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ウォーミングアップについて②

前回の記事ではウォーミングアップ全般についてお話ししましたが、その中でも大切な事は、体(筋)温を上げる事とお伝えしました。

そして、実際、体温を上げる大まかな流れとして、
1・体(筋)温を上げる
2・可動域を広げる
3・動きの中で更に可動域を広げる
4・筋の反応、反射、筋収縮の活性化
5・専門的アップ
という基本的な要素をご紹介しました。

今回はこの要素に基づいて、具体的なプロセスを以下にまとめてみました。
1・ジョギングする前の、軽い膝足首などの体操
2・ジョギング   →体(筋)温を上げる
3・スタティック・ストレッチ(静的。いわゆる動きの無いストレッチ)→可動域確保
4・ダイナミック・ストレッチ(動的。ラジオ体操的な)→動かしながら可動域確保
5・バリステック・ストレッチ(反動を付ける。または走りながら。キャリオカ等)→バネ活性化
6・スプリント(スピードリハーサル)→全力で走れるように
7・アジリティ(敏捷性、切り返し動作)→素早く動けるように
8・キャッチボール等→専門的アップとなります。
以上を見本に実際のアップメニューを組み立てていきます。

一番大切なのはとにかく体(筋)温を上げる事なので、注意すべき点は特に気温の低いこの時期に動きの無いスタティック・ストレッチに時間を割くと折角ジョギングで上がった体温が一気に奪われてしまうということです。

このように季節に応じたプログラムの変更は重要で、冬場のスタティック・ストレッチは短めにします。逆に気温の高い夏場は、最初のジョギングを短くするか、もしくは無くしても良いでしょう。

ダイナミック・ストレッチでは、主に股関節体操や、肩甲骨体操などを行うと良いでしょう。そして、なんと言っても、ウォーミングアップ成功のもう一つの鍵は、バリステック・ストレッチと言っても過言ではありません。

爆発的な力や、身体のキレは人間に備わった「伸張反射」の活性化が重要となります。これは筋肉が急激に伸ばされると、自分の意思とは関係なく筋肉は伸ばされた反対方向に爆発的に収縮しようとする動きのことで、ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)とも呼ばれています。

スポーツ、特にパワーやスピード重視の競技ではこの能力をふんだんに使います。自分の意思とは関係なしにと書きましたが、実は人間の身体活動の神経回路には、意識的に行われるものと、無意識的に行われるものがあるのです。

意識的に身体を動かす場合、脳で考え、脊髄を介して各身体部位に信号を送り、動作が行われます。動作が終われば同じ道筋で信号が脳に戻り、その動きの成功度に応じて次の動きを調整するのです。

無意識的な身体活動の神経回路は、呼吸や代謝、免疫などが挙げられます。例えば心臓の鼓動を担う心筋は意識的に動かす事は出来ないので、誰かに突然、心臓の鼓動を「三三七拍子」で打って下さいと言われても出来ません。

伸張反射、あるいはSSCは、無意識的な神経回路に属します。

では、なぜ人間には伸張反射という能力が備わっているのでしょうか?第一の理由としては、筋肉の断裂を防ぐ、ケガの予防のためです。筋肉の中には「筋紡錘(きんぼうすい)」という感覚器(センサー)があり、筋肉が急激に伸ばされると、これ以上強く伸ばされると筋肉が断裂してしまうと警告を発し、自分の意思とは関係無く伸ばされた反対方向に強く収縮するのです。

よくスタティック・ストレッチで強い反動をつけて行ってはいけませんと言われるのも、このセンサーを稼働させる意味があり、これがあることによって無意識に筋肉を守るのです。

もう一つの伸張反射が人間に備わっている理由は姿勢を保つ、ということです。
誰かに急に押されたり、何かにつまずいたりした時、そのままだと転倒してしまう状況下で、そこから脳で考えて、答えを出してから筋肉に指令を出しても、とてもじゃありませんが動作は間に合わず転倒してしまいます。

そうならない為に無意識に反応してくれるのが伸張反射です。座っていて眠気に襲われ、コックリコックリとすると、これ以上首が曲がると危険だと「ハッ!」と首を上げる無意識の動作がこれに当たります。

つまり、筋肉が急激に伸ばされる→筋紡錘反応→伸張反射が起きる→筋肉が素早く強く収縮するという流れがあり、これが最終的にパワーやキレにつながるということです。

さて、ここで問題です。みなさん、垂直跳びを頭に浮かべて下さい。次の3つの方法のうち、どれが一番高く飛べるか考えてみてください。

1・はじめから膝を曲げた状態で準備し、その曲げたままから膝を伸ばしジャンプする。
2・真っ直ぐ立った状態から、一度一気にしゃがみ込み膝を曲げてからジャンプする。
3・少し高い台から飛び降りてから、一気にジャンプする。

想像して頂くとご理解してもらえると思いますが、1では、筋肉は全く引き伸ばされてはいません。2では、1よりもしゃがみ込むことで上に飛ぶための筋群が引き伸ばされます。

さらに、3は少し高い台から飛び降りることで、接地した時筋肉はこの3つのジャンプの中では一番急激に筋肉が引き伸ばされることになり、伸張反射が一番活性されるのがわかります。つまり正解は3→2→1と高く飛べる順番になります。

とある先行研究では、伸長反射が活性化された場合のほうが、されてない時よりも筋出力が18〜30%もアップされると言われています。これを跳躍力に換算すると2〜4cmも違ってくるのです。この違いはパワー系スピード系のスポーツには相当大きな違いになってきます。

如何に体(筋)温を上げる事と伸張反射を活性化させる事がハイパフォーマンスを発揮する為に重要かお判りいただけたかと思います。

次回もウォーミングアップについて、更に掘り下げて気温の低いこの時期に行いたい実際の方法をお伝えさせてください。

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