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「復讐の塔 in ジョージア」

世界一周 337日目(6/1)

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誰かに
声をかけられた。

人の気配を察知して猫のように起きると、
近所のおばさんらしき人が僕のことを見ていた。

寝袋の中から、いつも以上に
親しげな笑顔でおばさんに向かって親指を立てた。

クタイシ出発の朝は建物の脇にある
忘れ去られたようなベンチの上からで始まった。

時計を見ると7:00。まだ時間あるな。
寝よ寝よ。


30分くらいして再び声がかけられる。
目を開けるとそこにはさっきのおばさんの姿。

言葉は分からなくても
「ここで寝てくれるな」
と言っていることは理解できた。

うん。だってね、不審者ですもん笑。

僕が荷物を片付けている間も
おばさんはずっと僕のことを監視していた。

いやいや、大丈夫だって!
二度寝かまさねーから!
居座らねーから笑。

バックパックを背負うと
おばさんに笑顔でグッバイと言った。


飛ぶ鳥跡を濁さずだ。
そのまますぐ隣のバスターミナルへと向かう。

次の目的地はメスティアという場所。
そこから少し離れたウシュグリ
という場所へ行ってみたかった。

アルメニアやグルジアで会ってきた旅人たちは
だいたいそこへ行っていた。

ウシュグリの写真をネットで見つけたとき、
僕もそこに行ってみたいと思った。


メスティア行きのマルシェを見つけると、
僕は中に入ってずっと寝ていた。

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やはり野宿すると、
気が張ってしまって十分に睡眠がとれた気がしない。

人の気配を感じると寝袋から顔を出して辺りを伺う。

外で寝ると一番冴えるのは聴覚だ。

物音に敏感になる。

風に吹かれたビニール袋が
地面に擦れた音でも気になってしまうのだ。

一時間ほど車内でまどろんでいると、
運転手のおっちゃんから呼ばれた。
マルシェの移動があるらしい。

なんでよ‼︎⁉︎

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一番乗りで来ていたのに、
二台目のマルシェに乗り込む時は一番最後だった。

しかも空いてる席は最後尾のど真ん中。

僕のとなりにはふくよかなおじさん。

「さぁ、こっちが空いてるよ?」
と横にずれてくれたけどー、

「エクスキューズミー」と言いながら、
乗客を詰め込んだ車内でなんとか
自分の席までたどりついたが、
内心は舌打ちしまくりだ。

普通マルシェってのは
大型のワゴン車なんだよ。
15人くらい乗れて、天井が高い。

二台目のマルシェは小型のバンだった。

最後尾に4人、通路を挟んで
2人がけのシートが二列。
その反対側に一人席。もちろん補助席もある。

運転席の後ろには三人掛けの席。
助手席には二人座れるスペースがある。

あっ、15人以上乗れるな。

まぁ、狭かったんだよ。今回のマルシェは。
そして座ったのが微妙な席だったってこと。

それに加えて車内は暑かった。
じっとしていると腕が汗で湿った。

開けることのできる窓は前の一、二列にしかない。
そこに座っている人が暑さに喘いでいる僕に
気を遣ってくれることはまずないだろう。

僕にできることはひたすら寝ることしかなかった。

12:00の途中休憩で外の空気を吸った時には
いかに自分がみじめな席についていたかが理解できた。

となりのおじさんとか
よくあれで耐え切れたなと
感心せずにはいられないよ。まったく。



5時間ほどして
マルシェはメスティアに到着した。

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僕は泊まる宿こあてもないまま
「復讐の塔」へと近づいていった。

メスティアには
ラプンツェルが幽閉されていそうな
石造りの塔がいくつもある。

どれくらいの昔かは分からないが、
同じ村に住む人間同士にイザコザが生じて
片方が辛酸を舐めさせられた場合、
相手の家族全員に復讐をしてもいいという
掟があったそうだ。

復讐された場合に備えて、
村の人たちはこぞって
「マイ・要塞」を作ったというわけだ。

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「自分だけの要塞を持つ時代です」

だって。

なんだか、マイ食器みたいだな。

僕はそのうちの一つに向かって行った。

中に入ることはできなかったが、
塔の持つ歴史の重みは十分に感じることができた。

塔の近くで一件のゲストハウスが目に留まった。

とりあえず値段だけでも訊いておこうか…

中を覗くと犬が吠え出す。

ちっ、入りずらいな…ここはやめとくー、

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か、カワイイ‼︎‼︎

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な、なに⁈
そのモフモフ感と短い足!
ブサ可愛いいだろーーーっっっ‼︎

犬が怖がらないように
手をグーにしてそと鼻の前に手を出した。

犬の目は少し曇っていた。
たぶん見えていないのだろう。

僕の手の匂いを嗅ぐと、犬は吠えるのをやめた。

「あら、お客さんね」

中から宿のママさんが顔を出した。

「さーせーん!一晩いくらですかー!」

「20よ」

「はい!泊まります!」

まさか犬に
落とされるとは
思わなかった‼︎

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ROZA guest houseはかなり綺麗な宿だった。

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荷物を置くとロザさんは
僕にコーヒーとクッキーを出してくれた。

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山奥に外からじゃ分からない
こんな綺麗な家があるなんてね。


メスティアにも
いくつか復讐の塔があるが、
隣の村の方が多い。

30分かて歩いてそこまで向かった。

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一つの塔につき、一つの家族が
大昔にここに住んでいたということだろう。

塔はどれも同じ形、同じ高さをしてることから、
きっと塔を作る職人さんみたいなのがいたんだと思う。

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これひとつ作るのに
どれだけ時間がかかったんだろう?

もし、完成前に相手が攻めてきたらどうしたんだろ?

「ちょっ!タンマ!
完成前のうちには
復讐しちゃいーけないんだー!」

みたいな小学生の遊びの
ルールみたいなのがあったのだろうか?

てか、復讐されることを前提に塔を作るって、
同じ村に住んでいながら
疑心暗鬼にかられてたんじゃないかな?

それってちょっと寂しいよな…。

誰かいなかったのかな?

「こんなバカな掟やめようぜ?」

ってヤツが。

ひとつやふたつ前の村でも塔を見ることができた。

掟の効力と及ぶ範囲はすごかったんだろうな…。

掟が終わったのはいつだったんだろう?


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帰り道でヒッチハイクを試みると、
助手席に座っていたヤツは
バッドサインをかましてきた。

はは。ガキか笑。

僕が子供の時には立てた親指を
下向きにする仕草は
「地獄に堕ちろ」だった。

ふとそんなことを思い出した帰り道。



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いつもはケチってるけど、
たまには民宿の夕飯も食べてみよう
と15ラリ(869yen)の夕食をお願いした。

出て来たのは食べきれない量のご飯。

この他にもハチャプリやサラダがテンコ盛り!

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同じ宿に泊まっているベルギーやカナダの人たちと
ワインを飲みながらご飯を食べた。

今では復讐なんて馬鹿げたことは
されていない。

外には冷たい風が吹き、
塔は不気味にライトアップされた。

だけど、ここには温かな場所がある。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。