賃貸の立退交渉で200万円以上もらった体験談
本記事の立退の続編として 男同士が理想の賃貸マンションを見つけるまでの苦労話 も書いているのでよかったらこちらもどうぞ。LGBT関係なく、人気の物件に一番乗りで申し込むコツも書いてます。
このNOTEについて
こんにちは、私は東京都に住むおじさんです。
私は2018年、住んでいたマンションの立ち退きに遭いました。
この時、弁護士に無料相談してほとんどお金をかけずに立退料を実質200万円以上もらうことができました。このNOTEではその一部始終と、その時に意識した&学んだ立ち退き交渉のポイントをお伝えしたいと思います。
注意:自分の調べたことや体験したことだけ書いています。法律家ではないので記述に不正確な内容が含まれている可能性があります。
注意:本人バレ防止のために、一部の内容を意図的に変えています。
1.はじまりは手紙から
2018年3月。ある日、仕事から帰るとポストに手紙が入っていました。手紙を見ると差出人は見知らぬ不動産会社から。手紙には以下のように書いてありました。
この度、このマンションのオーナーからビルを買い取り、私たちが新しいオーナーになりました。それにともない、住民の皆様と一度面談を行わせていただきたく存じます。
私はこの時まだ状況がわかっておらず、「新しい大家として住民と顔合わせするのかな?」くらいに呑気にかまえていました。
2.初回の面談。突然の立ち退き要求
不動産会社の担当者と会ったのは4月の上旬。担当者は非常ににこやかな方。丁寧に面談のお礼を言われ、箱入りのお菓子までいただきました。ただの顔合わせのはずなのになぜお菓子…?
テーブルに着くと、徐々に本題の立ち退きの話に入りました。まとめると、以下とのこと。
・このマンションは取り壊して新しいビルを建てたい
・だから住民には11月末までに出ていって欲しい
・そのかわり来月5月〜11月までの家賃は無料にします(つまり最大7ヵ月間無料ってこと)
・今後8月に生じる予定だった賃貸の更新料も支払い不要です
・引っ越し代金は全額負担します
・このビルは壊すので、敷金も全額返金します
えええ、11月まで!
まだ半年あるけど、引っ越し先を決められるかなあ。しかも自分には引っ越しが難しい事情があるしどうしよう。でも8月に更新の予定だったから、更新料払わなくて良いのはラッキーかも?いろいろな思いが頭をよぎります。
突然のことで驚きましたが、こういう時は、その場で判断せずに持ち帰るのが鉄則です。先方から渡された書類は持ち帰り、後日メールで返答することを伝えました。
【ポイント】 担当者は過去にも立ち退きをたくさん経験してるプロ。素人がその場で何を言っても負けるので、その場は「そちらの要望はわかりました」とだけ答えて、あとはすべて持ち帰りましょう。
【ポイント】 言った言わないはあとあとモメるので、交渉はメールでやりとりしましょう。
3.いろいろ調べて、いったん「嫌です」と言ってみた
住んでるマンションが立ち退きに遭うなんて経験、なかなか無いと思います。自分もこれが初めてのこと。どうすればいいかまったくわからない。
ただ昔、賃貸では大家よりも住民の方がとても有利ってことだけは聞いたことがありました。
「そもそもこれって、出て行く必要が本当にあるんだろうか?」
気になって調べてみました。
その結果、賃貸の立ち退きでは双方の正当性がポイントなようです。
大家側は、住民を立ち退かせるのに正当な理由があるのか。
住民側は、住み続けるのに正当な理由があるのか。
この両者の綱引きで住民の正当性が高ければ高いほど住民側にとって良く、立退料も大きくなるみたいです。
例えば大家側だと「大家の娘をこの部屋に住まわせたいから住民が出て行ってください」というのは、大家の要望でしかないので正当性が低い。でも「このビルはもう老朽化して危険なので建て替えないといけません」というのは、住民の生命に関わるので正当性が高いようです。
逆に住民側だと「独居老人なので引っ越し先がなかなか見つからないんです」というのは、いまの賃貸に住み続ける必要性が高いので、正当性が高いことになります。
うちのマンションは老朽化してるんだろうか?
