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「僕がやっているのは生活すること」

世界一周306日目(4/30)

韓国人の男の子が宿にやって来た。

それは昨日のことなんだけど、童顔の女のコのような顔をした26歳の兵役終わりの「チャン」という名前の男の子だった。まさか僕より年上だなんて思わないくらい、その風貌にはどことなく幼さが感じられた。

リダさんの朝のコーヒーをいただいたあと、僕たちは一緒に朝市へとでかけることにした。チャンはATMでお金がおろしたいらしく、僕たちに(今現在この宿には僕を含めて4人の日本人が泊まっている)お金を下ろせる場所を尋ねて来た。つってもなぁ、ATMなんてどこにでもあるよ。

朝市で、僕はその日の食べる物のほとんどは買ってしまう。そしてここではできるだけ、フルーツや丸かじりできる野菜を買うことを心がけている。アルメニアではそこいらでパンやケバブやピロシキを食べることができるが、安くてお手軽な物だけ食べているとどうしても野菜が偏ってしまう。

ここ数日、食べなさ過ぎて口内炎ができてしまった。ちゃんと野菜を摂取しないと。朝市で手に入れたのはトマトとリンゴ、バナナをひとつづつ。そして安くて巨大なパン。

「そのバナナいくら?」

お金を 降ろし終えたチャンが尋ねた。

「えっと250だよ(62yen)」

「え…、うん、いいや。あとで買うよ」

急に渋りだすチャン。

えっ?高いの?⁇!!!!
けっこうな倹約っぷりだぞ!

そう言えばトモミさんがオーストラリアでワーホリをしていた時のことを話てくれた。韓国人についての話だ。

「オーストラリアってすごい時給が高いの。20ドルくらいのところとかザラにあるの。

だけど、どこの町が稼げて、どこの町が稼げないとかもあるのね。それを見分ける一つの目安が「韓国人が多くいるか?」ってことなの」

オーストラリアにワーホリしにくる韓国人はかなりやり手らしい。ワーホリに来ているのにシェアハウスを運営しちゃって、自分の仕事とは別にお金を稼ぐ人もいるそうだ。シェアハウスと言っても、もちろんそんなすぐに運営できるわけじゃない。手続きが煩雑でいろいろと大変なようだ。

「でも、外国人でシェアハウスを運営する人はたいてい韓国人なんだよね」

とトモミさんは言っていた。

朝ご飯を調達し終えてリダさんの家でご飯を食べながら、僕はチャンの旅の話に耳をかたむけた。するとチャンの旅でのお金の使いっぷりが徐々に見えてきてた。その中で彼のスタンスが如実に現れていたエピソードは「ドバイに8泊した」というものだった。ドバイだって?ドミトリーですら高いのに一体どこに泊まっていたんだ!!??

「空港だよ。シャワーもあるし快適だったよ」

く、空港に8泊も…。すげえ根性だな…。

「そのかわり、七つ星ホテルの朝食を60ドルで食べたよ。予約してね」

ろ、60ドル!!??
泊まったら一泊うん十万円もするであろう七つ星ホテル。予約をしないと中に入ることもできないらしい。そこでチャンは朝食だけ予約をして60ドルの朝食を楽しんだそう。こんな彼だからブルジュ・カリーファにももちろん登っている。いやぁ、お金を使うことに関してメリハリがはんぱねえな。62円のバナナと60ドルの朝食。

別に彼は世界一周という長期の旅をしているわけじゃない。ロンドンから旅を始めて現在3ヶ月、東方向に進んで来ているそうだ。

「いつ韓国帰るの?」

「わかんない。予定なんてないんだ。韓国に帰るチケットも持ってないよ」

自分の生まれた国に帰る航空券を持っていないのは僕も一緒だ。

2年の旅の予定ももしかしたら伸びるかもしれない。ただ、彼の言い方から「世界を気ままに旅をする」そんな感じを受けた。

いつまでも弦の再生でしのぐわけにもいかない。
気づいたらタイでインドで買ったバラ売りの弦のストックがなくなってきた。連日のバスキングで必ず一回は弦が切れる。そのほとんどは1~3弦。

