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日本酒市場を盛り上げる「Clear」

去年のStart Venture Festival 2019でHIMENOSの酒井さんの話を聞いたときに、「日本酒でスタートアップ?」と思ったのを思い出して、日本酒スタートアップについて調べてみました。

その中の「Clear」について、今回はマーケティングトレースをしたいと思います。

■始めに

株式会社Clearは2013年2月~日本酒定期購入サービス「SAKELIFE」、2014年6月~日本酒専門WEBサービス「SAKETIMES」、 2018年7月~日本酒製造販売「SAKE100」を始め、日本酒に関連サービスをいくつもたちあげてきました。 

SAKETIMESは、 20〜30代の若い世代が過半数を占める月間約40万人が訪れる国内最大の日本酒専門WEBメディア になっています。日本酒の売上に関しては正確な数字を把握することができませんでしたが、 今後も成長が期待できそうです。まずは概要から見ていきましょう。

■サービス概要

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サービスのコンセプトは「日本酒の未来をつくる」「日本酒の可能性に挑戦し、未知の市場を切り拓く。」となっていて、 日本酒の魅力を伝えて、市場としても大きくしていくということを目指しています。 

サービスが解決しようとしている課題は、主に お酒に万以上の高額なお金を払う余裕があるラグジュアリー層(海外、日本の両方とも含む)が、 求めている価値や価格と、提供されている日本酒の価値や価格にミスマッチがある という課題です。 

これにたいして、日本酒に特化したメディアを通して日本酒の魅力を正確に発信していくのと同時に、 ニーズに合った高品質・高価格な日本酒を製造・販売までするというサービスを展開しています。

■日本酒を取り巻く環境分析:PEST分析

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PEST分析を用いて、日本酒市場の動向を見ていきましょう。

<政治面>
⇒日本酒の海外輸出を促進するため、政府も後押し

2019年11月、輸出向け商品のみを製造する場合に限り、日本酒製造場の新設許可を政府が検討していることが明らかになりました。 これまでは需給均衡を保全するため、原則として清酒製造免許は新規発行されていませんでした。 しかし、今回の発表で、輸出で国外向け限定とはいえ、日本酒造りに新規参入する道が開ける可能性が出てきました。

 内閣府や国税庁などの関連省庁が中心となった、クールジャパン戦略の枠組みの中で促進する日本産酒類の輸出に関わる予算も、年々増加しています。

<経済面>
⇒インバウンド観光客の増加が海外輸出を後押し

日本各地で本場の日本酒を飲んだ人たちが、帰国してから『地元でも日本酒が飲みたい』と考えて動き出しているとのことです。 東京オリンピックに向けて、この動きはますます進んでいきそうですね。

 ⇒日本酒のマーケットは基本的に縮小だが、市場が成長している領域もある 

日本酒の輸出額は9年連続で伸びいて、特筆すべきなのは量よりも単価が伸びているということ。この9年間で3倍にまで伸長しています。つまり、 国内外の双方で、日本酒は高級志向になってきている ということです。

 2017年の輸出額は日本酒約187億円に対し、ワインは90億ユーロ(約1兆1,800億円)でありますから、今後も伸びが期待できそうです。

<社会面>
⇒和食がユネスコの無形文化遺産に登録

和食がムーブメントとなり、それに合う食中酒として日本酒が求められています。 和食ブームに乗っかる形で、海外における日本酒のニーズが高まっているということです。

<技術面>
⇒インターネット技術・サービスの拡大で海外との情報・商品の流通が容易に

WEBメディアで海外への情報発信が簡単になり、誰でも海外の顧客に向けたアピールをできるようになりました。 

また越境ECが発展してきており、個人による海外への輸出も容易にできるような環境になっています。

ーClear創業者の着眼点

日本酒とワインの差=価格の多様性の欠如ではないか

ワインは種類という横幅、価格という縦幅の双方で多様性があるから、マーケットが大きくなってきていると考えました。 

それに対して、日本酒は楽しみ方や種類の多様性はあるものの、価格の多様性がないに等しいです。 日本酒で一番高価だといわれる「純米大吟醸」でも、3000円前後ですし、この蔵で一番いい酒持ってきてくださいといっても5,000円くらいになります。要は日本酒は非常に安いです。 

