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[SS]居場所

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2024年6月の記事一覧

数年振りの和歌山・熊野は優しい雨が降っている、帰宅すると父が慌てて夕食の準備に取り掛かっている、母親がよう帰ったね、今忙しいからちょっと待ってねと話す。宿場の奥から参拝者の賑やかな声が聞こえてくる、私はとても懐かしい気持ちになった。昨日まで世界を飛び回っていた私が信じれなかった。

僕は貴方達と長い間付き合ってきたが、辛い思い出しかない。しかし、貴方達を振り返ると、心が満ちていくのを感じる。嫌な思い出ばかりだけど、僕の力が足らなかったのでしょうね、時々思い出して僕に掛けてくれる期待が嬉しかった。でも貴方も僕と同じ人を想っていたのですね、本気なので嬉しいです。

父が退職して作ったのが金魚の館、大小の水槽がずらりと並び、オランダ獅子頭・水泡眼・らんちゅう等、大きな高級金魚がゆったりと水の中を泳ぎました。近所の小松さんの旦那さんは、父が産ました2年目の金魚を毎年貰いに来た。父は10年もの間、金魚を増やし続けて、周囲の人の心を和ごましました。

だから私は彼の神に避難させてと話した、彼を見に来ている多くのファンが救いを求めているのだと伝えた。私の神と彼の神が繋がって、アイドルのアイデンティティになった瞬間でした。彼と私の奇跡の日々が大阪で始まり、英国へそしてワールドツアー・東京にたどり着いた。私は明日、日本に帰国します。

私の神は、祖父と父が熊野で参拝者と対話する為に、阿弥陀仏を表現して来た。私は父が権現になっていく姿を側で見ていた、子供ながらに美しいと感じたが、他人の悪意を感じて熊野の神々と距離を置きたかった。大阪に出て彼と出逢い、アイドル活動をしていると他人の感情の渦が参拝者に見えて来たのだ。

東京公演はドームで開催された、数万人のファンが彼の歌声と姿を観に会場を訪れた。私は本当に彼が夢を叶える事ができて、最高に嬉しかった。何より、私の神と彼の神で作ったアイデンティティで多くのファンの人生を希望で照らす事が出来てとても満足したよ。彼を信頼して神に取り組むと私も変われた。

私は高校を卒業して伊丹空港で働くと、父に社会で舟を持てる様に頑張れと言われた。私はアイドルに心酔して、彼と英国まで来たけど、伊勢神宮で勉強すると他人が避難する場所で目的地へ向かうのに気付かせてあげるのが、私の舟と思いました。だからツアー終了後に、熊野に戻ろうと思う。今まで有難う。

私は首を振った、最近考えすぎているんです。私はただ生きる人なんです、面倒を見てくれる周りの人には感謝しています。でもそこに私は居なくて、今まで僕や仲間に見せていたものは偽りであり、私にも良く分からないんですけど、別の誰かの視点があったのでしょうね、私は本来の姿に戻ろうと思います。

彼を最初に信頼してくれたのが私だったんだよね、本当にアイドルになれると思ってた?と話す、私は彼に初めて逢った時にビビッと来たんだよねと伝える。彼は私と友人になれば、彼の神と行ける所迄、頑張れると思ったよ。私の神って魅力的に映った?彼はとても日本人らしいと思ったんだ、魂を感じたよ。

毎日自分の用事以外で忙しい、朝起きて娘を保育園に送り僕も職場に出勤、気づいたら昼食も食べれずに14時を回る。遅い休憩をとりスマホを見ると娘が発熱とメールが来る。急いで娘を迎えに行き、病院に連れて行った後に母に面倒を見てもらう、別れた妻の姿が頭を過る、夕方の打ち合わせが待っている。

彼がワールドツアーを開催する事になり、私もイベントに帯同します。開催都市は東京・NY・パリ・ロンドン・豪州・ブラジルの6都市である。彼が私に大阪の梅田劇場から僅かの間でよくここまで来たよね、喫茶店で日本語も分からず、メジャーデビューがしたいと話していた頃を昨日の様に思い出します。

僕も50才である、やるべき事は大体取り組んできた。恋愛・結婚・仕事・子育てと、人生に悔いは残していない。振り返れば失敗ばかりの人生で、周りの人に迷惑ばかり掛けてきた。妻には本当に感謝している、今の自分が生きていけるのも、妻の支えがあるからです、有難う。後10年は遊んで暮らしたい。

彼はヘンジを訪れて神聖な気持ちになった、人類の長い歴史を感じる。巨大な石の重なりを見ていると不思議な感じもするし、人が生活していた事も分かる。雄大な自然の中で遺跡に太陽の光が当たると影が伸びる、時間の流れが彼の日常と違う事が分かる、ヘンジの中にいると癒される。熊野古道と同じだな。

私は彼にヘンジは各時代の支配者が、休みを取る為に訪れた場所なのよと説明した。だからヨーロッパの各地に点在する。力を持った者は休息地でも、人々に影響を与えたのですね、ストーンサークルを1500年以上作りながら、生きた記憶を残したかったのだと思います。彼に古代のアートを感じて欲しい。