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eyes(3)

 デイケアに通院しているKdさんと言う女性がいる。年齢は20代後半で彼氏もいて、保育士という夢も持ち続けている。Kdさんは支援学校を卒業されて、JRに就職されたんですけど、社会に馴染む事が出来ずに、デイケアを利用しながら日常生活を営んでいる。僕がデイケアに通院する日には、毎朝おはようと声をかけてくれる仲間である。

 Kdさんが「私、保育士として働いてみたいんです」と僕に話す。

 僕が「スマホで保育補助で検索してみて」と伝える。

 Kdさんが「山口駅の近くで求人があるみたい」と僕に言う。

 僕は「良かったね」と答えた。

 Kdさんはデイケアの仲間であり、彼氏も居る。僕は彼女の事を性の対象として見た事はない。だから性欲とは全く関係のない対話だけど、異性が望むことを差し出すという点では性の交わりと似ていると思うのだ。Kdさんの僕への朝の挨拶や彼女の僕に対する気遣いは、僕がKdさんに対して保育士の本を探してあげたり、求人を探してあげる事に繋がっている。Kdさんとの対話が、性行為そのものの様に感じられ、give and takeが50代の性なのかなと思ってしまう。

 僕は生まれる前の記憶がある。幻聴が僕に「女性ってものが分かった?」と言う。

 僕は話を聞いていると「女性は随分と身勝手なものだね」、

「何かを押しつけてくる、ひどい存在だね」と答えた。

 僕は6才の頃だけど、この記憶が残っていて、妹が生まれて成長する時に、不信感で彼女をじっと観察していた。妹は3才の頃で覚えていないと思うけど、カセットテープを引っ張ったり、人形を投げつけたりとやんちゃな所があったのだ。でも不思議なんだけど妹から性というものを感じた事は無かった。ここでいう性とは、卑猥なものではない。何も望まれる事がなかったのである。だからお互いに干渉する事がなくて、関心を持つ事もなかった。僕はそれが一番安全であると信じていたのである。

 妹が高校の就職受験の時に「中国電力、受験して良い」と僕に尋ねてきた。

 僕は前年の就職試験の時に、中国電力を受験して失敗していたのだ。

 僕は「いいよ」と答えた。

 僕が妹から何かお願いされたのはそれぐらいである。もしそれが彼女の性だとしたらとても礼儀正しいものである。だから、僕は他人に何も期待しないし、本当の所はどうでも良い存在なんだと思う。幻聴が悪魔の様に感じるみたいに。

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