「高台でちょっと惨めな気持ちになる in アルメニア」
世界一周318日目(5/12)
キヨタさんのいびきで目が覚めた。時刻を確かめると7時半。二度寝しようかなとおもったが、いびきが気になって眠れなかった。たまには早起きもいい。ベッドから出ると僕は市場に朝食を買い行き、中庭のテーブルで早めの朝食を済ませた。朝の空気はひんやりとする。「さみぃ~!」と言いながら肘と肘を擦り合わせた。明日、僕はグルジアに向け出発するのだ。それまでに済ませておかなければならないことがある。
それでもキヨタさんが宿を出発する10時くらいまではグダグダしてたんだけどね(笑)だってお店が開くの10時くらいっしょ?早く待ちに出過ぎても散歩するくらいしかやることがないよ。雑貨を包む新聞紙がないか、キヨタさんの持っていた「指差し会話帳」を頼りにリダさんに尋ねると、いつの間にか違う内容で伝わっていたのが面白かった。そんなリダさんの片手には日本人向けのロシア語の本が。
「別についてこなくてもいいよ?」キャリーバッグを持ってリダさんの家から出ていこうとするキヨタさん。
「お客さんをお店の外までお見送りするのが「串焼きおんば」です♪」と僕は言った。僕がバイトしていた串焼き屋ではお客さんをちゃんとお見送りするというのが決まりなのだ。世界一周前に働かせてもらったお店のマインドは未だに僕の中に残っている。
そうしてまたこうしてリダさんちに泊まった人が次の目的地へと出発していく。僕も明日にはその一人になる。今泊まっているのは僕の他に韓国人のチャンソク、チュニ。そして新しく来た中国人カップル。女のコの方がめちゃくちゃ美人。男の子の方は背が高く、「コンニチハ」と僕に挨拶してくれた。ここは日・中・韓に有名な宿なんだね。
仕入れたカップを新聞紙でくむと郵便局に僕は向かった。
リパブリックスクエアの近くにある、ごっつい建物。もう見るからに高そう…。一体どれだけ送料がかかるのだろう?入る前から手に汗を握る。
内装の方もこらまたゴージャスな感じだ。
ここ…、郵便局だよ…ね?受付のお姉さんにどこが郵送できる窓口なのかを尋ねる。並んだ先には先客がいて、カウンターの向こう側にはガムテープでグルグル巻きにされた段ボール箱が計りの上に乗せてあった。自分の番がまわってくるまでの時間が長く感じられた。ああ、ここでWi-Fiが手に入れば時間をつぶせるのに…。ついついそう思ってしまう。
15分ほどしてまわってきた。自分の番。受付のおじさんは英語が少し話せる程度だった。だけど、手続き自体はどこの国でも同じだろう。郵送する荷物を大まかにチェックして、計りに乗せる。3,06kg。今回はコーヒーカップがあるからな。
「荷物はふたつに分けて送るのか?」
「いや!ひとつでお願いします!」
おじさんは紙に金額を書いて僕に渡した。
「45,780(11,273yen)」
うそ….。たかだか3kgの荷物を送るのに1万円以上もかかるのか…??!!じゃあヨーロッパで荷物送る時なんてどうなっちゃうんだ!!!うわぁ~やべえよ。アルメニアで稼いだお金のほとんどが消えちまう。てか今そんなにお金もってないぞ…。頭の中で色んな不安要素がチャンプルする。
「えっ?あっ、マジでこの値段なんすか????」
てかこの「15,000」って書かれたのは荷物ひとつに対して加算される金額なのか!!??こっちのあわてふためきように「めんどくせえな」って表情のおじさん。英語の話せる別の人を呼んで来た。
「荷物をひとつにまとめると45,780ドラムね。荷物を二つに分けて送るなら15,000ドラムよ」
一気に半額以下になった。ってなんだそりゃ!!??どんなシステムだ!!??もちろん迷わず荷物を小分けにして郵送するほうを選ぶ。肝心の支払いだが、バスキングで稼いだコインをここぞとばかりに積み上げた。
最後の最後で1,280ドラムが追加されたが、なんとか手持ちの小銭を減らし、支払いを済ませることが出来た。えっと3kgで4,000円くらいだったかな。参考程度に。
財布の中がすっからかんになってしまった。郵便局の外にあるATMで10,000ドラム(2,462yen)引き出し、キヨタさんからもらったタバコをふかした。この後、ヨーロッパでは雑貨を仕入れつつ移動する旅が僕を待ち受けていることだろう。ヨーロッパで雑貨送ったらそれこそ殺人的価格だ。一体どうすりゃいいんだ?い、今は考えるのをよそう。
