「ザグレブまでの長い道のり スロヴェニア→クロアチア」
世界一周406日目(8/8)
朝六時半には起きるようにアラームをセットした。
すごい野宿むけの東屋だけど、ここはたぶん、
誰かの私有地なのんではないだろうか?
確信が持てなかったのでそっこーで野宿セットを収納した。
それが終わると、
『あ、スイマセン、やっぱここダメでした?
スロベニアのお宅って広いから
ついつい勘違いしちゃいましたよぉ~。ははぁ』
って言い訳できるだろうと、
椅子に腰掛けテーブルに食糧を広げた。
昨日買ったパンをマーガリンにつけて食べ、
タバコをふかした。
ここはやっぱり
共同スペース的なやつなんだろうか?
そりゃねーか。さっさとトンズラしよう。
今僕がいるのは最後のEU圏内、
スロベニアの首都、リュブリャナ。
そして目指すはクロアチア。
移動手段はもちろんヒッチハイクだ。
朝の空気がひんやりと冷たかった。
バックパックを背負って
しばらく歩いていても汗をかかないくらい。
朝も早かったので、のんびり歩いた。
目の前に女のコたちの姿が見えた。
ヒッチハイカーだ。
二人がバス停が停まるスペースに立ち
クロアチアの首都「ZAGREB」と書かれた紙を持って、
親指を立てている。
バス停にはもう二人の女の子の姿と
四つのバックパックが置いてある。
みんな似たように短いショートパンツを穿いて、
サングラスをかけていた。
「どこから来たの?」
「ポーランドよ」
「ここ、
ヒッチハイクのポイントなんだ?」
「さぁ?」
目をつけている場所は悪くないと思う。
この先にクロアチアへと続くハイウェイがあるし、
車の止まってくれそうなスペースもある。
僕は彼女たちが車を捕まえられるかどうか、
バス停の脇に荷物を下ろして見学させてもらったが、
すぐに地元の人がやって来て
「ここじゃ、ザグレブ行きの車なんて捕まらないよ」
と彼女たちに教えてあげていた。
すぐにポーランド女子たちは荷物をまとめ、
次なるヒッチハイクポイントへと歩き出した。
もともと僕は彼女たちがヒッチハイクしていた
場所で親指を立てるつもりなんてなかった。
ハイウェイの入り口でやろうと考えていたのだ。
このまま彼女たちの後について行ったら
同じ場所でヒッチハイクをする羽目になる。
今までヒッチハイクをしてきて
他のヒッチハイカーと場所がかぶるなんて
ことはなかったけど、たぶん気を遣って、
順番待ちみたいなことになるんだろうな。
時間の無駄にもなりかねない。
ここは先に行ったもん勝ちだ。
Penny Boardで彼女たちを追い越し、
ヒッチハイクのポイントであろう
ハイウェイの入り口へと向かった。
ハイウェイの入り口に行ってみたはいいものの、
とてもじゃないが車の止まるようなスペースはなかった。
交通量も多い。後続車がある場合、
ドライバーも止まりにくいだろう。
僕は作戦を変えることにした。
マップアプリで次のハイウェイの位置口を確認する。
だいたい5kmくらいの距離だ。
途中まで歩き、そこからバスに乗って
ヒッチハイクのポイントへと向かった。
目的地の名前がバス停の時刻表に
書いてあったのもいい。
行こうとしている村の名前を
バスの運転手に伝えると1.8ユーロ(247yen)だった。
ヒッチハイクをするのにも
多少のお金がかかるってことだね。
ヒッチハイクポイントは
さっきよりも見込みがありそうだった。
ただし、交通量がめちゃめちゃ少ない場所だった。
交通量が多ければいいってもんじゃない。
少なくても止まってくれる…だろう。
ハイウェイに交わる道路の脇に立って、
背負っている荷物をおろす。
向こうから車が見えると僕は親指を立てた。
車の運転手はろくすっぽ僕の姿も水に、
前方を見たまま速度を落とさずに走り去って行った。
レスポンスはなにもない。
5分おきくらいにやって来る車たち。
中にはいつものように
「乗せられない」や
「お前の目的地とは違うんだ」とか
サインを送ってくれるドライバーもいたが、
誰一人として止まってくれる人はいなかった。
あれ…???おかしいぞ。
スロベニアのヒッチハイクの評価は
「good!」って書いてあったんだけど???
