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「ドミトリーで気を遣ったり in ジョージア」

世界一周329日目(5/23)

近所の犬どもがやたら僕に敵意をむき出しにして吠えて来た。朝ご飯を買いに行く途中。宿の近所には番犬を飼っている家が多い。彼らはちゃんと番犬としての役割を果たしているのだ。

それにしても、グルジアの犬どもはデカいヤツらが多い。

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野良犬はほとんどいないんだけど、飼い犬のデカさといったら今まで旅した国でダントツじゃないだろかってくらい。全ての犬がそうじゃないよ。もちろん。でも、グルジアの犬はデカいんだ。

僕が朝ごはんにソーセージの入ったパンを買って外に出ると、外に首輪のついていない小綺麗な犬が待ち構えていた。

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こちらを見て、尻尾をちぎれるんじゃないかってくらい振っている。僕はこれ見よがしに焼きたてのパンにかぶりついた。噛むと中からソーセージの肉汁が「じゅわっ…」っと口の中に広がった。「ほらっ」と、ついつい犬にパンをやってしまう。僕は犬好きなのだ。

宿に戻りパソコンを広げてキーボードを叩いていると、重度のお喋り好きのカナダ人、マイクが急にわめきはじめた。


「財布がない!昨日ここに置いて、最後に自分のポケットにいれたのに!」「ア~~~!」とか「シット!!!」を連発するマイクおじさん。スタッフのエリザさんの顔が曇った。こんなところで盗難なんて起こるはずがない。

宿泊客の入れ替わりははげしくないし、宿の心地よさから貴重品の管理は厳重にはしていない。パソコンをテレビの前のテーブルに起きっぱなしにする人もいるくらいだ。そのくらいここではみんなみんなのことを信じ切っている。だが、反面、それがよくない点もある。マイクと韓国人のナヤおばさんはここに長期で滞在している。宿にある二つのテーブルのうち一つは「二人専用(お互い半分づつ使っている)」と言ってもいいくらいだ。他にこのテーブルを使いたいという人がいないからかもしれないが、二人はだいたいパソコンやノートをいっつもこのテーブルに出しっぱなしにしている。

カズさんやエリザさんもこれには困ったもんだと顔をしかめている。エリザさんも優しすぎるのか、彼ら二人にはなかなか言い出せないようだった。

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「イッチュ・オーケー♪いっつもこのテーブルにパソコンを置いているけど、何も問題ないわ」

テーブルの半分にパソコンとノート、筆記用具を散乱させたナヤさんがお気楽に言う。

いやいや、そんな問題じゃないだろ?一ヶ月以上滞在してる長期宿泊者の特権なんてものがあろうか?飲食店の席キープじゃないんだから、いくら他に使う人がいなかったとしても、終わりにはちゃんと片付けようよ。

僕はどちらかと言えばしっかりしたヤツじゃない。ルーズなヤツだ。それは自覚している。僕も「財布がない!」って同じことをやってしまったことがある。それも日本人宿で。インドのサンタナ・バラナシで。結局はバックパックの隙間に財布が挟まっていたんだけど、あの時はスタッフさんたちに嫌な思いをさせてしまい、非常に申し訳ない気持ちになった。

そんな僕なのだが、たまにどうしても、こういうことにイライラすることがある。二人ともいい歳した大人なんだからそこはしっかりしようぜ?ファック!とかシット!とか言ってないでさぁ?

結局お財布はマイクが使っているベッドの脇に落ちていたようだ。それを知った時のエリザさんのほっとした顔は僕をスタッフの一人のような気持ちにさせた。

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まだオープンして一年経っていないこのホステル。どうもエリザさんは宿泊客のレビュー、特にネットの書き込みを気にしているようだった。

ここの宿ではエリザさんが晩ご飯を作ってくれるけど、韓国のみんなが自炊をし始めた時、「私の料理がダメなのかしら?」とけっこうヘコんだらしい。

ネットのレビュー、ブロガー…。このナヤおばさんというのも韓国で有名なブロガーなんだか。カズさんがそう言っていた。

たぶん、そんなことはないんだろうけど、僕にはどこかブロガーが居心地のいい宿でハバをきかせているように思えた。だから注意しないのか?