郵送を済ませた僕が向かった先は前回行った楽器屋さんだ。
ここいらで弦のストックを物価が上がる前にまとめて買っちゃえば、長期的に見てお得だよね。3,500ドラム(862yen)の弦を三セット。それと9,000ドラム(2,216yen)のチューナーを買った。やっぱチューナーないと心もとないよ。
支払いはカードでって言おうとしたら、よりによってここのお店ではカードが使えなかった。そんな入り口にはVISAとかMASTERとか書いてあったじゃん!と抗議したかったが仕方ない。旅先では時々あることなのだ。しかたがないので泣く泣く近くのATMで20,000ドラム(4,924yen)おろす。まとめて買うので割引してもらってトータルの金額は18,000ドラム(4,432yen)。さっきの郵送費よりかかってる。なんだかんだでバスキングで稼いでも必要経費にとんでいく。まぁそんなもんさ。
今回連日のように唄ってたけど、それなりに楽しい経験ができた。普通に観光してるだけじゃ得られない出会いばかりだった。お金じゃねーよな。うんうん。買ったチューナーは日本製。日本で買ったら1500円くらい。輸入品なんだね…。
帰り道にのぞいたYAMAHAの楽器屋さん。格安のチューナーだと5,000ドラム(1,231yen)だった。マジで返品しようか悩んだ(笑)。エースが「来いよ。高みに」って言ってくれなかったら、僕は返品していたことだろう。ぐぅ…。お金が…。
チューナーを買ったらバスキングがやりたくなるというのが人の性というものだ。どうせ明日にはグルジアに行ってしまうのだから、余計なお金を持っていてもしかたない。ギターを持ってきていなかったので、一旦メトロに乗って僕はリダさんちに戻った。
「シミ!食べる?」
僕が戻るとチャンソクとチュニの二人がパスタを食べていた。きっと僕は物欲しそうな顔をしていたのだろう。二人はニコニコして僕にパスタを分けてくれた。というかー、、韓国や中国のみんなはこちらが「ちょっとちょうだい」と言う隙を与えずに「どう?一緒に食べない?」と申し出てくれるのだ。それが自然なように。旅人の彼らの心の豊かさを感じずにはいられない。僕も見習おっと。
時刻は13時。
二人にお礼を言って、僕はひとまずクイーン・バーガーへ最後のWi-Fiにありいた。
1時間ちょっとウダウダして、店を出た僕はバスキングに向かう前にいつも横切っていた教会に入ってみることにした。
ここに来てから観光らしいことをしてなかったからね。うんうん。こんなでっかい教会だったのか。
エレバンに着いた初日ここに野宿させてもらったのはいい思い出です(笑)
教会を出たころには外はどんどん天気が悪くなっていった。
もちろんこういう時にはもちろんレスポンスも悪いし、『おれなんで唄ってるだ』ってなってしまう。今日は気持ちよく唄いたいだけなのに…。楽しもうと思っても気分がノらない。レスポンスもイマイチ。こういう日もあるんだなぁ…。声の調子も大分戻ってきたんだけどな…。
さて、気持ちを切り替えるんだ!これは僕に観光をしろ!と何かが言っているのかもしれない。無理して唄わなくてもいいじゃないか。だよね?そうそう。
そんな風に無理矢理ポジティヴに気持ち切り替えて、僕はエレバンの街が一望できる高台へと向かった。
空はどんより、だけど、ちょっと不思議な空間に僕は足を踏み入れることとなった。そこにはシュールな彫刻がいくつも展示してあったのだ。
そのうちのひとつはボテロのものだろう。ボテロの名前は他のブロガーさんの名前で知っていた。たぶんその人のデザインした像…なのかな?どういう意図でこの場所にこんなシュールな彫像を置いたのかは僕には理解できない。かなりアーティスティックな場所だ。
頂上へ向かう階段の途中。何組かのカップルを見かけた。中には熱烈にキスを交わすカップルもいたくらいだ。ガン見しないように視界の端に彼らの姿をとらえていた。
いいよなぁ。アルメニア男子はさー。カワイイ女のコとつきあえてさー。おれだってチューしたい!
