが1本の電話だ。


ーーーーーーー帰宅してすぐーーーーーーー

ばあちゃんにお土産を渡す。
瓶に入った梅干しをそのまま手でとって食べる。
「すっぱい?」と聞くと、「すっぱくない」という。
そしてすぐに、グレープジュースを飲む。
飲むというか流し込む。きっと酸っぱかったのだろう。


ーーーーーーーそれから少し経ってーーーーーーー

ドテン と音がする。
ドアを閉めようとしたばあちゃんが、仰向けで転ける。
坐骨神経痛で痛めた足には、もう殆ど筋肉がなく、体を支えることができていない。食器棚の角に頭をぶつけて「痛い」という。
冷蔵庫から保冷剤をとって渡す。「キッチンペーパーでくるんで」と言われる。叔母に「キッチンペーパーでくるんだらぐちょぐちょになろうもん。タオルにしい」と言われるも、頑なに「キッチンペーパー」がいいと言う。体を起こさせ頭を冷やす。少し、ボコッとたんこぶができる。


ーーーーーーーそれから5分後くらいーーーーーーー

ばあちゃんのそばを離れ、畳の部屋で片付けをする。
叔母もその部屋で、ワイシャツのアイロンがけをする。
少し離れたところでばーちゃんがスローモーションで転んで行くのが見える。本日2回目は、ソファーの後ろで前方方向に転んだ。だんだんと受け身がうまくなっているのか、体を左に捻りながら着地する。「腰が痛い」と言う。
痛めた腰に気持ちばかりの湿布を貼る。湿布を横に貼るも「縦やろ」と言われて怒られる。湿布をピンとし腰に貼るも、お腹周りのシワで結局シワシワになる。「シワシワだ」と怒られる。


ーーーーーーー夜ご飯ーーーーーーー

叔母が作ったチャーハン、餃子、厚揚げ、もやしのナムル。私の作ったピーマンのまるごと焼き。叔母は料理上手で、メニュー名を見るとなんとも油っこくて胃もたれしそうな料理も、「油抜き」を徹底するくらいにヘルシーな料理に仕上げてしまう天才だ。
いつものように並んだ食材をばあちゃんのお皿に移す。ばあちゃんがよたよたとしながらテーブルに付く。椅子に座るのも一苦労だ。それから、私の作ったピーマンのまるごと焼きを食す。「おいしい」と言って食べる。ばあちゃんの大好きな餃子も、「おいしい。おいしい」と言いながら食べていく。
だけどいつもよりも早い段階で「おなかいっぱい」と言う。一体、私がいない間に何を食べたのだろう。きっと、せんべいとチョコと飴をいくつか頬ばったのだろう。


ーーーーーーー夜ご飯後ーーーーーーー

ばあちゃんのコップに注がれた熱々のジャスミン茶を持って席に立つ。「持っていくよ」の言葉を蹴って「ばあちゃんが持っていく」と言う。これも一つの役割。じゃあとお願いして、見守る。
案の定転ぶ。本日3回め。熱々のお茶を持って、目の前のソファーにダイブ。お茶でソファーと毛布とばあちゃんの手が濡れる。すぐに駆け寄ってティッシュで拭く。悲しそうに「大丈夫」と言う。


ーーーーーーー23:00ーーーーーーー

ばあちゃん就寝




今日は特に寒い日だったみたい。寒い日は体の痛みが酷くなるみたいで、転びやすい。今日のばあちゃんの手と足は特に冷たく、私の手をとって「あんたぬくいね」と笑いながら言った。思えば「寒い寒い」と何度も言っていた。

私はばあちゃんの体に湿布を貼るとき、少しドキドキする。体中のシワに湿布が飲み込まれないように、ピンとしようと息を止める。結局「シワシワだ」と怒られる。「シワシワなのはばあちゃんの体やん」と言うも無視される。もしかしたら聞き取れていないのかもしれない。まあいい、怒られても口答えしても、ばあちゃんに触れている時間が大好きだからだ。シワシワでふわふわなばあちゃんの体は、溶けてしまったマシュマロのような触り心地だ。とても気持ちよくて、触っていたい。ばあちゃんの特権、本物のマシュマロボディなのだ。


あしたはばあちゃんが転びませんように。
手足が暖かくなりますように。
あしたも元気でいられますように。

おやすみなさい。


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