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「この町には縁がない」
世界一周74日目(9/10)
「カンボジアって言ったら「プノンペン」か「シェムリアップ」しか行くとこないでしょ?」誰かがそう言った。
僕の中の「アマノ・ジャック(天の邪鬼)」がムキになる。
『んなろう!そんな決めつけてんじゃねえよ!行ってやんよ!カンボジア他の場所ぉ!』と。
CAPTAL GUEST HOUSEのバスチケット売り場で行き先を調べると「シハヌーク・ビレ」というところに5ドルで行けることが分かった。前日に購入した朝イチのバスチケットを片手に僕はバスを待った。
「あ〜...日本人の方ですか?」
ハットを被り、黒縁のメガネをかけ、カリマーのバックパックを背負ったお兄さんが声をかけてきた。彼はシェムリアップ行きのバスを待っているらしい。これから僕がシハヌークビレに行くことを告げると彼はこう言った。
「あそこはマジで気をつけた方がいいですよ。3日前に大きなデモがプノンペンであったんですよ。それで警察が大分こっちに移って来たらしくてプノンペンのギャングがシハヌークビレに移動したらしいですよ。
おれも最初は『シハヌークビレってけっこういいとこじゃん』って思ってたんですけど、向こうでギャングに刺された日本人に会いましたもん。カンボジア人でさえ殺されてるみたいですね。夜中だけは絶対出歩かない方がいいですよ。
路地裏とか入ったら、後ろから「ズドンッ!」ですから」
お兄さんはそう言ってシェムリアップ行きのバスに乗り込んでいった。
ち、ち、ちょ、超怖いんですけどっっっっ!!!なに「ギャング」って!?映画とか漫画だけの話じゃないの!?しかもデモとかめっちゃ最近じゃないですか!んなこと誰も行ってなかったし3日前に来た時はそんなこと全然感じさせなかったぞ!
し、死にたくない...!!!
だが、遅れてやってきたシハヌークビレ行きのバスに僕は乗り込んだ。これは地獄へ向かうバスかそれともまだ見ぬ出会いへと僕を誘うバスなのか...
バスが出発した後もしばらく僕は頭が真っ白だった。スリルや冒険を求めて命を落とした旅人がいることを僕は知っている。
だけど死んだら終わりだ。旅も。夢も。
...いや、待てよ!これは運が良かったんじゃないか?あのお兄さんに会わずに何も知らないまま夜ふらふらと歩いていて殺されるリスクはなくなったわけだ(ビビリなので夜中は絶対出歩かないけど)。街のリアルタイムの情報を手に入れることができたわけだし知ってることで回避できる危険もある。そうだ!おれは運が良いんだ!
ベタな旅ソングを聴きながら超ポジティヴシンキングに切り替えて自分を落ち着かせ、僕は浅い眠りに就いた。
途中休憩でレストランに立ち寄った。
乗客たちはご飯を食べに外に出た。
シハヌークビレ行きのバスの乗客は全員カンボジア人で短期的な仕事に向かう赤ちゃんを連れたお母さんや書類を読むビジネスマン。前の方でイチャイチャしてるカップル。このバスがギャングの街に向かうとは思えなくなってきた。
ジュースを売ってる女のコは僕と目が合うといたずらっぽさそうに笑った。
僕はソイ・ジュースを飲み、レストランのスタッフに今のシハヌークビレについて治安が悪くなっているのかどうかを訊いてみた。「いや、そんなニュース知らないなぁ。I don't care.You don't care」とスタッフのお兄さんは言う。
『気にしたってしょうがないじゃん?』ってことなんだろうか?現地人でさえこんなお気楽なのに自分が不安がっていてもしょうがないじゃないか。僕は少しだけ安心することができた。
バスを降りるといつものようにバイタクの客引きたちが乗客に群がっていた。街まで5ドルで連れってってやるよ!とか、ここまで来るのと変わらない値段をふっかけてくる。
僕はマップアプリで宿のある場所を調べた。大体2キロほどの距離だ。歩いて行けなくもない。だけど、人通りのないところで襲われたりはしないだろうか?
客引きをふりきってバスターミナルから出ると起伏のある長い道が続いていた。
「だめだ...歩いて行ける気がしない...」早々に諦め、1ドルでバイタクをチャーターすると安宿を探してもらった。
最初に行ったホテルはドミトリーなしの5ドルが最低料金。これではプノンペンと変わらない。別のところを探してと次に連れて来てもらったのはUTOPIA(ユートピア)といういかにも欧米人がバカンスを楽しみにやってきそうな宿だった。
宿の中央にはバーがあり、さらにはプールまでもあった。宿のスタッフに一番安い部屋はどれかと尋ねると1ドルのドミトリーがあった。
8人部屋のドミトリーに案内されるとそこは上段、下段にマットが4枚ずつ並べられた「THE 安宿」的な狭い部屋だった。空気はこもり、変な臭いがする。
僕は寝られるだけましだと荷物を置いてひとまずWi-Fiのパスワードを訊きに行った。
「『ユーノーイッ』よ」スタッフのお女性はニヤニヤしながら言う。
「えっ?「ユノイ?」どーいうこと?」
「だから「ユーノーイット」よ」
「?」
「Can you speak English?」
そう言われてWi-Fiのパスワードが「you know it」だということがようやく分かった。
レセプションのカウンター中にけだるそうにしている欧米人のボスみたいなヤツがいた。ソイツが「お前バカかぁ?」と言ってきた。
「いやぁ、呪文みたいにきこえちゃってね。"アダブカタブラ〜"なんてね(笑)」と、さも「英語は聞き取れてましたよ?でもまさかそれがパスワードなんて思いませんでしたよ」という言い訳をした。見たところここにアジア人旅行者の姿hあない。舐められているということは自分でも分かった。
スタッフの対応にムッとしながらもとりあえずビーチに行ってみた。
ベトナムに引き続きビーチは二回目。遠くの方に大きな雨雲が見え時折雷が光った。ビーチリゾートと言うこともあり食べ物の値段はプノンペンよりも高かった。ビーチにはバーやレストランがずらっと並んでいたが混雑はしていなかった。僕は海には入らず写真を撮ってまわった。
街の中心部へ向かう途中でスーパーで80円ほどのクッキーを買って食べた。
外に出るとスコールが降り出した。
Patagoniaのアウターを羽織るがとてもじゃないが宿まで辿り着けそうもない。それに最近ゴアテックスの撥水性が落ちてきた。どこかで洗濯したいんだけどこの天気じゃ洗濯もできない。
スコールから逃げるように近くの売店に入った。店のあんちゃんと一緒に石のベンチに座って雨が収まるのを待つ。
『この街とは縁がなかったのかもしれないな...。
明日のバスチケットが買えたらこの街を出よう』
そういう時もあるさ。
雨がある程度収まると僕は宿に戻りKAMPOT行きのチケットを購入しバーのテーブルでブログを書いた。
20時頃になるとバーからはジェームス・ブラウンのファンキーな歌声がタテノリのベース音と共に流れスクリーンにはブレイクダンスの映像が映し出されあっという間に欧米人とグラマラスなカンボジア人女性でいっぱいになった。
この街には縁がなかったのかもしれない。
パッキングを済ませ僕は誰よりも早くマットの上に横になった。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。