Netflix『攻殻機動隊 SAC_2045』を見通してレビュー……春。4/26

久保内でございますよ。

Netflix『攻殻機動隊 SAC_2045』をなんとか全部鑑賞した。鑑賞している過程で、自分では制御不能のゴーストへのハッキングをうけたり、発作が出たり、よく分からないが左手の甲だけがかゆくなったりしたのですが、その模様は前日のnoteを見ていただきたい。

で、今一度確認しておきたい。自分は攻殻機動隊というコンテンツ群との付き合いは古いが、熱心な視聴者というワケでもなく、むしろ神山版へのバトンタッチ以降、放送されるたびに呻き、つらい思いをしてきた側の人間だ。

本作品について、パッとネットのレビューを見渡すと、神山版SACは好きだが、本作はダメだ派と、それゆえ本作も最高だ派がバチバチやっている印象だが、その分類に倣うと、神山版SACはダメだし、本作もダメだ派ということになるだろうか。しかし、テレビアニメとして放送されたSACのシーズン1、シーズン2と比べて本作「2045」のほうがより出来が悪いのかについては、どちらでもないし、どちらでもありうると感じている。つまりこんな感じ。

SACより2045がいい点「馬鹿げているところがわかりやすく笑えるポイントが多い」

SACより2045がダメな点「一応はSFなり社会構造とかを考えている風で、ある程度衒学的といえなくもない部分があったSACに比べて、2045はただ単にワナビー的」

同じことを言っているだけなんですが、わかっていただけますかね。

わりに視聴者に好評と思える(Twitter調べ)の7話での老人による銀行強盗のストーリーなんかも、貨幣という価値の時代性についてのストーリーなのに、老人がただの時代遅れのリテラシー不足であるとして一面的に描かれ、結果的に老人という属性をバカにしているだけで終わっている。「孫にランドセルを買ってやりたい」とか言わせてる場合か。ストーリーの最後で「私、まだやりたいことがあるの」って、自立っぽいこと言わせればいいのか。じゃあ、それに対比する作品内の「現代」はというと、紙幣にICタグが埋め込まれているだけ。

錬金術の手段は(おそらく)仮想通貨交換所で大量に仮想通貨をレバレッジかけて空売りし、その後銀行支店長のアカウントで交換所にウイルスを埋め込んで、暴落を誘い売り抜けるというもの。ああ、うん……。報道するテレビのテロップの描写に「仮想通貨にウイルスを入れた」容疑云々と書かれていた気がするが、これは2045年になってもマスコミは仮想通貨への理解を一切していないということへの風刺ととっていいんでしょうか。なんていうか、デジタルの可能性と恐ろしさがある……と標榜しながら、現代日本でも手垢ついた手段を見せて、「ほらね」ってするのは、サスペンスではなく絵解きというのではないのか。スタンドアローンコンプレックス的なテーマなら、せめて51%攻撃とか、そのあたりの本質的な問題提起とかさあ…。いや、「こうあるべきだ」と書くのはフェアではない。今ある愚鈍な老人同士の会話を受け入れていくんだ。

他のエピソードと、「いじめはこわいね」、「SNSで他人を気軽に攻撃するのはやめましょう」と一言でまとまる通俗道徳の枠を出ないもの。通俗道徳の大切さを語ることそのものは悪くないし必要としている層もいるんだろうけど、そのための舞台建ても、通俗的な老人があたふたしているのに手を差し伸べるデキるヤツじゃあ……。構成的には昼ドラと変わらないし、昼ドラでも老人は通俗的な枠に収まらない怨嗟にまみれていたりするよ……。熟女の肌に蛇を這わせたりくらいしてくれる。

一応見るべきところもある。3Dアニメーションだ。これまたnetflixで公開された類似スタッフによる「ウルトラマン」に比べてかなりの改善がみられているように感じる。撮影特効をもう少し2D的にでもいいので追加することでさらにいいルックスになるんじゃないだろうか。少なくとも立ってるだけでフラフラしていることはなくなった。とはいえ、この見方は3Dアニメの量産化とかその試行錯誤に興味がある層へのもので、ぱっと見は「一応ストーリーの邪魔しない程度には見られるくらいになってきてるね」ではあるけど。それでもよくやったなあという気持ちにはなれた。

後半にでてきたポストヒューマンという概念についても……、まあいいかそんなのは……。傑作映画『猿の惑星』でも最終作では『サルはサルを殺さない』ビビビー(念話)だったし、アメコミライクなわかりやすいなにかでも、「Ghost」概念は何だったのかとかまあいいじゃない。全裸で連続バク転しながら銃弾を避けていくという面白シーンを作れただけでも評価したい。そんな気分だ。

視聴後の感想を一言でまとめると、どう考えても頭の悪いツイートを、これまた通俗的リベラルが批判RTしているのがバズってるのを見ている気分。ハイ論破、的なやつ。ストーリーの質は前述のとおり。海外のIT啓蒙ビジネス書をなぞるのではなく、そのビジネス書を「10分で理解するブログ」で読んで、目次といくつかの図案を見た後くらいの学びがありました。いくつか違う点があるとすれば、「ビジネス書を10分で理解するブログ」だと10分で読み終わるが、「2045」は250分くらい必要だということくらいだろうか。

目下一番恐れているのは、なんか二年後くらいに唐突にこの後編が自分の前にまた立ちはだかるんだろうなということ。現場からは以上です。

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