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キリスト教のための国。世界最小国家『バチカン市国』の歴史

みなさんこんにちは!いくにです。
初めましての方は初めまして。

現在マグカン(マッグガーデン関西事業部)で『おおきくて窮屈なこの世界で。』という漫画を連載しています、漫画家のあすかいくにと申します。

私は生粋のイタリア好きでございまして、何を隠そうこちらの漫画も「イタリア」を舞台にした作品でございます。

時は1920年。第一次世界大戦の傷が少し癒えた大正時代、大阪でひとり親戚と暮らす七星は、あるイタリア人飛行士との出会いでイタリアへ渡航することに。当時はまだ多くの国民にとって未知の世界だった異国の地へ旅立った、1人の少年の物語です。


この物語の中で主人公・七星は、イタリアの中にある《バチカン》という場所へ向かいます。今回の記事の主役です。

「ン?イタリアなのにバチカン?」
と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。『バチカン』という地名自体は聞いたことある方も多いのではないでしょうか?私はゆとり世代ですが、少しだけ世界地理で習った記憶があります。ただ一言、《世界一小さな国》と。


私はバチカン市国が好きです。

キリスト教信仰ではありませんが、その国の持つ異質さや歴史がとても面白く興味深いからです。その「異質さ」は、他の国にはあまりない、いや世界唯一と言っていいことがたくさんあります。

その「異質さ」一例がこちら。

1…イタリアの、ローマ市内にある。周囲はイタリアに囲まれている。
2…大きさは某テーマパークより小さい。
3…バチカンに住んでるのは、教皇ただひとり?!


今回の記事ではこれらの「他にない異質な特徴」と、「なぜそうなったのか?」についてお話ししていきます。キリスト教、ないしはバチカンを知れば、世界史(特にヨーロッパ)がうんとわかりやすくなります。

実はバチカンの歴史には、ナポレオンやフランス革命、イタリアの誕生、第一次・二次世界大戦など多くの歴史的事件が深く関係しています。紐付けて知り因果関係が理解できれば、世界史はただ覚えるものから知識へと昇華できること間違いなしです!


それでは長い記事になるかと思いますが、目次も活用しつつお楽しみいただければ幸いです。


1。バチカンは、ローマの中にある!?


まずはバチカンの地理から。
バチカンがどこにあるかはご存知でしょうか?

正解はこちら。


…あれ?と思う方もいらっしゃるかもしれません。
右手にイタリア、下も上も左もイタリア。

そう、なんと世界最小の国バチカンは、「イタリアの内部にある」国なんです!もっと言うと、イタリアの、首都の、ローマ市内にある国!


日本的に分かりやすく例えるならあば…。
日本の首都東京には皇居がありますよね?あの皇居一体は別の国で法律も違う…と考えるといいかなと。バチカンより皇居の方がうんと広いですが。日本人が皇居を特別な場所・大切な場所と思う気持ちと、イタリア人にとってのバチカンは同じくらい大切かなと思います。



先ほど、【バチカンは皇居よりうんと小さい】とお話ししました。一体バチカンはどれくらいの大きさ七日?なんと、0.44平方キロメートル。これがどれくらいの大きさかというと、東京ディズニーランドよりも小さいんです。


つまり、一日ぶらぶら歩ける大きさ。
とはいえバチカンはその国土全てが開放されているわけではなく、一般観光客が入れるのはほんの一部。私たちが目にする範囲はさらに狭いということになります。


とはいえバチカン内は国土全てが世界遺産と言っても過言でないほど、歴史的・芸術的に重要な品々が数多展示されています。歩けば床も、天井も作品…のような場所です。

そのためいくら小さいとはいえ、バチカンを1日で見て回るのは到底無理。と言うのが、実際現地に行った方々の感想です。

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-そもそもバチカンってどんな場所?

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そんなテーマパークにも満たない大きさでありながら、バチカン市国はどんな国よりも影響力が強いと言っても過言ではありません。

なぜか?


それは世界一の信仰者数を誇る宗教・《キリスト教・カトリック》の総本山だからです。日本で言うところの伊勢神宮のような、キリスト教信者にとってとても大切な、小さくも心の大部分を支える場所であるということです。


イタリア国民は過半数がキリスト・カトリックを信仰しています。そのため周囲を覆うイタリアの国民にとって、とても大切な場所であることは言わずもがな。

それは当然イタリアに限らず、隣国やアメリカなどの離れた国であっても、カトリックを信仰する人にとっては同じことです。



-カトリックって?