せっかく修理したのに、また他の弦が切れることなんてしょっちゅう。そのたびに僕はギターケースを閉じてしゃがんでギターの弦の再生にとりかからなくてはならない。せっかくノってきてレスポンスも得られるようになった時に弦が切れると、今までの流れの様なものが失われてしまう。「場を温める」っていう表現があるように、お笑い芸人の気持ちが少し分かったよ。あれ、冷めるちゃった場をもう一度温めるのってけっこう大変ね…。

僕は楽器屋さんを求めてメトロに乗り込んだ。

リパブリック・スクウェア周辺を一通り歩いてみて、楽器屋がないように思えた僕はフィーリングを頼りに、エレバン駅から4つ目の駅までメトロで行ってみることにした。


「楽器屋はどこにあるんだろう?」自分のまだ行ったことのない場所まで行ってみて、そのエリアの雰囲気を味わう目的もあった。

別に今日楽器屋が見つからなくてもいいのだ。スローにいこう。急ぐ必要はない。

マップアプリで自分のいる場所を確認すると、少し歩けばショッピングモールがあることが分かった。街の電子広告に「Dalma Mall」というのを見たことがある。けっこうお洒落なCMだったし、もしかしたら、そこへ行けば楽器屋さんもあるんじゃないか!!??期待に胸を膨らませて僕は歩いた。大きな橋を渡り、遠くの方にまるで富士山のようなアララト山が見えた。あぁ、僕の街があんな遠くに見える…。

そして辿り着いたショッピングモール。

モール内にはシネマもあるようだ。

映画の宣伝広告が建物の外に大きく出ていた。今回のスパイダーマンの敵はけっこう手強そうだ。

モール内のほとんどのお店はTOPMNやGAPなどのアパレル店だった。一階のフロアにはまだテナントが入っていない箇所もあった。

そして時計を扱うお店や高そうなカフェがあり、モールの中央には車まで置いてある。もう見た感じ楽器屋さんなんてない。

一応、モール内のスタッフに楽器屋があるか尋ねると。案の定「ノー」と言われた。そうだよね…。うん。わかってた。

12時前のモールにはほとんど人がおらず、とてもじゃないがここでバスキングなんてできたものではなかった。まぁ、アルメニアのショッピングモールに来た。そんなとこだ。

このモールにはフリーのWi-Fiが飛んでいた。やっぱり楽器屋さんを探すのに調べた方が無難だった。

「Yerevan instrument」なんて検索をかけた。楽器屋がないこともない。アランストリートというところに行けば楽器屋さんがあるようだ。

住所を調べ、マップアプリでだいたいの場所にピンを打って、僕はDalma Malをあとにした。

それにしてもアルメニアのおねーさんたちは脚が長いなぁ…

一軒目に僕が足を運んだのは「YAMAHA」の楽器屋だった。

さすが首都。見た感じしっかりしている。お店のスタッフたちは店内にある大画面の液晶テレビで音楽の編集をしていた。

見るからにお金を落としそうにない僕が入って来ても見向きもしない。申し訳程度に接客してくれた店員からはあまりやる気のようなものを感じなかった。中ではもちろんYAMAHAのギターの弦も売っていた。だが、僕が選んだのは500円の一番安い弦だ。店員いわく「ドイツ製で練習にはぴったり」らしい。

10ドル以上する高い弦はまだ僕には早い。バスキングの稼ぎの半分以上が飛んでいってしまうからだ。弦の具合もどのようなものか分からなかったので、とりあえず1セットだけ購入しておいた。店員には愛想のかけらもない。そんなもんだ。

だが、もう一つここには楽器屋があるのだ。そっちはどんな感じだろう。

次の楽器屋はなかなかすぐには見つけることができなかった。注意してみないと楽器屋だとは分からなかった。

ガラスドア越しにギターが見えなければ、閉店してしまったのではないかと勘違いしていたことだろう。中に入ると店員さんたちは僕を温かく迎えてくれた。楽器屋によって印象が変わるなんて。

「うちのお店では日本のメーカーの物も扱っているんだよ。ピアノだとカワイとか」

確か「カ」行から始まるメーカーの名前だったと思う。聞き慣れないピアノメーカーの名前を出され一瞬「ん?」っとなる。

弦はお客が自由に手に取れるようにはディスプレイされていなかった。自分の欲しい弦をスタッフに伝えると10ドルくらいのエクストラ・ライトの弦をスタッフは渡してくれた。これも楽器屋さんによって対応が全然違う。イランなんてエクストラ・ライトの弦そのものがなかったし、外国人の僕の対応をすげーめんどくさそうにしていたのを覚えている。