だからこそ、日本酒のポテンシャルを活かすには、質の伴った高価格な日本酒を製造していくことが大事であると考えたそうです。

■サービス詳細:4P分析

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Clearがどんなサービスかは理解できましたよね。一応まとめておきますね。

<Product>

酒蔵と協力したオリジナルブランドで高品質な日本酒「SAKE100」、日本酒専門メディア「SAKETIMES」「SAKETIMES international」

<Promotion>

SAKE100に関してですが、自社メディアやFacebook広告、ホテル・レストランとの提携等を用いて、ラグジュアリー層への認知・認識を広めています。

<Price>

主なマネタイズは販売費と広告費です。販売はラグジュアリープライスで、7,000~100,000円と幅広い価格帯になっています。 一般的な日本酒が高くても5000円程度であるため、かなり高価な設定です。

 広告費に関しては、詳細は分かりませんでしたが、「SAKETIMES パートナーズ」として契約するとブランディングや集客を一緒にしてもらえるようです。

<Place>
主に自社ECでの販売ですね。

ーサービス理解を深める1:商品の本質と価格のバランス

値付けによって「期待する体験」も変わってしまうため、日本酒が価格帯に幅がないのを課題であると考えたのです。 ただし、商品の本質と価格のバランスは悩ましく、これまでにない高価格をていきょうするために、さらに高品質の日本酒を製造しないといけなかったのです。

 例えば、観光客には富裕層も多く、彼らにとっては 「日本酒が安すぎる」 ために、ギフトには選びにくいそうです。つまり、 安価であることがメリットではなく、機会損失として働いている ということです。世界には1本のお酒に数十万円単位のお金を払う人がいて、 日本酒もそれと同等の高価格・高品質なものが求められていると言えます。

<最初に送り出した商品「1本1万6800円」の販売戦略>

・必要なのは「認知」と「認識」

「認知」はただ知っているだけで、その存在を認めているということ。 その本質や意義を理解して初めて「認識」になり、他の物との違いを見分けることができるのが「認識」ということ。 

・「認知」は自分たちの足で、「認識」はコンテスト受賞やイベントとの提携などの後押しで 

【認知】親交のある経営者や弊社の株主である上場企業の社長をはじめ、 SAKETIMESの取材を通じて知り合ったラグジュアリーホテルや一流レストランのソムリエまで、泥臭くアプローチ。 ブランドの立ち上がりに関しては、話題を呼ぶための泥臭い時期も必要であったと改めて認識しました。 

【認識】デジタルマーケティングは購買意欲がある人や商品認知がある人に向けて、決済のひと押しとしては有効な手法。 そのため、ブランドが立ち上がっていない状況では機能しにくいです。 逆に受賞のタイミングでFacebook広告を投下したことは、ある程度認知がされていたため、大きな効果があったそうです。

 【認識】さらに認識を広める手段として、”獺祭”の活動を参考にしたそうです。 ”獺祭”はファッションイベントのウェルカムドリンクでスパークリングを提供していて、 ”獺祭”の名前は知ってるけど、飲んだ事は無いという人に対して、「オシャレな場所でオシャレしている時にオシャレにスパークリングを飲む」 という体験を届けていました。 お酒をお酒とは異なる文脈で出すことで、世界との接点を広げていく ことができ、これを参考にしたことによって、ラグジュアリーアリーブランドを確立して行きやすくなったそうです。

ーサービス理解を深める2:事業ストーリー

「定期購入」で日本酒を提供する「SAKELIFE」から事業をスタート。

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 ある程度成長したけど、伸びに限界が…日本酒の魅力を知らない人に日本酒を買ってもらうことへのハードルがあることに気が付く。

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<日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」立ち上げ>

