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私がベースボール太極拳を作った訳①

私の仕事は一言で言うと、選手たちのパフォーマンスを引き上げることです。その中でも、主にフィジカル面に携わる者として、身体を鍛えて機能を改善し、投手ならいかにボールに、打者ならいかにバットに大きな力を加えることができるか?あるいは、選手たちがいかに速く走れるか?などといったことを常に考えて実践してきました。それはつまり「力を生み出す」ことばかりを考えていたということです。

しかし長らくこの世界に身を置くと、「力を生み出す」だけでいいのかという発想にたどり着く出会いがありました。私どもが運営するタチリュウジム習志野本店は、来年で10周年を迎えますが、実は開設当初から太極拳の日本チャンピオンの市来崎(いちきざき)大祐氏を招き、太極拳の教室も行っています。

長年、野球漬けだった私にとって、太極拳を目の当たりにする機会はそれまで一度もなく、ジム開設から触れ合うことで今となっては身近なスポーツとなりました。これもひとえに市来崎氏との出会いがあってのことです。

太極拳とは、中国の伝統武術で、彼らにとっては日本のラジオ体操のような存在で健康づくりの定番ともされています。よく中国の方々が朝から非常にゆっくり、ゆったり呼吸を大切にしながら太極拳を行なっているシーンは皆さんもご覧になったことがあると思います。

日本でも老若男女問わず出来る健康法として人気があります。太極拳には、大きく2種類あって、健康増進、シェイプアップとしての主にスローな動きのものと、簡単に言うとジャッキー・チェンさんのカンフーアクションのような競技としての太極拳があります。

あまり知られていませんが、この競技としての太極拳も人気が上がりつつあります。そんな競技太極拳を極めた市来崎氏の動きを見たり、話を聞いたりしていると太極拳の動きの中には「力が抜けるから入る」という理論があります。

この理論については私もわかっていたつもりでしたが、冒頭にも書いた通り、「いかに力を生み出すか?」に目が行き過ぎ、大事なことを置き去りにしていた自分に気づきました。そしてそこからは「力を抜く」ということと、「力を効率よく生み出す」ということの両極を意識する様になりました。

その結果、市来崎氏と何度も話し合い、野球の動きを意識したオリジナルの太極拳を作り出しました。まず私は競技としての太極拳の基本を、当時私が指導していた社会人野球のチームで市来崎氏に来てもらい実践してもらうことにしました。

最初は選手たちも戸惑っていたのですが、次第に「力を抜くから、力が出る」という感覚をつかみ始めます。すると徐々に身体のぎこちなさが薄れ、リラックスし、良い姿勢、パワーポジション(人間が一番力を出しやすい姿勢)が演舞中終始保てるようになりました。さらに、抜けた状態、つまり0の状態から一気に100のスピードが出るようになり、動きの鋭さが驚くほど増したのです。

では実際に野球の動きにおいてどのような変化が生まれたでしょうか。それまでの選手たちは打つ時に、より速いボールを投げ込まれた時、また守っている時、より速い打球が来た時、多くは、より速く対応しなければと、身体に力が入ってしまい、固まってしまい、故にMAXのスピードが出せず、ボールに差し込まれたり、グラブが打球に追いつかなかったりしていました。

太極拳を取り入れてから選手たちは、「力を抜くからより力が入る」ということを何回も体験することできました。したがって、より速い投球や打球が来るような条件下に置かれても、リラックスした状態から100のスピードが出せるようになりました。

この効果は私にも見て取れましたし、多くの選手からの感想としても耳にしています。みなさんも急にとてつもなく速い打球が自分に向かって飛んできた時、一瞬身体に力が入ってしまう感覚は理解できると思います。太極拳を採り入れてから私が見て取れたというのは、こういう場合、僧帽筋(首から肩にかけてある筋肉)に力が入るものなのですが、それが出なくなっていたのです。

このように多くのスポーツには「より速く」「より強く」という場面が多くあります。それをそつなく達成するためには「力が抜けた状態」から入れるからできるのです。

野球選手にとってウエイトトレーニングは今や必須事項です。しかしそのパワーを最大に発揮するためにも、この「抜く」という感覚を多くのアスリートに掴んでもらいたいと思っています。このことがライバルに差を付ける要素にもなるはずです。

そして、もう一つこのベースボール太極拳には大きなメリットがあります。それは、日本では、野球を選んだら野球一筋になりがちな環境で、スポーツ先進国のように多種目の競技を行うことはできないという現実です。

残念ながら、これが日本のスポーツ選手の成長を阻害しています。そのことの解消に一役買うことが出来るようにと作ったのが、このベースボール太極拳でもあります。そのことについて詳しくは次回述べさせて頂きます。


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