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「旅する寿司職人と会う in クロアチア」

世界一周408日目(8/10)


寝ている間に雨が降ってきた。

寝袋から出した顔の部分にかすかな気配を感じた。
見上げると、空一面に雲がたちこめている。

これは雨のほんの始まり。
待てば止むもしれない。
そもそもこれは雨って言うほどの雨じゃない。

『もしかしたら雨になるぞ』
って言う予感みたいなものだ。

そして僕は再びまどろみの中へ戻っていった。
野宿していると睡眠が浅いのが常だ。

だが、「外で寝ている」と
体が野宿モードとも呼べる状態になる。
短い睡眠でも比較的大丈夫。
人間の体って不思議だ。



目覚めたのはキッズコートの遊具の中。

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こんな場所でも寝れるようになった僕は
そろそろホームレスの集会から
声がかかるかもしれない。

滑り台から荷物をシュート!

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ポケットからiPhoneを取り出し
時刻を家訓にすると8時23分。

今日もばっちし8時間以上の
睡眠をキメて優雅に活動を始める。

『今日はどうしよう?』
そんな言葉が浮かんでしまう僕は、
ここが日本だったらただのクソ野郎
だなって思うのだ。

日本で勤勉に頑張られている
みなさんのことを思うと頭が上がらない。

高橋歩的に言うなら
「ちょーリスペクトっす!」だ。
いや、マジ真剣に。



バックパックから昨日買っておいた食糧の残りを出す。

パンとプラムだ。

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季節ものなのかどこのスーパーにも置いてあるし、
皮をむかなくてもすぐに食べられるのがポイント!
って前回も同じこと書いたな。

公園のハトにパンをちぎってやる僕の姿は
かなり哀愁が漂っていたことだろう。


ハトたちを見ていると面白いことに気がついた。

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ひとつのパン屑に対して
倍率が2~3倍に上がると、
まぁ当然のごとく競争が起こるのだ。

ハトちゃんたちに「平等」とか「シェア」だとか、
そんなきれいごとみたいな考えは全くないわけでして、
誰がパンにありつくかは"早い者勝ち"なわけです。

そしてそこに力関係があるみたいで
強そうなハトがエサを奪い、
時々自分の狙っていたパンに来る
他のハトをツツこうとして脅すわけですよ。
ジャイアンかっつーの。

反対にヨボヨボで汚くて、
おじいちゃんみたいなハトもいるわだが
僕はそういうのを見るともう
なんだかいたたまれない気持ちになってしまって、

片方の競争倍率を上げておいて、
ハト共が群がったところに、
そのおじいちゃんバト用に
パンをピンポイントで放るのだ。

おじいちゃんバトもヨボヨボで目が悪いのか、
ちょと放るポイントがズレると
「あれ?どこだっかなの~?」って
地面をツンツンしながら探す。

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その隙に別のハトかもしくは敏捷な雀が
それをかっぱらって行くの。

こういう争いを見ていると、
なんだか悲しくもむなしくもある。
根本的なことは人間も同じなんだろうか?
僕はそうではないと信じたいーっ...て



ーーーって、
僕、マジで暇人だな!


や、15分とかだよ?
そんな冷たい目でみなさんなって!

スーパーで朝ご飯をさらに買って、
ムシャムシャ食べると僕はマクドナルドに向かった。



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旅に出てからこの日記を書くのことが僕の習慣になった。
1年以上も世界一周の日記を細々と書いてきたのだ。
それによって出会いにも恵まれた時もある。

外に出っぱなしの一日を過ごすことになって、
書いていない分の日記をまとめて書くようになった。
こういう「作業日」も必要なのだ。
作業日って言うと仕事してるっぽいよね。

カプチーノを注文して、
コンセントのある席でカタカタとキーボードを叩く。

いろいろと勉強すれば
いいサイトを作ったり、収益化できるんだろうけど、
僕にそんな余裕は無い。
この雑記とも呼べる日記書くだけで精一杯なのだ。

写真をアップロードして、書いた日記を貼付けて改行して、
アップして、次の分も予約投稿なんかしちゃったりしてー、
って全然リアルタイムに追いつかないなぁ…。

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そんな時に声がかかった。

「あのー、日本人の方ですか?」

「え!!??あっ、はい!
なんでしょう??」



『えっ???おれ何かマズイことしたっけな?』

とっさに頭に駆け巡ったことがそれだ。
今自分が今パソコン荷向かって作業しているってのもある。



「旅されてるんですよね?
さっきそこに座ってたんですけど、
Macで作業しているの見て日本人かなぁって。
旅の話、訊かせてもらってもいいですか?
僕も旅が好きんですよね」

タニミズさんはそんなダイレクトな方だった。

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「もしこれで嫌な顔されたら
そのまま帰ろうと思いましたよ」
と言っていたので、

僕も「話しかけないでくれオーラ」が
出ていなかったことに安心した。
そんなことは一切思わないけどね。



簡単に自分の自己紹介をして
どんな旅をしてきたのかを話す。

「え?じゃあ僕と
同い年じゃないですか!
25歳ですよ!」

驚きだ。

そしてされらに驚きなのは
タニミズさんが
寿司職人だったってこと。

世の中には日本の寿司職人たちを
海外の斡旋するエージェントがあるらしい。

ご実家が寿司屋のタニミズさんのDNAには
寿司職人の血が流れているに違いない。


それにしてもなんで海外に出ようと思ったのだろう?