息を切らせながら辿り着いた頂上。
ここでも何組かのカップルを見ることとなった。頂上から眺めるエレバンには僕はそこまで心を動かされなかった。最後の最後でバスキングが上手くいかなかったのもあるし、さっきから僕のテンションを下げるかのようにカップル共が僕の視界に入ってきやがる。暗雲はそんな僕の卑屈な気持ちを乗せてエレバン市内の向こう側へと移動し行った。
時刻は20時前。
西日が雲の隙間からエレバンの街を照らす。あぁ、僕はあの街に20日もいたんだな…。遠くの方に見える、台形の形をした建物は発電所だろうか?高台の頂上は強風が吹いていた。僕はタバコに火をつけて煙を少しは肺まで吸い込んだ。メンソールが余計にひんやりと感じられた。
そして僕は風に吹かれてちょっとだけみじめな気持ちになる。後頭部で結んでいる伸びた髪は前髪だけみすぼらしくはだけ、とてもじゃないが女のコを口説けそうじゃない。ギターを取り出し、買ったばかりのチューナーで音を合わせ、奥田民生の「さすらい」をシャウトしたら、どこからともなく警備員が現れて演奏を中止させた。そうかい。ここはカップルの楽園なんだなっっっ!!
帰り際に聴いてくれていたお兄さんが「グッド!」と親指を立ててくれたことが僕のみじめさを少し紛らわせてくれた。帰ろ帰ろ。
最後の悪あがきに声の響くメトロの地下道で僕は唄った。声が気持ちいいくらいに響く。それに合わせて最後の最後でレスポンスが入った。
またドミトリーに別の日本人がやって来た。グルジアからやって来た女の人で、3回にわけて世界一周をしている人だった。トルコあたりから旅を再開し、東南アジアを抜けて事実上世界一周が達成されたことになるらしい。
7年使っているというオーストラリアでのワーホリ時代に買ったと言うバックパックは随分と年期が入っていた。こういう風にずっと使っている物ってなんだかかっこいいな。
いつもならお喋りな僕は頃合いを見て話を切り上げた。
黙って頭の後ろで手を組んでベッドに横になった。ここに20日もいたのか…。
ここを離れることに寂しさの様なものは感じない。また、別の場所に移動する旅が始まるわけだ。僕がやっていることはひとつの場所に長く留まることじゃない。世界一周という一方通行に世界を進む旅だ。先のことを考えると、どこか不安な気持ちになった。行く場所はどこも知らないところばかり。
それは当然なんだけど、未知なる場所に足を踏み込むのに不安を抱く時がある。慣れ親しんだ場所を離れたくないと思ってしまうのは、日本にいても、エレバンに長く滞在しても同じだった。だけど、それだけじゃ何も得ることができない。グルジアかー。一体どんな国なんだ?
知ってることはトレッキングができる場所がいくつかあって、ワインの飲み放題とメシが美味しいってことくらい。
「グルジアに行くのがワクワクするような話、なにかしてくれませんか?」
寝る前にさっききた女の人に無茶ぶりをしてみる。
「うーン、特にないですねぇ」
な、ないのかよっ!!!
「強いて言うならー…」
そんな風にして僕はアルメニア最後の一日を過ごした。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。