マンションの築年数を調べてみると、うちは築46年でした。マンションは大体築50年くらいになると建て替えの目安になるそうです。ということは、先方の立ち退き要求にも一定の正当性があるってことなのかなあ。
だとすると、こちらも住民としての正当性を主張しないといけません。私は同性のパートナーと暮らしているので、同性同士で住める賃貸を見つけるのは非常に苦労します。(以前は希望の物件があっても「同性同士だとルームシェア扱いだからこの物件は貸せません」と断られることが非常に多かったです…。今は改善されてるといいなあ)
また、私はこのころ転職を検討していたので、転職したばかりだと賃貸審査で不利になるかもしれません。
とりあえずこのあたりを、自分の住民としての正当性にすることにしました。
次に、立ち退くとしたら立退料の相場はどれくらいなんだろう?
ググると立退料は、家賃の6〜10ヵ月が相場らしいです。
今回自分が受けた提案は5月〜11月まで(最大7ヵ月)家賃無料です。でも、そんなに都合よく11月ギリギリまで住めて良い物件に引っ越せるとは思えない。余裕を持って少し前倒して退去すると考えたら、実質5ヵ月くらいしかメリットないんだろうな…。
そこで先方に、以下の内容でメールしてみました。
・考えたけどやっぱり嫌です
・うちは同居の同性パートナーもいるし、引っ越しは簡単じゃないんです
・ちょうど転職だってするかもしれないし大変です
・もっと良い提案が欲しいです
・とりあえず来月以降も家賃は払います
・新しい振込先を教えてください
すると先方からは、今回は無料の提案をしているので振込は不要ですと返信があり、一週間後にまた会うことになりました。
【ポイント】 立ち退き交渉では、家賃を払っていないと住民の側に非があるとされ交渉で不利になることがあるようです。今回は先方から家賃不要とメールで回答があったので良かったですが、立ち退き交渉中でも基本的に家賃は払い続ける必要があります。
もしも口頭で家賃は不要と言われても、後で揉めた時に「この人は家賃を払わない不良住民です!」と言われたら反論できません。ちゃんとメールで証拠を残す必要があります。
また、大家が家賃を受取拒否する事態が生じた場合も、家賃を払いつづける必要があります。その時は供託という手段を使って「住民としての支払義務はちゃんと果たしてますよ!」という証明が必要なようです。
4.「嫌です」とは言ったものの、それからどうする?
さて、一週間後の面談では何を話そう。
とりあえず今の提案は嫌だと言ったものの、これ以上は何を言えば良いかわからない。立退料を今より少しでも多くもらうにはどうすればいいんだろう? そもそもこういう場合、立退料って実際はどれくらいもらえるものなんだろう?
今度は立退料の相談ができるところを探してみます。
まず「東京 弁護士 立退 相談 無料」あたりのキーワードでググってみました。
でもこれは良くありませんでした。無料で相談できるのは、法人や店舗の立ち退きを担当する弁護士ばかり。個人の立ち退きは、弁護士からするとお金にならないのかもしれません。
次に、東京都庁で弁護士に無料相談できる「東京都不動産取引特別相談室」という法律相談を見つけました。
これはまったくの無駄でした。私はググっても見つからない立退料の実際の相場や立退料を増やすコツが知りたいのに、何度聞いても弁護士は「立退料は大家と住民の同意で決まります」「双方が同意すればどんな金額でもありえます」「相場はありません」としか言わない。そんな一般論はいらないんだよ。俺は現場のリアルが知りたいんだよ!
しかもここはたった20分しか相談を受け付けてくれない。事前準備してがんばって手短に相談したのに、結局、ググってわかる程度のことしか教えてもらえませんでした。
でもここであきらめてはいけない。
その次は、弁護士ドットコムというサイトを見つけました。弁護士ドットコムでは、国内の弁護士が多数登録されていて検索できるようになっています。
・東京都
・不動産問題に対応できる
・休日相談可能
・初回無料相談可能
のような項目で検索すると、条件に該当する弁護士がたくさん出てきます。
近所の弁護士に何人か電話してみたところ、大家側として住民を立ち退かせたことも、住民側として立ち退き拒否したことも、両方経験がある弁護士がいたのでその人に会ってみることにしました。
【ポイント】 立ち退き交渉は、弁護士ドットコムで大家・住民両方の立ち退き経験がある弁護士を探して無料相談するのが一番おすすめです。
5.弁護士から衝撃のアドバイス
弁護士ドットコムで見つけた弁護士さんとは、1時間無料で対面で相談できました。
相談当日、賃貸契約書や先方からの書面などを持参して、これまでの経緯を話します。
一通り説明して、「今回の場合はどれくらいの立退料を要求すれば良さそうですか?」と質問すると、弁護士さんは「自分だったら家賃2年分は請求しますね」と言いました。
2年分????
24ヵ月分ってこと????
相場は6〜10ヵ月じゃないの????
