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「好きなコトしたら儲かるライターになりたい」という夢が叶って、砕けた日の話

 編集・ライターをしていてよく言われること。それが「好きなコトをして稼げてうらやましいなあ」というもの。大体このような声をかけてくる方はクライアントであることが多いので、「へへ……」と笑みを浮かべてあいまいな雰囲気にすることが多い。

 たしかに、編集・ライターになる前は、自分もそんな風に思っていたし、毎月定期購読していたゲーム雑誌のライターさんとかは毎日ゲームしてて最高だなー。なりたいなーと思っていたことは否定できない。だから、彼らの気持ちはわかる。

 とくに、自分が色気づいたころ、18禁の雑誌を読みながら「このページを作ってる人たちはイイナア! お金もらってエッチなもの一杯見られてイイナア!」と、憧れを膨らませていた。いつかは自分もお金をもらってエッチな仕事をする! 編集・ライターを志した理由の大きな部分は、そんな中高生の純粋な思いを叶えるためだったように思えてきた……。

 が、今は絶対そんなことは思わない。なぜそう思わなくなったのか。そのことをこれから話す。

「エッチなもの見てお金ももらいたい」の夢が叶った日

 求め続けてきたその時は、編集ライターになったころ、会社員をやめてすぐにやってきた。「あと4日で、アダルトビデオのレビューを6ページお願いできないか」と電話がかかってきたのだ。

 「やややや、やるっす! エロいの何本くれるの? くれるんじゃないやレビューすれぱいいんすか? 百? 2百? どんとコイですよ!」

 幼少のころからの夢、逃してたまるか! とやる気満々で仕事を受けた筆者の元に次の日届いたのは、結構な大きさの段ボールにギッチリつまったビデオテープが三箱……。 (20年くらい前の話だ)

 その圧倒的にデ力いブツにさすがに冷静になった筆者は慌ててメールをチェック。

「お疲れさまです。1ページあたり18本紹介で、6P分送付いたしました。添付した資料に添って執筆のほう進めていただければと思います」

 1Pに18本もレビューって入るのか、驚愕しながら資料を見るとさらに驚きの内容が詰まっていた。

 ビデオ再生時間に合わせて興奮度の高まりを記載する「テンショングラフ」と言うのがソレだ。

 どれくらい興奮して、何回コトをいたすかというのが一発でわかる優れもののグラフで、体位の変遷まで書いている。「なるほど、好きな体位がすぐチェックできて、コレは便利だ。」と呆然とつぶやく。

 え? これ自分が作るの!?

 とにもかくにも、1本目のレビューにトライ。大体この手のビデオの再生時雪間は2時間程度なので、グラフとレビューを書くと1本3時間かかる計算だ。

 あれ? 執筆期間って4日じゃなかったつけ? 1本に3時間だと、不眠不休で32本が物理的限界なのでは………。

 あわてて、折り返し電話をかけ「物理的に多すぎです」と勘弁してもらおうとしたら、担当編集さん、辞めていました。そもそも彼の担当だったみたいです。

「コレを書く人は他に心当たりが無くて、久保内さんが書かないと白紙のまま印刷されますナントカして下さい……! 私もこれから64ページにわたるモザイク処理です。……変わってくれますか?

 めくるめく修羅場の香りに恐れおののいて、慌てて電話を切ったものの、1日24時間では物理的に無理だという状況は変わらない。……考えろ、俺!

 結果、導き出したギリギリの回答とは、以下の通り。


 女優さんのインタビューとジャケットの説明で本文解説は執筆。テンショングラフは6倍速再生で体位などをチェックしながら作成していく。これなら平均一本あたり45分で書き上がる。

 18本が6ページだから総計108本、全体で81時間で完了! 日割にすると一日あたり20.25時間やればクリア可能!! 1日4時間も寝ることのできる計算だ。って、総計108本って煩悩の数かよ、気が利いてるなオイ。

 しかし、1日目の最初の3時間で完全に飽き、5時間目で「人間、どうしてこんな行為をするのだろう?」と呆然とし、7時間目にフライドチキンを食べようとして気分が悪くなり断念。

 以降、ウイダーインゼリーだけの生活を余儀なくされる。煩悩がなくなり解脱する。

 二日目、なぜか笑いが止まらなくなり、音声を切って早送りしていたビデオを最大音量でヘッドフォンで聞き始める。6倍速の喘ぎ声の威力は抜群で眠気が飛ぶ。ビデオが盛り上がると、アンアンアンアン!と ガイガーカウンターのように、デススラッシュメタルのように音が炸裂する。目が覚める。 その後、再生・停止などの操作を一々「サイセーイ!キュピーン!」などと言わないと正気を保てなくなる。

 なぜ人間の肌は肌色なのか分からなくなる。爆音で鳴り響く超高速あえぎ声に合わせて仮眠中でもテンショングラフを制作することができるようになる。

 三日目、正気を保つのは無理デシタ。記憶がなくなる。テンショングラフの書きすぎで腕が常時震えるように。セックスの向こう側が見える。女優の骨格から性器の形状が類推できるようになる。


 運命の四日目。その後一生アダルトビデオを見ると気分が悪くなるトラウマをゲット。
 
 結果、奇跡的に原稿をアップしたものの、四日間の荒行の成果か、ドーパミンの出が止まらず、あえぎ声の空耳に悩まされる。一睡もできず部屋中をぴかぴかに磨き上げるという、なにかの薬物中毒者のような状態になり、依頼から一週間後に意識が途絶えて起きたら二日経っていた。夢の中で宇宙の真理を理解し、世界のすべてに意味があると言うことを発見した。

 とまあ、そんなこんなで夢にまでみたエロコンテンツ見放題の四日間を過ごした筆者だが、現在でもなんとか生きている。これを「好きなコトをして稼げていいな」の範疇に入るのかは、読者のみなさんの判断にゆだねたいところだ。

 今日はこの辺で。自分はこれから「インタビュー原稿を執筆しました!」としれっと音声ファイルの拡張子をTXTにしただけのものを送りつけたあげく失踪したライターを探しに行くのでこれにて失礼します。

 久保内へのよろず質問、インタビューを放棄して逃げたライターの居場所のタレコミなど募集します。


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