暑い日差しの中、僕は立ち続けた。
50m先がカーブになっているが、
そこを抜けても僕の姿を確認して
車に乗せるかどうか考える時間は
たっぷりあるはずだ。
僕もドライバーに気づいてもらおうと、
いつもの様にニコニコしながら
オーバーに手を振っているのにも
関わらずなんで止まらねえんだっつーーーーのっっっ!!!
だーっ!ここはイタリアかっっ??!!
ここがスイスかオーストリアだったら
とっくに車に乗れてるってーーーの!
マジ、スロベニア人
心つーーーめてーーーよーーーー。
いや、まてまて!
もし日本でヒッチハイクしても
同じ様なレスポンスだろう。
きっと時代が変わってしまったのだよ…。寂しいね。
経済が発展し、利便性を追求したがあまり、
僕たちは大切なものを失くしてしまったのだよ…。
そんな風に自分を納得させてみても、
今は僕がクロアチアへ行けるかが重要だ。
朝早くに出発したのに気づいたら12時を過ぎていた。
あまりのレスポンスのなさに僕は場所を代えることにした。
あと10台待って、それでダメだったら諦めよう。
高校時代のハンドボール部みたいに
「一本目~!二本目~!」と声に出して車を数えた。
一台通り過ぎると、ガードレールに
ミドルキックを入れてゴングみたいに鳴らした。
「ラストぉ~~~!」
僕は元気よく10台目の車を待った。
やって来た車は速度を落とさず、
ノーレスポンスで通り過ぎて行った。
僕は舌打ちを鳴らす。
とりあえず巻きたばこを巻いて火をつけた。
水分も残り少なくなって来ていた。
こんなことならリュブリャナの街で
ちゃんと水を買っておくんだった。
さっきのポーランド女子4人組は
ザグレブ行きの車ゲットすることができただろうか?
あのハイウェイの入り口じゃ捕まりにくいだろうけど、
女のコだからな。意外とあっさりってこともある。
対する自分はー…
イチかバチかの賭けに出よう。
僕はハイウェイに出て
ヒッチハイクをしてみることにした。
車は速度を出しているから止まってくれる
可能性も低いかもしれない。
警察に見つかったらしょっぴかれること間違いない!
これでダメなら大人しく
バスか電車でクロアチアまで行こう。
バックパックを背負って
一歩一歩ハイウェイへと近づく。
車がものすごいスピードで
後ろから僕を追い抜かして行く。
車が過ぎ去るごとに、少し遅れて風が吹き起こった。
ハイウェイに足を踏み入れてみると、
ここでもヒッチハイクが成功する見込みが
ないだろうということが理解できた。
ハイウェイ脇に時々、故障車が
止まれるようなスペースがあるけど、
あんなのにヒッチハイカーを乗せるために
止まるわけないんだ。
『あれ?なんか書いてある』
前方の大きな看板にガソリンスタンドと
レストランのマークとパーキングエリアの
「P」の文字。その距離500m。
ツイてる!
そこでドライバーに直接交渉しよう!
可能性はさっきよりもあるぞ!
500mなら行けないこともない。
その途中に警察に見つかることはないだろう!
僕はハイウェイの脇を進んで行った。
ハイウェイの車線が片側二車線に減ると
車がやけに近くに感じられた。
かすっただけでも死ねる。
避難用の道がガードレールの
外側にあったので文字通りそちらに避難する。
避難用の道、というかスペースは
ハイウェイの防音用の壁のせいで影ができており、
日が当たらない。そのためジメジメしたいた。
水分を多く含んだ地面に
足を踏み出すと、5cmくらい沈んだ。
500mがその倍以上に長く感じられる。
頭の隅っこでは警察に
見つかりはしないかと考えている。
バックパックが重いので
速度を上げて歩くことはできない。
下を向いて同じ様な道をひたすら歩いた。
なんとか
ガソリンスタンドまで辿り着いた僕は
ひとまず売店でスプライトと
1リットルの水とパンを買った。
2時間近く日にさらされていたので、
炭酸飲料が喉に染み渡る。
火照った体をカフェ併設の
売店の空調が冷やしてくれた。
体を落ち着かせ、
ここからが本当の勝負だぞと自分に言い聞かせる。
「あの~、ザグレブまで行かれます?