弁護士さんは以下のように言いました。
・不動産会社は建て替えの計画を考えてそのマンションを購入したので、もし裁判になったり長期化したら計画が狂って大損になるはず
・だから不動産会社はそれなりに金払ってでも住民に立ち退いて欲しい
・不動産会社が最初に提示した条件はあくまで最低限のもの。裏ではそれ以上の予算を必ず持っている
・自分が弁護士として立ち退かせる側を担当する時は、不動産会社に一室あたり150万円くらいの立ち退き料を準備してもらっている
・こういう交渉は値引きされるものだから、最初はガツンと強気にいって全然OK
でも相場は6〜10ヵ月らしいのに、どうやって24ヵ月払えとか不動産会社に言えばいいんだろう…。理不尽な気もするし、担当者から怒られないかな。
不安になって弁護士さんに相談すると、
「今回は契約更新できたら、もうあと2年住めたはずだから家賃2年分くれ」って言えば良い。根拠なんて無い
とのことでした。
契約更新できたら2年住めたはず。だから家賃2年分くれ????
無茶苦茶すぎる。
でも弁護士が言うからにはそういうもんらしいです。やっぱりリアルの現場は違うなー。1時間無料でガッツリ相談できたのは本当に役立ちました。
ちなみに当時のうちの家賃は月14万円です。
14万円×24ヵ月ってことは…、なんと336万円!
6.勇気を出して「336万円ください」
弁護士さんのアドバイス通り、とりあえずは336万円を請求してみることにしました。
でもそんなの、面談当日、担当者に向かって言える気がしないな…。なんて顔して336万円もくださいって言えばいいんだろう。なので面談の二日前に、メールで送ってみることにしました。
今回の件、初回の面談は4月で、次回更新時期は8月でした。
告知から更新まで半年を切っており、本来ならばこの更新はできたはずでした。まだあと二年間は住むことができましたので、立退料は二年分の賃料(336万円)をお支払いくださいますようお願いいたします。
こんなメール、人生で初めて送ったよ…。
面談当日はどうなるんだろう。不安な気持ちをおさえつつ、その日は寝ました。
【ポイント】 大家が住民を立ち退かせるには、契約更新の1年前から6ヵ月前までに更新しないという通知をすることと、正当事由(最初に書いた「正当性」のこと)があることの、二つの条件が揃っている必要があります。
今回は契約更新の4ヵ月前での立ち退き依頼なので1番目の条件をクリアしていません。そのため私が望めば、契約更新して少なくともあと2年は必ず住むことができるはずでした。今思えば今回はそもそも立ち退きの必要条件をクリアできていないので、ここが一番大きな交渉ポイントだった気がします。
当初は同性パートナーとか転職とかの正当性を一生懸命考えたけど、そこはあんまり関係なかったかも。
7.二回目の面談。突然の条件UP!
面談当日、この日も担当者の方は非常に丁寧でにこやかでした。
ただ、請求した336万円についてはやんわりと断りつつ、「こういったご要望はうちの弁護士でもなかなか聞いたことが無いですよ~」「あまりにもご要望が過ぎると、弊社としてもこれ以上は弁護士が担当をせざるを得なくなるかもしれませんね~」みたいなことを言われました。これって、あんまりガタガタぬかすと弁護士出して裁判するぞってことかな?こわい…。
ただ、このあと大きく話が変わりました。
「通常はこのような対応はしていないのですが」という前置きのあと、
これまでの提案に加えて
・引っ越し先の敷金、礼金、仲介手数料、初月家賃など、必要な一時金を全て負担する
・立退料として家賃1ヵ月分を支払う
という追加提案がありました。
あれ?
メール一本でこんなに提案が変わるの?
すごくない?
敷金、礼金、仲介手数料、初月家賃、立退料(家賃1ヵ月分)ってことは、だいたい家賃5ヵ月分(70万円分)は増えたわけです!すごい!うれしい!
