2024年2月 観た映画感想文

タイトルの通り、2024年2月に観た映画の感想文です。
対象は映画館で観た新作のみ。
ストリーミングで観た分や再上映で観た過去作品などは末尾にタイトルだけ備忘録として書いておく感じでいきます。
前月前の分はこちら↓




哀れなるものたち

よくもまあこんな奇妙な物語を作れたもんだ……と終始圧倒された。
小説が原作らしいんだけど、肝心のその原作小説がまだ和訳されていないという点が非常に惜しい。

劇伴がどれもこれも良い意味で「気持ち悪い」感じがして終始背筋のあたりをゾワゾワさせてくるんだけど、それがまた作品の雰囲気とぴったりマッチしていてクラクラする。

この映画を語るうえで何より欠かせないのはこの奇妙極まりない筋書きを見事に体現するヒロイン役のエマ・ストーンの素晴らしさ、というより、エマ・ストーンの怪演と評するしかない振る舞いの凄み。
恐らく彼女無しにはこの映画自体がそのものが成り立っていなかったのではないかとすら思わせるほどの演技だった。

マッドサイエンティストの実験により死から蘇生したヒロインのベラ。
彼女は姿こそ妙齢の美しい女性だが、蘇生されて日が浅いうちは見た目の年齢には不相応すぎるほど幼く、その振る舞いは言葉を選ばなければ知的障害者のそれに近かった。
(ネタバレになるから深く言及はしないけどこの点に関してはちゃんと理由がある)
しかし彼女は驚くほど急速に成長し、やがて一人の放蕩男に誘われるままマッドサイエンティストのもとを離れ世界を巡る旅に出る。
各地を旅する中で様々な人に出会い、様々な出来事と相対しながら「自分とは何か」「生きることとは何か」……そういった人間の根幹とも言える部分への問い掛けに彼女なりの答えを見つけようと奮闘する姿は、彼女の歪な成長過程と同じくとても歪んでいるように見える。
同時に、途方もないほどに無垢で、途方もないほどにパワフルでもある。

こういった複雑なキャラクター性は物語全体を瓦解させる危険性を孕むものではあるけれど、実際はそんな気配など微塵も感じさせないほど全てが噛み合っていた。
エマ・ストーンの演技の凄さはこの「全てを噛み合わせた」という一点に尽きると思う。

何となく『アルジャーノンに花束を』からかなり影響を受けているんだろうなという気がしてならないけど、ただ結末はまったく違う。
物凄く前向きで未来のある結末からは、ベラの人生はむしろここから始まるのであり、ひいては人間というのはスタート地点が何であれいつどの地点からでも自分の人生を始められるのだ、という強いメッセージ性を感じた。
(アルジャーノンの結末を腐すわけではない、実際俺はどちらの終わり方も好き)
内容としてはキワモノだから人に勧められるかというと微妙なところだけど個人的にはかなりオススメです。


機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

何だ?この映画は……だがしかし、たまらなく面白い……マジで何なんだ?
物語を折り返してから段々と加速していく悪ノリに「コイツらは何を言ってるんだ?」と呆然としていると何か激アツなシーンがやってきて気づいたら大団円を迎えていた……。

SEEDシリーズの根幹である「色んなことがあって苦しいけどそれでも人間は自分の意思で生きていかなくちゃね」が一本しっかりと貫かれてるから、どれだけてんやわんやしても話の筋にブレが発生せずとっ散らかった印象にならないんだよね。
何なら今までで一番テーマ性が色濃い作品だったんじゃないか?という気がする。

正直言うと序盤のあたりは本当に「これ大丈夫なのかな……」って感じで心配だったんだけど杞憂に終わったし、何なら序盤がちょっと心配になるのはSEEDのお約束だったわ……と思い出したり。

シリーズ20周年を記念したお祭り作品というのもあってファンサービス的な要素がたっぷりあったのも非常に満足度が高い。
相変わらずブルーコスモスとかいうイデオロギーが無限に火種になってたり、不沈艦アークエンジェルがついに堕ちたり、序盤キラが酷い目にあい続けて可哀想だったり、レスバ最強ラウ・ル・クルーゼをただ一人ゴリ押しでねじ伏せた男キラ・ヤマトが凱旋したり、キラ&ラクスとアスラン&カガリのカップリングにちゃんと決着をつけたり、3馬鹿枠のキャラを倍の6馬鹿に増やしたり、シンを気持ちよく活躍させたり……と、挙げ始めたら切りがない。

お祭りなわけだしどうせなら3馬鹿を倍に増やして6馬鹿にしよう!っていうのはさすがに力技すぎないか?と思わないではない、尺の都合か増やした割に扱いに困っていたような印象も受けた。
ただアコードたちがいたからこそシンが最高に輝いたという側面も強く、一概に悪かったというわけでもない……しかもアコードたち後半ずっと紙一重で噛み合いが悪くて段々気の毒になってくるんだよね、良いキャラたちだと思う。

