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農業総産出額の推移からみた日本の食料安全保障
農業を数字で見る方法がないかと探していて目についたのが「農業総産出額」という統計データです。
数字で農業を見るためには、いろんな言葉を覚えないと何を言っているのか分からなくなりますよね。
「農業総産出額」もその言葉の一つ。
「農業総産出額」とは基本的に、農業における最終生産物の総産出額。
イメージしていた概念と一致でうれしい。
でも条件があって、全国を一つの単位として「最終生産物となる農産物を生産するために再投入される中間生産物」を計上しない純粋な産出額だそうです。
この農業総産出額と似た言葉が「農業産出額」。
似ているんだけど、実はちょっと違うんですよね。
全国を単位とする農業総産出額と違い、農業産出額は基本的に都道府県単位の数値。
さらに農業総産出額には含まない中間生産物も含めた金額になるのです。
農業総産出額の推移
ではさっそく農業総産出額の推移を可視化してみましょう。
農業総産出額の推移は1955年から2017年のデータを農林水産省から持ってきました。
![](https://assets.st-note.com/img/1661759985613-4I1eWsyvJx.jpg?width=800)
https://www.e-stat.go.jp/
作成した農業総産出額のグラフを見てみると、1955年から上昇を続け1984年にピークを迎えますが、1994年から減少、2010年からは再び緩やかに上昇しています。
農業総産出額が1984年に最高値
農業総産出額が最高値を付けたのが1984年という、まさに日本にバブル景気が訪れたときでした。
農業総産出額は11兆7千億円にたっし、その後約10年余りは微減しながらも平均で11兆1千億円。
しかし1984年以降は下降はなぜか下降を続け、バブル期の水準まで戻っていません。
では1984年以降、農業総産出額に影響を与えたと思われる出来事を各年ごとに調べてみました。
1985年プラザ合意(円高)
1985年のプラザ合意によって、急激な円高が進み株価や地価等の価格が急騰しバブル経済を引き起こしたと言われている。
さらに地価上昇は農地の転用期待を高め、農地の非農地化の需要が拡大することで、都市近郊の農地の住宅化が進んだと考えられます。(バブル・デフレ期の日本の食料・農業問題)
1986年 ウルグアイラウンド(GATT)
1986年には、後に農業政策に多大な影響を与えることになるGATT ウルグアイラウンドが開始されています。
また内閣総理大臣の諮問機関である農政審議会の「21世紀に向けての農政の基本方向」の答申では,「産業として自立しうる農業の確立を目指し,中核農家や生産組織への農地集積,水田農業の確立,生産コスト削減などを提言」ました。
つまり農業は国の安全保障の一つという考え方から、市場原理に沿ったビジネスとしての農業に変革される初めの年と考えられます。
1987年生産者米価引き下げ
1987年には、コメ余りや自由貿易を求める内外の圧力によって政府のコメ買取価格が引き下げられました。
https://blog.goo.ne.jp/morinoizumi33/e/1410fabd800c31d723db9edd6905bec8
データを確認する必要はありますが、コメを他の作物生産に振り替え、または農業そのものをやめてしまうこともあったのではないかと考えられます。
1988年冷害
1988年に主に東北地方を襲った冷害の影響により、農業総産出額が落ち込んだことは容易に想像できます。
他業種と比較した農業総所得金額においても、農業のみ約36%ほどの減少となっていました。
1989年消費税導入
1989年4月から3%の消費税が導入されています。
農業総産出額は消費税の影響をそれほど受けていないように見え、むしろ額が増えています。
しかし前年の冷害からの回復が、消費税の産出額への影響を見えなくしてしまっているのではないでしょうか。
1990年自主流通米についての入札が開始
政府の管理下に置かれていた米価が、銘柄ごとに需給によって取引されるようになり生産者による生産競争が開始されたのが1990年。
農政は、さらに新自由主義的な色合いを濃くしていきました。
1991年牛肉オレンジ自由化
1991年には牛肉やオレンジが自由化されたことで、海外、特にアメリカ産の牛肉やオレンジが流入。
データの検証が必要ですが、これが原因となって農業総産出額額に影響が出たのではないかと考えられます。
そしてこの年から、農業総産出額は下降を続け1991年代の水準に戻ることもなくなっていきます。
1993年冷害 米騒動
1993年は、火山の噴火や異常気象による天候不順によって記録的な大冷夏。
米の収量が前年比74.1%まで落ち込むことで、急遽海外のコメを輸入する事態にまで発展しています。
1994年 GATT 交渉妥結
おそらくは前年の冷夏による生産額の落ち込みから、回復した年であるように見えます。
しかし、GATT ウルグアイラウンドの交渉妥結により、WTOが設立されることが決定。
農産物を含む貿易品目の関税撤廃に向けた動きに拍車がかかることになりました。
1995年 米流通自由化
1995年には、食糧管理法に代わる食糧法が施行され政府が管理するのは備蓄米とミニマム・アクセス米だけになりました。
https://news.nissyoku.co.jp/today/627269
つまり農家の自由競争が始まったわけですが、農業総産出額は伸びるどころか逆に長年の低迷を招いているようです。
2014年以降の農業総産出額上昇の原因
2014年以前まで低迷していた農業総産出額が上昇を続けている理由を少し調べてみると、面白い記事を見つけることができた。
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/252376/011800128/?P=2
米に関して言えば、減反政策による需給の調整による米価格の官製相場が作り上げられているということです。
確かに国が意図的に需給を作り上げれば米価は上昇しひいては農業総産出額の上昇に寄与すると思った次第です。
さらに野菜においては、国産野菜のニーズが高まったことによる価格上昇が原因らしいですね。
まとめ
農業総産出額についてあれこれを見てきました。
産出額の低迷や自給率の長期低迷は気象条件などもあるようですが、どうやら1980年代から始まった規制緩和や自由貿易などが影響を与えているのではないか、という印象を受けます。
もちろん各事象においてデータを見てみる必要があるので、早急に結論を出すことはできませんが、検証してみることで、日本の食料安全保障政策がどう扱われてきたのかがわかるかもしれません。
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