内心かなり喜びつつも、まだ安心してはいけない。喜んでいることはけっして態度には出しません。その場は新条件の契約書を受け取り、今回も持ち帰ってメールで返答することにしました。
8.弁護士の話を聞き、色気を出してしまう私
それにしても一本のメールでこんなに対応が変わるとは思いませんでした。最初は300万円以上くれとか言うなんてどうかしてると思いましたが、何でも言ってみるもんですね。
ただ、良い提案が出てきたとはいえ自分はしょせん素人。契約書の内容をよくわからずにこのまま契約しちゃうと、あとで大失敗してしまうこともあるかもしれません。
それに今回は弁護士さんのアドバイスが非常に役立ったので、弁護士さんに5万円払って、新しい契約書に変なところがないかを確認してもらいまいました。結果、契約書の内容は特に問題ありませんでした。良かった。
また、先方の追加提案についても聞いてみたところ、弁護士さんは、「家賃無料は立退料とは関係ない。自分なら家賃無料分とは別で立退料1年分(168万円)はもらえるように目指す」「もしあなたたちが退去しなかったら、先方が失う損失は莫大なんですよ」とのことでした。弁護士、つよい…。
弁護士さんの話を聞いて、立ち退き交渉って、相手の弱みをどこまで突けるか追求するチキンレースなんだなと思いました。
不動産会社からの追加提案にかなり満足していた私ですが、弁護士のまだイケるとの言葉を信じて、ちょっと色気を出して不動産会社にメールしてみました。
「追加提案の立ち退き料1ヵ月から、もう2ヵ月(28万円)だけ上乗せしてください。それで良ければ、あとはもらった契約書の内容で文句なく締結します」
契約書の確認はすでに済んでいますし、延々とゴネ続けそうな奴と思われるのも嫌なので、あと2ヵ月だけ立退料を呑んでくれたら必ず契約しますという意思を見せてみました。
先方からは「いったん検討します」という返事。
そして数日後、「この条件でOKです」という返事がありました。
やった…!
立退料の値上げもできた…!
もちろんこちらも快諾です。
このやりとりがあったのは5月末。4月明けの面談から始まり、2ヵ月弱ほどかかった立ち退き交渉は、こうして終わったのでした。
【ポイント】 新しい契約書には、新住居の費用負担について「移転先の住居の契約一時金を支払う」としか記載がありませんでした。
弁護士さんはこの記載で大丈夫じゃないかとのことでしたが、自分はあとで一時金の解釈が違ったりすると嫌なので、不動産会社に「契約一時金とは、敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料、保証料、前払い家賃のことですよね?」とメールで確認を取ったりもしました。契約書で気になる内容は、メールで確認するとより安心かと思います。
9.結果発表。交渉でどれくらい得したの?
立ち退きの契約署にサインした後、私はパートナーと必死で引っ越し先を探し、無事9月に新居へ引っ越すことができました。(これはこれでとっても大変だった。いつかまたブログに書きたい)
以下、交渉前と交渉後でどう変わったか比較してみます。
旧住所は実質5ヵ月間無料で住めたので、当初の不動産会社の提案通り立ち退きしていた場合のメリットは以下でした。
旧住居家賃無料分 700,000円
引っ越し代 100,000円
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800,000円
※引っ越し会社は不動産会社が手配したので、私は金額は把握していません。引っ越し時期が繁忙期だったのと、自分は何もせずスタッフが梱包・荷解き・設置全てやってくれる便利なプランで、ネットの情報から推定して10万円としました。
交渉後の追加提案を加えると、以下になります。
旧住居家賃無料分 700,000円
引っ越し代 100,000円
新住居一時金 900,000円
※敷金、礼金、保証会社費用、初月家賃、鍵交換代、火災保険料など
立退料3ヵ月分 420,000円
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2,120,000円
交渉したことで、当初の提案よりも132万円分多い立退料が得られたのでした。
弁護士さんには契約書確認で5万円払いましたが、役立つアドバイスももらえたし、この結果を思うと非常に有益なコストだったと思います。
当初調べた時の立退料の相場は家賃の6〜10ヵ月分という基準から比べると、今回は14〜15ヵ月分くらい(家賃無料など実質的な金銭メリットも含む)なので、良い結果になったのではないかと思います。
これとは別に、もちろん敷金も全額返却されました。
10.まとめ
立ち退き交渉ははじめての経験でしたので、うまく交渉できるのか、期限までに引っ越せるのか、不安が多くありました。自分で調べたり弁護士に聞きに行ったりと初めてのことが多く疲れましたが、勉強になることも非常に多かったです。また、立退料も増額できて本当に良かったです。立退料は全部、新居の家具や家電に使いました。
立ち退きを経験する方の中には、よくわからないままに立ち退きを要求されて、ほとんど保証もなく住居を追い出される人もいるようです。
自分の経験は一例ではありますが、立ち退きを要求されて不安に感じている方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。
本記事の立退の続編として 男同士が理想の賃貸マンションを見つけるまでの苦労話 も書いているのでよかったらこちらもどうぞ。LGBT関係なく、人気の物件に一番乗りで申し込むコツも書いてます。