ヒッチハイクしてるんですけど」
大学時代のうどん屋さんと
フリーター時代の串焼き屋さんで培った
演技力を総動員する。
もう、爽やかな日本人バックパッカーにしか見えない。
そんな僕を運転手たちは乗せないわけないだろう!
「あの〜…、ザグレブまで行きますかー」
「ノ~」
表情を変えずに手を横に振るドライバー。
中には「エクスキューズミー?」の段階で
「ムリムリ」と門前払いを受けることだってあった。
ガソリンスタンドには次々に車が入ってく来る。
そのほとんどが周辺国のナンバー。
今は旅行シーズン。
車も埋まっている場合がある。
選り好みなんてしてる場合じゃないけど、
乗れそうな車を探さなくちゃいけない。
幸いガソリンスタンドのバイトの子たちは
僕にフレンドリーだった。
「ここの車のほとんどはクロアチアに向かうよ」
とアドバイスをくれたりもしたのだがー…
『あの車は僕と
バックパックが入る余地なし。
あの車は運転手がゴツい。
あの車はー…
あぁ!もう行っちゃったよ!』
もう、無理…。
途中ガソリンスタンドに入って来た
セキュリティーの車をパトカーと勘違いして、
ガソリンスタンド内のカフェに逃げ込んだ。
いや、別にここでヒッチハイクしてても大丈夫だろ?
「さっき別のドライバーさんに
ここで降ろしてもらったんですぅ」
って言えば。
だけど、この時の僕の頭にはそんな余裕はなかった。
ここでヒッチハイクを開始してから
2時間が経とうとしていた。
さっきまであった日陰がどんどん小さくなっていく。
だんだんとドライバーに声をかけるのも
元気がなくなっていくのがわかった。
たぶん、こういうのって伝わっちゃうんだろうなぁ。
そう考えた僕はカフェのテーブルに
つっぷして昼寝をすることにした。
浪人時代で身につけたスキルだ。
1時間ほどの眠りから冷めると、
ビックリするくらい長いゲップが出た
(これ、身に覚えのある人いない?)
よし!気持ちもリフレッシュできたぞ!
ヒッチハイクの再会だ!
だが、30分ドライバーさんたちに声をかけ続けても、
誰一人として僕を車に乗せてくれるような
人間は現れなかった。
これはもしかして、うまく行ってないんじゃないか?
この方法でやり続けても車は捕まらないんじゃないか?
それに僕はなんのためにこれを持って来たんだ?
ヒッチハイクのためだろ!
バックパックのふたの部分と
本体の部分(って言うの?)には
段ボールが挟まっている。
僕はこれをイタリアのトリエステ駅の前に
段ボールの詰め合わせみたいに捨ててあるのを見つけて
ベストな一枚を持って来たのだ。
野宿をする時に段ボールが役に立つことをローマで知った。
あれって温かいんだぜ?
それにいくぶんかベンチでの寝心地もよくしてくれる!
てかホームレスの知恵ってすげーよな!
あ、みなさんには宿がおありで…。はい…。
今まで何回もヒッチハイクをしてきた僕だけど、
行き先の書いたボードを使うことはなかった。
使うのは己の親指のみ!
特にポリシーとかがあったわけじゃないけど、
あれってちょっと格好悪い気がしたんだよね。
それに行き先だけが書かれたボードを持ってたら、
まずそこまで行かない車は止まって
くれないんじゃないかって思ったわけさ。
でも、今はそんなポリシーなんて
ハイウェイの側溝に捨ててしまおう!
バックパックから段ボールとプロッキーを取り出すと、
一面に「ZAGREB」 と書いた。
そしてそのボードを持ってガソリンスタンドの出口へと向かう。
ガソリンスタンドの裏側にも車が停車するスペースがあった。
今まではガソリンを補充に着た車だけしか狙えなかったが、
これならダブルで狙えるぞ!
車の停車できそうな
スペースを見定めて、荷物を置く。
やって来た車にボードを振りかざしニコニコ笑う。
さっきよりもドライバーさんたちの
レスポンスがいいのが分かった。
これなら行ける!!!
15分くらいして、男の子が寄って来た。
ふふふ。
ヒッチハイクも一種のパフォーマンスなんだぜ?
さあ!おもっいっきし僕のことを笑うがいいさ!
なんだか手招きしてる少年。
ん?なんか違う?
えっ??!!まさか!!!
