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「娘はやらん!」と言ってみたい in アルメニア

世界一周311日目(5/5)

「やべっ!!今日「こどもの日」じゃん!」
25歳になってもガキっぽい僕はウキウキワクワクして柏餅の代わりにトマトをほおばった。いつもと変わらない朝食。朝市で買う順番も変わらない。

トマト☞リンゴ☞パン☞(キウイ)
☞コーヒー☞カトリョーシカ(ジャガイモの入った揚げパン)。

日中は行きつけのQueen Burgerで作業しているから胃袋に入れるのはカプチーノのみ!たぶん甘いカプチーノが原因だと思うけど、下唇の裏に口内炎ができた。「口内炎」って英語でなんて言うんだ!!?

リダさんちに泊まっている韓国人のチャンとの会話は英語だ。ジェスチャーも交えて説明するとチャンは「タンパク質を摂取した方がいいよ」と僕にアドバイスしてくれた。そう言う彼の朝ご飯はいつも自炊したチキンヌードル。ドバイ空港に8泊したという筋金入りの倹約家の彼らしい。

「今日も仕事?」チャンが尋ねる。

「うん」

昨日友達から依頼された仲間の披露宴の表紙、背表紙、プログラム、マップ作成。誰かに求められれば頑張れちゃうんだなぁこれが!

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「おはよ~ございます!カプチーノ!」
ニコニコしてレジのお姉さんに440ドラム(109yen)を渡す。

お会計を済ませていつもの席につき、席まで運ばれてきたカプチーノを一口すする。タバコに火をつけ左手の指で挟み、もう一方の手でiPhoneを操作し、ブログを読んだりFacebookを見たり。パソコンを広げて日記を書く。やべえまた書きたまってきちゃったなぁ。

Q:数日前おれ、何してたっけぇ…?

A:えっ?ちゃんと働いてるじゃないですか!!!
「はき違える」ってズボンを前と後ろ逆に履いちゃうとかそういうことですかねぇ?

A:ブログも大事じゃないっすかぁっっっ!!!
だって言ってみればこれは僕の「ネタ帳」なんですよ!僕「旅漫画」を描くために必要なの「航海日誌」。ドン・クリークだってゼフの航海日誌奪おうとしたじゃないですか!グランドライン入るには航海日誌が必要なんですぅぅうう!!!

…なんだよ?その冷めた目はいいじゃねえか。だって今日は「こどもの日」だぜ?あっ、ブログとリアルタイムには時差があるのか。なんだよぉ。ちぇっ…。ピーターパンだってウッキウキだぜぇ?

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僕が作業を始めたのは14時からだった。

まず最初に取りかかったことは資料集めだ。
新郎新婦の顔を描くためにFacebookのその人のページまで飛び、アルバムから彼らの写真を見つけ出し、それをスケッチしていく。まさに探偵の様な作業。

てか今こうしてアルバムを見せてもらっているのが知り合いだからいいけど、考えてみたらSNSってさらけ出してるんだな。知らない相手でも見れちゃうんだもん。その一方で友達とLINEで表紙のデザイン案の打ち合わせ。

結婚式のプログラムの表紙かぁ。一体どんなのがいいんだろう?こんな風にして2時間が経過。あれ?時間だけがどんどん過ぎて行くよ?店員さんの顔色をうかがって見て2杯目のカプチーノを注文する。

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なんとかデザイン案も決まり、そこから原稿用紙に下描きを始めた。

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表紙、背表紙、プログラムのページの下描きを終え、マップは途中まで。21:00を回ったアルメニアの外はとっくに太陽が沈んでいた。そろそろ引き上げることにしよう。

朝11:00に来店してそのまま21:00までカプチーノ2杯とマクコーヒー1杯で10時間かぁ…よく追い出されないもんだよ。まったく。

通りの下にある地下道を抜け、メトロの少し手前。モール前。僕はギターを構えた。モールはもちろんとっくに閉店しているし、ここを通るのはメトロに乗る人だけだ。いいのさ。一日に一回は唄わないと気が済まないんだ。高いキーは相変わらずかすれたままだ。それをカバーしようと腹式呼吸で声を出すようになった。連日唄って稼いで旅を続けている人は声の出し方にも気を遣うんだろう。


自己満足のシャウトを続けていると、さっきから聴いてくれているお兄さんの姿が目に入った。

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「君はビューティホー・シンガーだ」と単語をぶつ切りにした英語で僕をほめてくれた。唄っていたのはStand by me。お兄さんもサビのフレーズをくちずさむ。

そろそろメトロに乗って帰ろうかと、ギターをしまった時、お兄さんは言った。

「ユー・ヘルプ・ミー?」

「えっ?何?」

「君はマジで素晴らしいシンガーだ。どうか頼むから僕の彼女のために彼女の家の前でStand by meを唄ってくれないか?」

「え~?(超絶めんどくせえ。だが、ちょっと面白そうだ)で、どこにあるの?彼女の家は?」

「ここからタクシーで行ったところなんだ」

だりぃ~~~~…

お兄さんは地下道にあるお店で働いていようだ。仲間とともにビールを飲みながら店じまいをする。てか知らないヤツについて行って大丈夫なのか?どこかで身ぐるみはがされたりしないだろうか?サブバッグにはばっちしパスポートやら現金が入っている。今までの僕なら間違いなく宿に帰るパターン。

だけど、隣りの店の人や駅員と会話してたし、ここには監視カメラが設置してある。僕たちが一緒にいた映像は残っているはずだ。メトロ前でシャウトして駅員に怒られてみた。これで僕がこの場所にいたことは証明できる。「はぁ~、こんなところにも監視カメラがあるんだねぇ」とわざとらしく言ってみたがお兄さんは気にもとめていなかった。まぁ、ついていってみようかな?