「外からやって来たお客さんですからね。少し割引しますよ♪」とスタッフが言ってくれた。そりゃ安い方がいいんだけどさ、やっぱ人だよなって思う。こっちちょっとくらい高くたって僕は気持ちよく買えただろう。

「どうしてここのお店が分かったんですか?」と、スタッフさんは僕がここのお店に来たことを少し驚いているようだった。

ここで僕は3,500ドラム(865yen)に割引してもらったフェンダーの弦を購入した。

弦のストックがあることで、バスキングをする際に僕を安心させてくれる。まぁ、一つの弦の再生が3~4回だから、最低でも6回は1弦が切れても大丈夫だぞ!と貧しい計算を頭の中で叩き出す。

よし、それじゃあここいらでも唄ってみるかな。

目をつけたのは地下道だった。

地上では信号もついているのだが、アルメニアには大通りの下を地下道が通っていることがある。僕も何本か調べて来たが、そこまで人の通りはないの地下道が多い。ここもそうだった。

だが、地下道のいい所は声が反響するところだ。地上で車の走行音を気にして声を張り上げる必要性もない。地下道の一部は工事中で、どこかオシッコの臭いがした。わざわざこんな場所でやる必要はないんだけど、地下道を発見した以上、ものは試しだ。

人通りも少ないがレスポンスがないわけでもなかった。少し離れたところからしばらく僕の歌を聴いてくれるおっちゃんもいた。ここはアップみたいなものだ。次に行こう。

ここに来てから同じ場所でなるべくやらないようにしていたけど、
結局僕が主戦場に選んだのは昨日と同じ場所だ。

ここも『迷惑なんじゃないか!!??』ってくらい気持ちよく声が通る。でも、さすがに昨日とは全く違うレパートリーで唄うことはできない。

僕のレパートリーはせいぜい20曲にも満たないだろう。だが、唄い方は変えることができる。いくつかの歌は自分のなりのアレンジが入っている。今回はクラムボンの唄い方を意識して、呟くような、ぶつ切りになるような唄い方だった。もう自分さえノれればいいや。歩行者と目もほとんど合わせないでひたすらに自分の世界に入った。何かに取り憑かれたように唄った。

レスポンスが入ったことに気づけば「メルシー!」とお礼を言うが、この日は入るお金もまったく気にしなかった。そんな僕に興味を持ってか、英語で話しかけて来てくれた女のコとお喋りすることによって僕の路上演奏は終了した。

いつものクイーン・バーガーで集計すると15ドル分くらいだった。

そんなもんかぁ。やっぱり、聴いてくれる人とのコミュニケーションがないとレスポンスにも関係してくるんだなあと思う。

こうして一日の終わりにバスキングをしてリダさんの家へ帰る生活リズムになり、変わったことと言えば食事の量も減ったことだ。

20時過ぎには飲食店はほとんど閉まってしまう。夕飯は売店でパンを買ってコーヒーを飲むくらい。そしてお風呂に入らなくなったこと。実は今日で3日目だ。リダさんの家にシャワーがないのもそうなんだけど、ここにいると不思議とお風呂に入らなくても大丈夫になってくるのだ。てかシャワー行くのがめんどくさい笑。ケチケチしてんのさ。汗をかいても体が臭わないし、ベトベトしないのだ。髪もそこまでゴワゴワしない。

国によってこんなに違うものなのか。日本では1日お風呂に入らなかっただけで気持ち悪くなるのに、ここでは一週間だって大丈夫な気がする。空気が乾燥しているせいもあるだろう。

そんなことを言ってもやっぱり頭は洗っておきたい(笑)

リダさんの家のトイレで頭を洗う。ねえ知ってるかい?「頭を冷やせ!」って言葉があるけど、頭を冷やし過ぎると痛くなるんだぜ?そのくらい夜の水は冷たかった。この調子じゃたぶん明日もシャワー浴びないなぁ。

現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。