僕の後ろに停車していた車に駆けて行くと
お父さんとお母さんが彼のことを待っていた。
「英語喋れるかい?」
「は、はい!」
「ザグレブまでは行かないけど、
その近くまでだったら
乗せて行ってあげるよ?」
「お、おおお願いします!
ひゃっほ~~~~い!!!」
ヒッチハイク開始から4時間近くが経過。
僕は車の前で思わずガッツポーズをした。
彼らはイタリアからクロアチアへ向かうらしい。
5人乗りのセダン。
僕と男の子の間にバックパックを置かせてもらう。
男の子の名前はジョルジョと行った。9歳。
ってことは小学四年生かな?
少し肌が浅黒く、目が大きくてまつげが長い。
対してお父さんとお母さんはごく普通のイタリア人。
「パパ!ママ!」と言うところから、
もしかしてジョルジョは養子なのかなぁと思った。
特にそこは訊かなかったけど、
ジョルジョはブルガリアにお姉さんがいるらしい。
クロアチアのあとは彼女に会いに行くのだとか。
「なぁ、ジョルジョ、
夏休みの宿題はやったかい?」
「パパ?シミはなんだって?」
「え?ジョルジョは
小学校4年生だよ?」
微妙に噛み合ない会話(笑)
突然車に乗り込んだアジア人を
全く気にしないジョルジョ。
僕もそれが嬉しくて色々と英語で質問した。
日本の子供に比べたら喋れるほうだろう。
「えっと~~、なんて言うんだったっけな?
パパ「〇〇」ってなんていうんだっけ?」
と分からない英単語をお父さんに訊いたりして、
英語で返事を返してくれる。
ジョルジョはiPhoneにある、
自分の動画を僕に見せてくれた。
ドラムでリズムを刻むジョルジョ。
先生と思わし気人物とセッションしている。
すげーじゃん!きっとこのまま練習すればいい
ドラマーになるんだろうな。
他にもジョルジョの楽しそうにしている写真が
iPhoneのアルバムの中には沢山詰まっていた。
いい家族だね♪
終始楽しい会話が続き、
ジョルジョとその家族と僕を乗せた車は
あっという間にクロアチアに入国した。
「それじゃあ僕たちは
別の方向だから、ここでお別れだね」
「ほんとうにありがとうございます。
みなさんにお会いできてよかったです」
ほんの1時間ちょっとのドライブだったのに、
彼らと心のどこかで繋がれた気がする。
ヒッチハイクをしていると、
長い時間を同じ場所で過ごすこともある。
そういう時に限って最後の最後には
「いい出会い」が待っているのだ。
さてとー、ラストヒッチと行きますか!
時刻は18時。あと2時間もすれば日が沈む。
ガソリンスタンドに来る車も少ない。
そしてここは
ハイウェイの中のガソリンスタンド。
ってことはー…
陸の孤島やん。
ガソリンスタンドの出口には
警察が故障車の近くにいた。
そこまで歩いて行って一応訊いてみる。
「あのー、ヒッチハイクで
ここまで来たんですけど、
すぐそこ(っつても1kmくらいだけど)
の出口まで歩いていっていいですかね?」
「だめだ。ハイウェイに
入るのは禁じられている」
陸の孤島やん。
ちなみに手持ちのお金はない!
クロアチアのATMでおろすつもりだったから!
しかもガソリンスタンドにATMないっていうー…。
これを陸の孤島と言わずしてなんと言おう!
や、ヤバいぞ!
とりあえずここを脱出する車を見つけなくっちゃ!
足早にガソリンスタンドまで戻った。
ガソリンスタンドの
スタッフらしい女のコが僕に駆け寄って来る。
「あなたタバコは持っているかしら?」
「え?持っているけど」
「ガソリンスタンドでタバコ買う?」
「いや、僕が持っているのは
アメリカンスピリットってヤツだよ?
巻きたばこなんだ」
「???
あなた英語分かる?」
「分かるさ。
タバコが欲しいんでしょ?」
「違うわよ。
今キャンペーン中でね、
タバコを二箱とドリンクを買えば、
このサングラスがー…」
いやいや!
今は車を探さなくっちゃ!
とりあえず手当り次第に声をかけて行ったが、
国境を抜けてすぐのガソリンスタンドなので、
止まっているのはほとんどが
イタリアナンバーや、ドイツナンバー。
車のほとんどは満員で、
しかも「ザグレブなんかに行かないよ」
みたいな人たちばっかり。
え?ザグレブって首都でしょ?