どこにいけば美味しいお酒が飲めるのか、名前をよく聞くあの日本酒の魅力は何なのか、 など日本酒の魅力をより伝えるための”情報インフラ”を作り、日本酒をより身近なものに。 さらに、日本酒の魅力の“伝え手”として、専門用語の解説、日本酒の楽しみ方、酒蔵のストーリーなど、 さまざまな日本酒に関する情報を発信し、普段知ることが難しい日本酒の魅力を伝える。

 メディアを通して250以上の酒蔵を訪れ、数え切れないほどの銘柄をテイスティングし、 多くの有識者やトップランナーを取材。配信した記事は3,500本超。だれよりも真剣に日本酒と向き合い、その魅力と奥深さに触れる。

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 メディアは人と関係を作る仕事でもあり、熱意をもって日本酒業界を変えようと取り組む人々との時間を積み重ねるなかで、 彼らから日本酒に対する熱を受け取った。

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 <「SAKETIMESパートナーズ」という広告プランをスタート>

 年間で契約し、複数の記事を通して、多面的・継続的に酒蔵や酒の魅力を伝えていくことで、正しくその価値を伝えることに挑戦。90%以上という継続率。 

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<D2Cコマースの日本酒ブランドを確立>

 1965年創業の老舗酒屋「川勇商店」の発行済み株式の全てを取得し、同社を完全子会社化。 これに伴い、同社の持つ酒類小売業免許を活用した新事業として「SAKE100」を立ち上げ、小売業に参入。 

「SAKE100」は日本酒の粋を集め、その"至高の価値"を届けるSAKEブランドであり、 「100年先の未来にも輝きつづける、至高の日本酒」をオリジナルで一から企画・開発し、インターネット限定で販売している。

■ポジショニング

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日本酒のスタートアップは他に「HINEMOS」や「WAKAZE」があります。 それぞれ課題としている領域が異なり、差別がができているように思えました。

<Clear>

これは他の日本酒と違って、価格・価値のミスマッチを課題として、 ラグジュアリーブランドとしての日本酒の新しい地位を確立することを目指しています。

<HINEMOS>

HIMENOSでは、日本酒の国内出荷量が減少しているのは、「日本酒がシンプルでない」のが課題であると考えています。 

つまり、いろいろな銘柄があるけど、何を飲んだらいいのか分からないということです。 そこで、シンプルに「時間によって飲み分ける」という分かりやすいコンセプトで、”KUJI”や”NIJI”などの新しいネーミングで日本酒ブランドを立ち上げています。

<WAKAZE>

WAKAZEでは、日本酒がワインと違って世界酒としての地位を確立できていないのは、日本酒を飲む場面が限られているからであると考えています。

 つまり、和食以外にも合う日本酒があれば、世界酒としての地位を確立できるとして、洋食と合う日本酒を開発しています。 ワインの製造に用いていたオーク樽を使った日本酒を作ったり、フランスで日本酒の製造をしようとしたり、他の2社とは異なる戦略をとっています。

■最後に

それでは最後に調べた中で重要だと思ったポイントをいくつか抽出しますね。

 ・サービスを始めてから分かる課題がある

机上の空論で終わらせてしまうのよりも、サービスを始めてみることで 深い課題を発見することができ、それが新たなサービスにつながるようですね。 日本酒定期購入サービスを始めたことで、メディアやSAKE100というサービスができているのがいい例ですね。 

・パートナー契約というメディアの形

メディアと言えば、広告収入というイメージが強かったのですが、 パートナー契約を結び定期的な記事配信というマネタイズの方法もあるということが分かりました。 SAKETIMESではパートナー側に大きなメリットがあるからこそ成立しているんですけどね。

・価格と価値のバランス

確かに安すぎると不安に思ったり、高すぎると不満を持ったりします。 それが日本酒という今まで気が付かない領域にも、ミスマッチがあったというのは新しい発見でした。

日本酒スタートアップ、興味深い領域だなと調べてみて、すごく思いました。今後も注目してみていきたいと思います。

コメントや意見、感想などありましたら、気軽にコメントしてもらえると嬉しです!最後まで読んでいただきありがとうございました。

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