僕も「移住」に興味を持っている。

パソコンの画面を閉じて「旅する漫画家」の僕と
「旅する寿司職人」のタニミズさんの
トークセッションが始まった。

タニミズさんは僕にフィレオフィッシュとナゲット、
そしてコーラを奢ってくれた。
貧相な食生活を送っている僕にとってはごちそうだ。

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タニミズさんは去年、
24歳の時にベトナムのハノイの日本料理屋で
一年間働いていたそうだ。

「ベトナムは若い人たちの勢いがあるんだよ。
日本は人口がどんどん減少して、
若い人たちの数が少ないけど、

ベトナムはその逆で、今経済が
ものすごく発達しているだ。
みんなお金のはぶりがいいんだよね」

以前ベトナムを旅行した時に
ベトナムの持つ「エネルギー」を感じた
タニミズさんがいくつもある候補地の中から
選んだのはベトナムだった。


そして一年の契約が終わり、
次に目をつけたのがここスロベニア。

「なんでスロベニアにしたんですか?」

「他にもギリシャとかがあったんだけどね、
先に他の人が選んじゃってたんだよ。

そこで地図を広げてみると、
スロベニアって他の国と
めちゃくちゃ近いことに気がついたんだ。
それにイタリアのトリエステから
新鮮な魚が仕入れられることにもね」

目をつけるポイントが違う。

この時、僕が海外で働く寿司職人の話を聞いていて
一番面白いと思った点bは、
海外で日本食を作ることに対して
イマジネーションと即興性が必要とされる
ということだった。

海外で日本料理を作るわけだから、
もちろん環境も違えば食材も違う。

いくつかの材料は日本から取り寄せることがあっても、
その全てを日本の者で賄うわけにはいかない。

100%の日本食を作ることは不可能だ。
いかにその100%に近づけるかが求められる。
日本料理屋に来るお客さんが求めている物は
「日本の味」だからだ。

現地に滞在する商社や大使館で
働かれる人にご飯を作ることもあるそうだ。


タニミズさんは寿司以外にも料理を作る。

料理長がいないときはタニミズさんが
その人たちのオーダーに応えなければならない。

「なかには「お任せで」って
注文する人もいるんだよ。

そういう場合って予約があれば
こっちも準備できるけど、
突然ふらりと来てそんな風に注文されると、
こっちもある材料で日本食を作らなくちゃならない。

料理長には「即興でやれ」って言われてる」


寿司職人のタニミズさんから聞かせてもらう
話のほとんどは僕にとって新鮮だった。

彼らはアーティストだと僕は思う。
いつも冷蔵庫のことが頭にあるのだとか。
もう根っからの職人だ。



話は日本のことにも及んだ。

タニミズさんは辺りに日本人がいないか
キョロキョロと見渡しながらこう言った。

「今の日本ってつまらなくないか」と。

タニミズさんは日本で
ドロドロになるまで働いたことがあるそうだ。

今の日本はどこかおかしい。

言及しているのは飲食店やいわゆる
「ブラック企業」で働いている人たちのことだと思う。

僕もフリーター時代、社員さんたちが
ほとんどの時間をお店に注ぎこむのを見てきた。


「その時は体を壊したんだよね。
日本の飲食チェーンや居酒屋で
過労死する人がいるけど、
それって130時間くらいで死んなんだけど、
おれは180時間だったんだ。

だからあの時、
「自分は一度死んだんだ」と思うことにしたんだ」

今の職場では
「一日に8時間までしか働いちゃだめだからね」
と言われているらしい。余裕がある。

日本の身を粉にしてトコトンまで
仕事に時間をそそぐことによる体育会系の
根性論みたいな美談は今もあるだろう。


長く働くことが「よし」とされている。

働かなくてはならない。
よくわからない義務感じだとか
責任感が日本の労働環境を覆う。

旅してきて僕が思うのは
日本で働く日本人の方々は
「すごく真面目」だなってこと。

店員が暇そうにしているのを見ると、
ついつい日本と比較してしまう僕だが、
果たしてそれが本当にいいことなのだろうか?

労働に見合った
お金をもらっているのか?

その人の人生は豊なのか?

こんな世界をプラプラ旅して
「働く」ことの意義なんかを
とやかく言えないのは分かってるさ。

でも、そう考えるのだ。


タニミズさんが
世界で働くことを周りの仲間に告げると、
そのほとんどは反対したそうだ。

だが、そのうちの一人の先輩が言ってくれたのは

「君は旅する料理人になれ」

だった。

お店の方々も、今日、タニミズさんが
クロアチアに日帰りで来ることに
大賛成だっと言う。良い職場だ♪

タニミズさんの話を聞いていると、
彼ならこの世界でやっていけるだろうなと思った。

僕なんかよりもよっぽど現実的で、それでいて夢がある。

熱量を伴う話は僕たちを前へと進めてくれる。





せっかくこうして
話かけてきてくれたのだからと、
僕も通りでバスキングをした。

昨日よりかは全くもって
お金が入らなかったけど、楽しければそれでよし!

そしてその後、広場で二人でビールを飲んだ。

最近ようやくビールの味が分かって来た気がする。

違うな。

「誰と飲むか」だな。

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旅をしていると「予期せぬ出会い」に恵まれる。

それもとびっきりのヤツに。

そして今日も僕は
お気に入りの公園へと向かうのであった。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。