お兄さんの友達と一緒にタクシーに乗り込んだ。てか朝メシ以降、カプチーノしか胃袋に入れてねえや。ビクビクした様子よりかはむしろイライラしてやれと、タクシーの中は「腹減った!腹減った!」と連呼(笑)

「彼女の家ってここからどれくらい?」

「10km離れたところだ」

マジかよぉ~~~~~...

でも、タクシーけっこう走っちゃってるしなぁ。途中で降りるわけにもいかないし…。不安はあったが、『自分がどうなってしまうんだろう?』という時に感じる気持ち悪い汗かかなかった。

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タクシーは郊外で停まった。

エレバンから10km離れるだけで、人々の暮らしは慎ましくなったように感じる。オレンジ色の蛍光灯が辺りを寂しく照らし出していた。

「マイ・ビューティフォー・ガール」と彼女の家まで歩き出すお兄さんとその友達。

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「荷物を持とうか?」と申し出てきたが、僕は彼のことがまだ信じられなかったので、サブバッグに原稿用紙や漫画の道具が入った手提げバッグにギターを肩から下げたままだった。彼女の家らしき前まで行って、急にお兄さんが元来た道をゆっくりと引き返した。不自然に見られない速度で。

「えっ?あそこが彼女の家じゃないの?」イライラした調子で僕が尋ねる。

「彼女のお父さんだ」

ほんとかよぉ~?

怪しまれないように、夜中に散歩している体でゆっくりと彼女の家から離れて行く僕ら。

なんだかんだ言って、人気のある場所から離れようとしてないか!!??

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ますます信用できなくなってくる。

「なんてこった!いつもならお父さんはいないのに。今日はバッドデーだ!」せっかくのサプライズが失敗しそうで困惑気味のお兄さん。

「あ~!腹減った!ハラ減った!ハングリ~!」

こっちもどんどんイライラを募らせる。ように見せる。いつの間にかギターを奪われた。お兄さんはたまたまやっていた売店でアイスを僕に買ってくれた。それをかじりながら彼女の家のまわりをぐるっと一周する。

そしてもう一度彼女の家の前に行った。

「よし、唄ってくれ。あまりで大きくない声で」

「あ~、はいはい分かりましたよ」

ったくなんなんだこのシチュエーションは!!??たまたま見かけた路上で唄っているヤツをスカウトして彼女の家の前で唄わせる意味があるのか!!??てかてめえの彼女なら自分で唄った方がよくないか!!??フルコーラスで歌っても彼女の姿は見られない。

「長くこの場にいるのはまずい!彼女のお父さんとバッティングしてしまう!一旦ここから離れよう!」

再びその場を離れようとするお兄さんとその友達。進む先は電灯もない暗がり。もう信用できねえ。

「おれはそっちには行かないぞ!」

「彼女のお父さんが来てしまう!」

んなこたぁ知ったこったねえよ。

困った様な顔で、お兄さんは彼女の家の前まで引き返し、もう一度Stand by meを唄うように僕にお願いした。ああ。いいよ。唄ってやるよ!彼女に聴こえるようになぁあああああ!!!!とシャウト。
近所迷惑なって知らん!おれは雇われなんだ。おれを誘ったコイツが悪い!唄っている最中にお父さん登場(笑)そこから始まる説教。僕熱唱。彼女不在。

唄い終わったあとも、説教は続く。僕もここから離れるわけにはいかない。5m脇で体育座りをしてタバコをふかしながら、僕と彼の友達は説教が終わるのを待った。てか「彼女いなかった」ってマジでギャグだな。

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15分ほど説教され、お兄さんと彼女のお父さんは握手をして話を切り上げた。

ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、僕も申し訳ない気持ちになった。僕を雇ったばっかりに、彼女のお父さんの説教だなんて…。

「お父さん、大変ですよね。娘さんを持つって言うのは。その気持ちよぉ~~く分かります。でも、彼も悪気があってやったわけじゃないんですよ。だって歌をプレゼントするなんんてロマンチックじゃないですか?だから彼のこと、許してやってください(ここまで日本語笑)」

ジャパニーズ・スタイルで斜め45°に頭を下げて、僕もお父さんと握手した。

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帰りのマルシェの中でサハク(お兄さんの名前)は興奮気味に言った。

「最初は彼女がいなくてバッド・デーかと思ったけど、グッド・デーだったよ!
なんだかんだでお父さんと話せたんだ!ありがとう!」

分けも分からず握手するサハクと僕。

「えっ!!??グッド・デーなの?」

そんなサハクは子供たちに空手を教える先生でもあった。25歳。僕と同い年だ。マルシェでそんな話をしていると彼に親近感が湧くようになった。悪いヤツじゃなかったんだな。

「どうだい?明日僕の空手教室に見学しに来ないかい?ギターも持って来てくれよ」

空手教室は18時から。明日の17時に僕が作業場としているクイーン・バーガーに迎えに来てくれるらしい。面白くなってきた♪

そして理解できたのは、年頃の娘を持つお父さんの気持ちだった。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。