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その日、僕はなかなかイライラから抜け出すことができなかった。なんか妙にイライラしながら漫画を描いていた。

自分もテーブルの半分を占領してるっていうのに、自分勝手な一方的な不満…。

僕は漫画の製作に入った。そっからエリザさんに「ヨスケ!ディナー!」と呼ばれるまで僕はずっと漫画を描いていた。


製作二日目。

内容はペン入れの主線から背景の途中まで。明日で終わる作業状況。いい感じのスピードだ。

無性に食後のアイスクリームが食べたくなった僕は外に出た。

帰ってくると韓国のみんながテレビの前のテーブルに2Lペットボトルに入ったビールやワイン、割物のコーラ、つまみにサラミなんかを出して酒盛りをやっていた。「シミ、一緒に飲もうよ!」といつもの様にキューが誘ってくれる。僕もずっと作業してるのはつまんないしね。

彼らは明日クタイシに出発してしまうようだ。これが最後の酒盛りか笑。同じドミトリーに泊まっている日本人のカメラウーマンのお姉さんがショートパンツとTシャツという姿で、ソファにくつろいだように座って、友達とスカイプをしてた。それが僕に日本人と韓国人の違いを意識させた。

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日本人はけっこうプライベートな領域を持っている。

そういうのを意識すると、話しかけずらかったりする。今回なんてそうだ。お姉さんにはお姉さんのプライベートな時間があるのだ。ここまでネットがどこでもできると、ここにいない友達と連絡を取ることが多い。

僕も友達なんかと雑貨の仕入れやくだらないことまでけっこうやり取りをしている。それに比べて韓国のみんなはフレンドリーだなぁと感じた。

アルメニアで会ったチャンソク、チュニ夫婦とキュー、イヴァンカップルはグルジアが初対面。それなのに、一緒にカズベキを訪れたり、今ここでこうして酒盛りをしている。

「韓国人の旅人は全体的にグループが小さく、繋がりが強いんだ」カズさんがそう言った。今僕が置かれているシチュエーションはとてもレアだ。ほんとに彼らの仲間に入れてもらえているのはたまたまだと思う。アルメニアのリダさんちで会ったからってのと、同い年で建築や製品デザインの勉強をしていて話が合うってのもあった。今回のはたまたまなんだよ。他じゃこんなに仲良くはできない。特に欧米人なんかは未だに英語でなんて言ってるのか分かんない時があるし、お酒の飲めない僕は仲間に入りづらいんだ。

そんなことをキューに言うと「韓国人だってそんな誰それ構わず仲良くなれるわけじゃないさ」と言っていた。まぁ、そりゃそうか。

寂しさからか、ドミに泊まっているウクライナの男の子が同じソファに座って来た。何も話さず、黙ってスマートフォンの画面をいじっている。

た、たぶんからんで欲しいんだろうな。だってさっきまで他のテーブルにいたもん。

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急に気を遣い始めるみんな。

質問をなげかけてみるも、ウクライナの男の子は口ベタなのか話が全くと言っていいほどはずまない。アジア人同士で目配せをする。それは僕に日本での「飲み会」を意識させた。

人がまわりに沢山いても口数が少なくなってしまうときがある。『一体何を話せばいいんだ??!!』

今は立場がまるっきし逆だけど、分かる!分かっちまうよぉっ!このシチュエーション!おれ一人で黙っちゃう子だったぁぁぁぁあああ~~~~!!!

彼はきっと会話がふられるのを待ってる!!!

年長者のチュニ姉さんがウクライナくん(ごめん名前分からなかった)に会話を振るが、3センテンスくらいで話が終了してしまう。

「が、ガールフレンドはいないの?」

「いない…」

「そ、そんなぁ~、私あなたのことハンサムだと思うなぁ~」

「…」

気マヅイ…。

「なぁシミ、なんであの日本人のお姉さんはあんなセクシーなんだ?露出し過ぎじゃないか?」

お姉さんがドミに戻った後でキューがそっと僕に耳打ちした。

「何言ってんだよ?イヴァンだっていっつもショートパンツ穿いてんじゃん」

「え~?コイツ?コイツの太ももにはそそられないよ」

「何言ってんのよ!」

じゃれあう二人。へっへっへ。お似合いの二人だぜ。


今日はノムヒョン大統領の命日だそうだ。チャンソクがネットでダウンロードした映画は韓国語オンリーだったので、その日の宴は幕を閉じた。そこでも彼らは外国人の僕たちに対して気を遣ってくれた。「そろそろお開きにしよっか」と。僕としては韓国の映画に興味を持っていたんだけど、気遣いを察知して、僕も自分のベッドに引き上げた。

漫画しか描いていなくても、そんなささやかな旅の日常が転がっている。そんな一日だ。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。