そんなに人気ないの?
どんどん車の数も減って行く。
次の車が着やしないかと、
ガソリンスタンドのスタッフと一緒になって車を待った。
一人のスタッフはかけもちで仕事をしていた。
昼間はメインの仕事を。
夕方から夜中の10時まで
ガソリンスタンドのフロントガラス拭きをやる。
女のコの方もさっきバイトのシフトが
始まったばかりらしい。
「僕もポケモンとかやったよー。ピカチュウとかさー」
車がやって来るまでのヒマな時間を
そんな会話をして過ごした。
クロアチアってミルコ・クロコップの国らしい。
あの超デカいK-1ボクサーの。
今はもう引退しちゃったらしいけどね。
アイツ強かったよなぁ~。
トラックがやって来ると、スタッフは
「さぁ!車が来たよ!あのドライバーに訊いてごらん」
と僕をけしかけた。
僕もそういう風にお尻を叩かれると
めげずにドライバーに声をかけることができた。
それでもなかなかザグレブ行きの車を
つかまえることができなかった。
もしかしたら今日はガソリンスタンドで野宿かもなぁ…。
一応悪いレートでスニッカーズを買って、
お釣りをクロアチア・クーナでもらっておいた。
最悪、近くの畑を突っ切って
村からバスに乗ろう。
いやー、めんどくさいことに
なりかねないな。やっぱなしで。
一台訊き終わると肩を落として
所定のポジションで待機する。
それを一時間繰り返した。
「ほら、車来たよ?行かないの?」
「やー、あの人はきっと
僕みたいなバックパッカーは
乗せてくれないと思うよ」
サングラスをかけた
中年のスレンダーな女性ドライバーが
ガソリンスタンドにやってきた。
「いや、分からないよ?訊いてごらんよ?」
「じゃあー…」
「すいませーん、
ザグレブまで行かれます?」
「…、
行くけど、あなた何人?」
「日本人ですー...」
「ひとり?」
「ひとりっす!」
「いいわよ。乗せてあげるわ。
ここで待ってなさい」
マダムさんはぶっきらぼうに行って
ガソリンスタンドの売店へと入っていった。
よっしゃ~~~~~~~~っっっ!!!!
その後ろで膝をつき勝利のガッツポーズをする僕。
ガソリンスタンドのスタッフたちも
「やったわね!」みたいな感じで拍手してくれてる!
「うぅ…。それじゃあー、
今までお世話になりました…」
「よかったわね。
それじゃ、旅を楽しんで!」
みんなに見送られて僕は車に乗り込んだ。
ドライバーの方は
アレクサンドラみたいなかっこい名前の方だった。
どこかアジアに偏見を持っているみたいで、
僕も曖昧な返事しかできなかった。
「東京の空気が悪くて
みんなマスクをしているって
ほんとう?」
「ん~…
空気は綺麗ではないと思いますが、
みんながマスクしている
わけじゃないですね」
「あら、そうなの」
アレクサンドラさんは
さっき歯医者に行ってきたばかりらしい。
麻酔がまだ訊いていて、
あの特有のモゴモゴした感じが口の中に残っているらしい。
なんだか不機嫌に見えたけど、それもあるのかな?
長かったヒッチハイクの旅を経て、
僕はようやくザグレブへとやって来た。
お礼を言ってバスターミナルで
アレクサンドラさんとお別れする。
街はバケーションシーズンらしく、
人の姿が全然みられなかった。
アレクサンドラさんいわく、
あと15日もしたら人も戻って来るらしい。
僕はあてもなく、ザグレブの中心地へと向かった。
スーパーでパンとトマトと
プラムを買ってベンチに座って食べた。
レシートとレートアプリを見て
ようやく物価の安い国にやって来たのだと分かった。
パスワードも電話番号もいらない
フリーのWi-FiでiPhoneをいじる。
そこまで体は動かしてないのに、とても疲れた気がした。
22時をまわると、僕は適当に目をつけた
公園のベンチに横になった。
「おい。ここで寝てはいけない」
24時に警察に起こされる。
あぁ、へえ、スイマセン…。
さっさと寝袋をたたみ、深夜の街を歩き出す。
2時間も寝ていない。頭がボヤボヤする。
見つけた子供の遊び場みたいな場所。
周りはフェンスに囲まれていた。
それがこの日の僕の寝床だった。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。