既存の登場人物たちに関しては結構な期間があいてからの続編だから何かキャラがブレたりしてやいないかと思ってたけど全然変わってなかったのも良かった。
しかもまったく変わってないわけではなく、根本はそのままにこれまでの経験と作中で経過した時間分だけ成長したり変化したりしてるのがやってること細かいな~と思った。

総じてなんか観終わったあと「俺こんなにSEED好きだったんだな……」ってしみじみと思っちゃったよね、最高の映画です。
アスラン、お前がMVPだ、お前がNo.1だよアスラン。


ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ

ほとんど画面の動かない地味な絵面の原作ゲームを一体どうやって映画に仕立てたんだろう……と気になって仕方なくなり、ホラー苦手だけど一念発起して観に行った。
ところどころで挟まる原作ファン向けのサービスシーンに「おっ!」となりつつも終始「こういう感じか……」といった感じの仕上がりだった。
別にネガティブな意味合いではなく、本当に「こういう感じで映画化するんだなぁ」って感心するようなニュアンス。
まあネガティブなニュアンスも含まれてはいるわけですが……。

個人的に「こうなるんじゃないかな?」って予想はあったんだけど蓋を開けてみたらその予想とは180度違う代物が出てきてちょっと困惑した感じはある。

ピザ屋まわりの背景美術がどれもこれもまさしくゲームから飛び出してきたかのようなビジュアルで素晴らしいの一言に尽きる。
作品の象徴でもあるアニマトロニクスたちに関しては本当に丁寧に作られているのが感じられて好印象。
CGだけじゃなくわざわざロボットを作ったりもしたんだってね、情熱が凄い。

ただ残念ながらビジュアル面の丁寧さに対してシナリオ面は結構雑だったと思う。
ネタが揃っていただけにあまりに惜しい。
一流の食材を揃えたけど調理法を間違えた感じだろうか?

ただ加点法で観るか減点法で観るかでこの映画に対する評価はガラリと変わると思うし、何より冒頭でも書いたように原作ファンに対してのサービス精神が旺盛だからFNAF好きな人ほど一見の価値はある。
あとホラー映画だけどそんなに怖くなくて観やすい。
ビックリするシーンはあるけどただのお約束ってだけで予想がつきやすいのも初心者向けって感じだった。


劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦

春高バレー烏野VS音駒戦は映画一本にまとめようって最初に思いついた人、本当にありがとう、それに尽きます。
漫画全部読んでるから話の顛末は全部わかってるんだけど、それでも試合が終わった後の握手のシーンではジン……とくるものがあった。
それにしても作画がイカれるほど良かったな……。


落下の解剖学

謎が謎を呼ぶ法廷ミステリかと思って観に行ったら全然毛色が違った。
謎解きとかトリックとかそういう類のエンタメというよりは人間臭くて生々しいドキュメンタリーのような感触。

一人の男の不審な落下死にまつわる様々な事情が裁判を通じて少しずつ詳らかになっていくことで作品全体の色が次々と変化していくところがすごく特徴的に感じた。
タイトルの「解剖」という単語はこの作品を端的によく表してると思う。
落下死した男(自身の旦那)を殺害したのではないかと言われのない嫌疑をかけられた無辜のヒロインが名誉を取り戻すために戦うストーリーかと思えば、徐々に風向きが変わって「あれ?この女もしかして……」と観客側も疑いの目を持ち始めるよう誘導するストーリーラインが痺れる。

段々と高まるヒロインへのヘイト感情を「検事が高圧的で嫌なヤツすぎる」という一点を使ってギリギリ均衡を保たせているのが上手いな〜と思った。
話のオチにほとんど救いがなく、「え?結局それって……」とモヤモヤするような結末が本当に釈然としない。
そもそも裁判を通じて明らかになる「真相」とやらについても正直「本当にそうなのか?」と思ってしまうくらいには怪しい、かなり意図的にボカしているような気がしてならない。
「裁判は真相を明らかにする場ではなく、最もそれらしい理由づけをするための場である」みたいな話を以前に聞いた覚えがあるけど、この映画はまさにその言葉の通りだな〜と感じる。

何よりヒロインの息子が不憫でならない。
視座が基本的にヒロインなこともあって観客からすると息子はひたすら自身の母親に振り回され続けているように感じられる。
しかし「落下」によって父親を失った今、唯一の寄る方である母親まで失うわけにはいかない彼は健気に母に尽くし、彼の母が望む「最もらしい理由」に導くため必死に頑張るのである。
終盤に差し掛かるとヒロインはおろか弁護士をはじめとした取り巻きたち全員がそんな息子のことを「良いように利用」しているように見えて一種のグロテスクさを演出していたのは果たして意図的なものだったのか何なのか……。

ジンワリと嫌〜な気持ちになりたい時にはいい一本だと思います。
たまにはこういうのも良いかなと思うけどかなりヘビーだった。


ストリーミング or 過去作品

2月は特になし


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