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ここまでお話しするにあたり、私が「キリスト教」ではなく「キリスト教・カトリック」「カトリック」と発言していることにお気づきでしょうか?ただの言い間違いなどではなく、明確に「キリスト教」と言う単語と分けて使用しています。


キリスト教には、仏教など他の宗教と同じようにいくつかの宗派があります。「カトリック」はその宗派の一派であり、他には「プロテスタント」「正教会」などが有名です。歴史の授業などで聞いたことある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

特に有名なのが、カトリックとプロテスタント。

カトリックは「教皇」が存在し、教会内に「序列」があるのが特徴です。一方プロテスタントはこの序列がなく、信者も教会従事者も地位は一緒であり、神だけが上に立つという考え方です。根本的な考え方が違ういますが、信仰する聖書は同じです。


漫画とかでもありますよね、主人公はヒロインの誰とくっつくか問題。同じ作品を読んでるのに解釈が違ったり。あぁいった状況と似てると思っていただければ分かりやすいかもです。

この2つの宗派が分かれるきっかけとなったのが、かの有名な【宗教革命】です。ここまで考え方が違えば分かれるのは当然の結果ですが、全ての引き金になったのは「教会の贖宥状発行」です。


この辺りはゆとり世代でも世界史で習いましたぞ。
今の学生がどのくらいの深度まで学んでいるのか私には不明ですが…。「贖宥状(しょくゆうじょう)」とは、罪を免除しますよ、という証明証みたいなものです。


ここから、なぜ分かれることになったのか?
因果関係やキリスト教自体のあり方を混ぜながら理解しやすいようお話しします。分かりやすさ重視にしてるので言い方が若干強引・乱雑なところもありますご了承ください。


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まず第一に、キリスト教では【天国に行くこと】がとても大切な意味を為しています。皆【天国に行くため】、この世でよい行いをしよう、と言う考え方が根本的にあると思ってください。

もし悪いことをした場合は、教会で「告白」をし、罪を話して懺悔します。よく教会を扱った漫画やドラマである、「罪深い私をお許しください。」と言うのはそういった文化から生まれる発言なわけです。

しかし16世紀ごろ、資金難に陥っていた教会はこの信者の弱みに漬け込みます。それが【贖宥状の発行】です。

あろうことか当時の教会は、罪を犯した人に『この贖宥状を買えば罪は許され、天国に行けます。』と吹聴したのです。そしてそれに安心した信者に高値で贖宥状を買わせ、懐を潤わせました。


その結果罪は金で解決できるという、教会や聖書の本来のあり方から遠く離れた結果となってしまった。それに異議を唱えたのが、【マルティン・ルター】率いるのちのプロテスタント一派です。


彼らは「福音主義」を唱えます。

福音とは、聖書のこと。つまり「もう一度聖書の本来の在り方に立ち帰ろう!」と教会のあり方を批判しました。そしてそれに賛同した者たちが教会から分離し、プロテスタントは誕生しました。


ではカトリックは聖書を無視して金を巻き上げるメチャクチャな一派じゃないか!と思ってしまいますね。確かにカトリックは度々こういった“世俗的”と言われる言動が批判を浴びています。


ですがその根本の考え方はプロテスタントとはまた違った、聖書を土台にした実に「人間と神の間に立つ」を体現した宗派です。


それを象徴するのが、【教皇】の存在ですね。

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2022年現在の教皇・フランシスコ。

ちなみに、「ローマ法王」も「教皇」も同じ人を指す言葉です。日本語として訳が二つあるだけ。現在は「教皇」での表記統一がなされています。


教皇とは、【全カトリック信者の代表者】と思えば分かりやすいかなと思います。そして、【人間界における、神の代弁者】です。

「地位の差がなく、誰でも神のお告げを受けられる」と考えるプロテスタントと違い、カトリックでは『教皇だけが神のお告げを聞くことができる。私たちの代わりに神の声を聞いて届けてくださる。』と考えているのです。


そしてその教皇の下には、世界中の神父の中から選ばれた『枢機卿』が存在し、またさらに下に他の役職があり、一番下に一般の信者が存在します。完全な序列制です。


これがバチカンが一つの国として機能している、バチカン内の政治的な部分でもあります。日本など他国と同じように、教皇が大統領・総理大臣であり、枢機卿が国会議員なのです。


この詳しい序列、また教皇の権威の象徴である【天国の鍵】に関しては、私の漫画の第3話で語っていますので気になる方は是非2022年5月13日発売のコミックス第1巻・第3話をお読みください😊(しっかり宣伝していく)

※2022年4月以降、1・2話、最新話以外はコミックスでのみ読むことができます。


教皇を選ぶ儀式は《コンクラーべ》といい、全枢機卿の中から投票で選ばれます。この辺りも国の代表を選ぶ感じと似てますね。コンクラーべの中の様子は伺えませんが、外の広場に集う信者の様子は動画で見ることができます。


これは前回のコンクラーべ時の記事です。
日本でも数年前、ご存命の間に天皇が退位なされましたが、実は前教皇も同じように、ご存命の間に退位されました。

本来教皇は《殉職》してから選挙が行われるため、異例の事態だったそうです。個人的にこういう、「望んでない慣習」は改善されていくのが望ましいと思ってるので嬉しくなるニュースでした。



2.ディスニーランドサイズの国。

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先の章で、バチカンの小ささについては少しお話ししました。

皇居よりも小さく、その大きさは0.44平方キロメートル。東京ディズニーランドよりも小さな君主国家。それがバチカン四国です。

そんな小さな国ですが、行った人がみんな口を揃えて言うのが『あそこを数時間で全て見て回るのは無謀だった。』。


ディズニーランドより小さく、その上一般人が立ち入れる場所はさらに限られているにもかかわらず…です。私自身は行ったことがないのでその意味を真に理解することはできませんが、想像することはできます。

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バチカン美術館の壮麗な廊下。

これは、恐らくバチカン内にある『バチカン美術館』の廊下の一部です。

右も芸術作品、左も芸術作品、天井もその先も芸術作品。こんな光景がバチカン建物内では永遠と続きます。


そして至る建物・芸術作品が歴史的に貴重なものばかり。圧倒される、とはまさにこのことでしょう。置き場所がなかったのか!?と言わんばかりにぎっしりと芸術品が並べられていますね。これが展示などではなく、廊下だというのだから驚きです。



ーなぜそんなに小さいの?


「どの国より小さく、どの国より影響力がある」とお話ししました。しかし、なぜそれほどまでの信仰を集めるカトリックの聖地であり教皇の住む国がこんなに小さいのでしょうか?


それは歴史的な背景が関係しています。
(ここからまた大雑把なお話になりますので、なんとなく理解する感じで聞いてもらえると嬉しいです。)

バチカン市国は、元々はイタリア半島にある『教皇領』という土地(国)が前身でした。そこはイタリアでも多くの国民が信仰するカトリックの最高位・教皇が治めていました。

しかし時が進むにつれてイタリア半島内で「統一運動」が活発化。教皇領の周りもどんどんイタリア統一国家として組み込まれていく中で領地縮小を懸念したバチカンは、周囲を囲むローマ・ないしはイタリアとの関係を断絶。

つまりは、引きこもりです。


なんとかフランス軍に守ってもらってバチカンを保っていたけど、フランスはフランスでプロイセン(ドイツの前身)との戦争が始まっちゃってお国に帰ってしまう始末。


結果バチカンはイタリア国の一部になってしまいました。


しかしそれを認めないバチカンはそれ以降も引きこもりを継続、自らを「バチカンの囚人」と称して以降50年以上引きこもり続けます。
このイタリア・バチカン間の問題は「ローマ問題」と呼ばれていましたが、のちにイタリア国内の政治にも大きな影響を与えていきます。


このローマ問題が解決したのは、1929年のこと。

当時のイタリア首相・ムッソリーニはバチカンが教皇領の権利を破棄する代わりに、バチカンを独立国家として認めること・ローマ内の一部地域での治外法権(その建物内ではバチカンの法律が適応されること)、そしてイタリア国内におけるカトリックの特別な地位を補償すると約束を交わしました。

これが、「ラテラノ条約」です。


この条約は国民にも幅広く支持され、バチカンとの和解を世界的にアピールするためにバチカンへ通ずる大きな道・「和解の道 (Via della Conciliazione)」が舗装されました。


Ron PorterによるPixabayからの画像

こうして、今の私たちが知る「バチカン市国」が誕生しました。

一つの宗教のために国があるってどういうこと?とキリスト教があまり馴染みのない日本人には少し理解し難いことかもしれませんが、こうした歴史・政治的な背景があって国際社会に認められていったんですね。


これだけ聞くと、ムッソリーニがすごいいい人に見えるかもしれませんが、この出来事でさらに支持率を伸ばしたムッソリーニ、つまりはファシスト党のこの後の所業は、誰もが知る第二次世界大戦の悲劇を起こしていきます。

とはいえ彼が首相になるまでの間にも、イタリア国内で彼を支持する派閥によるかなりの暴動、暴挙があったのですが…。ここらは今後、私の漫画「おおきくて窮屈なこの世界で。」で語られていくはずですので、そちらをぜひお楽しみいただければと思います。


興味のある方は、この後おすすめの参考書籍を掲載しますのでそちらを読んでみてください。

キーワードは、
「ファシスト」
「黒シャツ隊」「戦士のファッシ」

です。


★参考書籍

歴史編

イタリアの歴史についてざっくりと学びたい方向け。


20世紀イタリア国内の政治、情勢。また世界大戦前後についてより詳しく知りたい方向け。(ファシストのこともかなり詳しく書かれています)


1925年前後、第二次世界大戦前のファシスト政権下での国民の暮らしを知りたい方向け。
実際に当時生活していた人に聞いた話が元になっているため、めちゃくちゃ参考になります。


宗教・バチカン編

バチカンについてざっくり知りたい方向け。
写真も多いのでとっても見やすくて、面白いです。
塩野先生はイタリア関連書籍ではかなり有名な方です。


🔻旧約聖書についてざっくり知りたい方向け。
写真も多く、とっても見やすい。
みんながよく知る神様もたくさん出てきます。


🔻新約聖書についてざっくり知りたい方向け。
上とセットで買うとより楽しめます。


日本生まれのイタリア大好き漫画家です。好きすぎて留学してました。漫画をきっかけにイタリアに興味をもち、5年以上とあるカフェでバリスタとして勤務していました。