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「イランからアルメニアの国境まで」

世界一周300日目(4/24)

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「ここがタブリーズだよ」

バスを降ろされたのはハイウェイ脇。バスターミナルでさえなかった。時刻は5:30。日も昇っていない。待ち構えていたタクシー運転手たちが「ホテル!チープ!」なんて声をかけてくるけど、僕はその誘いにはのらなかった。

とりあえずマップアプリで自分の現在地を確認する。そして、のそのそとバスターミナルと思わしき敷地内に入っていった。幸い降ろされた場所がバスターミナルの外だった。トイレもある。有料だったけど…。

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土地勘のない、なにもない場所で降ろされるのは正直キツい。それも太陽の出ていない時間なんかだと。僕には考える時間が必要だ。温かい飲み物をすすりながら、『これからどうしようかな?』という時間が。

バスターミナル内には僕と同じように夜を明かす人たちが他にもいた。係員はここで寝ることにそこまで厳しくないようだ。朝までもう一眠りしようかとベンチに横になった。今日なにするかを考えるのはそれからにしよう。だが、どういうわけか眠れなかった。バスの中である程度睡眠が取れていたのかもしれないな。

バックパックを担いでがらんとした売店へと移動する。テーブルに座って角砂糖をかじりながら紅茶を飲んで日記を書いた。

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にしても、朝方のタブリーズは寒いなぁ。

バスターミナルの外へ出ると風が吹き付ける。patagoniaのアウターは風をシャットダウンしてくれるのがありがたかった。目指すアルメニアはもうすぐそこなのかもしれない。

日が昇っても僕はしばらくバスターミナルにいた。パソコンやiPhoneの充電もしておきたい。売店の外にあるコンセントに変換プラグと延長コード、差し込み口を増やすタップを駆使して電気を補充する。野外で充電する場合、そこを動けないのが悩みの種だ。

暇つぶしにギター練習しているとここでも物好きなイラン人が何人か集まってきた。

警察までもやって来て、僕に『パスポートを見せろ』と言ってきた。なぜ?朝からご苦労なことだよ。まったく。制服を着た警察はバイクにまたがったままだった。もしこれで持ち逃げされたらおしまいだなと考えて、僕は「WHY?」と訊いておいた。任意ですよねと?

「いいから見せなさい」

「だから何でですか?理由は」

「いいから」

まぁ、形だけの職務なんだろうけど、バイクにまたがったまま手を差し出してくる警察に僕は意味のない抵抗をしたかった。サブバッグの底からマネーベルトに入れたパスポートを、警察の手の届かない位置で見せる。ほら。なにか問題はありますか?と。

「渡しなさい」

「見せたじゃないですか?渡す意味はあるんですか?」

自分の顔写真の貼られた1ページ目も開いてみせてやる。そんなやり取りが数回続いて、諦めた警察官はどこかへ行ってしまった。

ほんとうだったら夜にバスターミナルで一泊しようかと考えたけど、ここに戻ってくるとめんどくさそうだな。充電も途中で切り上げて僕はタブリーズの中心地を目指すことに。距離にして2kmちょい。歩きとPennyで行ける。
それにタブリーズにはバザールがあるらしい。そこでもバスキングができるんじゃないか?ビザも残すところ今日を入れて2日だ。一日ここに滞在するのもありかもしれないな。


やって来たタブリーズは首都のテヘランに較べると落ち着いた雰囲気を感じた。交通量はあるけどそこまでうるさくはない。

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街の大きさも中規模だが、ベーカリーやカフェ、どこでも見かけるような飲食店、洋服屋、お店もそろっている。若いヤツらはアジア人が珍しいのか、ニヤニヤしながら僕を見てくるが、絡みもしつこくない。
マップを見ながら「BAZAR」と書かれた通りを目指すことにした。

「Hello! How are you?」

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声をかけてきたのはイーマンとモースンという医大生二人組。普通に英会話できる。

イラン人日常英会話集27ページに書かれているやり取りをした後、眼鏡をかけたモースンは「よかったら、ついて行っていい?」と僕に尋ねてきた。「ん?別にいいよ」と僕は応えた。物好きなヤツらだ。何が好きで僕なんかと一緒に行動したいんだか。

「他の国の人たちとは話したことは会っても、日本人に会ったのは初めてなんだ」と言うモースン。ちなみに友達のイーマンはスマートフォンで誰かと喋ってる。こっちは全然英語を話さなかった。外国人に興味があるのはモースンだけなんだな。

「どこに行こうとしてるんだい?」

「バザールに行こうと思ってるんだ」

「ちょっと待ってて訊いてみる。あ、バザールってどこにあります?」

道行く人に尋ねるモースン。

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「えっ?君たちこの街に住んでるんじゃないの?」

「いや、ここじゃないんだよ。ここから5時間離れたところに住んでるんだ」

「5時間!!??」

彼らは何しにタブリーズに来たんだろう?

そして5時間もかけてここに来たってのにも関わらず、僕につきあうって…(笑)

ちなみに週2で大学は休講だそう。

バザール自体はデパ地下のような場所にあった。入り口を見ただけで狭そうなのが分かった。

適当な通りで荷物を置いて通りを見定める。人通りもある。道もそこまで広くない。後が車道だけど演奏できないほどじゃない。よし!ここで一回やってみるか。

「これから2時間ぐらい路上演奏するけど、どうする?」一応モースンに言っておく。「いや、僕たちも見てるよ」とモースンは答えた。

バスキングを始めてみるとまわりの反応は好感触だった。すぐにひとだかりができて道が埋まる。チラホラとレスポンスも入る。バカノリの男たちが「おひょーーー!!!」とはやし立てたが、演奏できないほどじゃない。だが、人が集まり過ぎて道を混雑させてしまったため、前のお店のおっちゃんから一発退場を命じられた。うぅ…、反応はいいんだけどな…。

カメラを向けた途端キメるおちゃめなお兄さんだった。

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それから近くで何回かトライしてみたが、周囲のお店の人から同じようにストップをかけられてしまう。別にお店の前でやってるわけじゃないのになぁ。まぁ営業妨害に思えるんだろう。

モースンいわく、どこそこと言う公園でやればもっと稼げるかもよ?とのことだったが、マップで確認するとそこそこ離れた場所にあった。バスで行かなくちゃいけない距離。オーケー。ここはバスキングに向かない街なんだな。バザールも想像していたものとは違ったし。ここに滞在する必要はないな。

「僕は駅に向かうよ」そう言ってモースンたちとはここで別れた。

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「ジョルファー」という国境の町を僕は目指すことにした。

そこにアルメニアのボーダーがあるのかな?列車の方が安そうだから、とりあえず駅に行ってみよう。もしチケットが手に入らなかったら、乗り合いタクシーでジョルファーを目指せばいい。どうやったら国際バスを使わずにアルメニアに入国で来るか調べておいた。今の僕に一抹の不安もない!

駅までの道のりは、どのバスに乗っていいのか分からなかったので、徒歩とスケボーで向かうことにした。タブリーズの中心地から駅は3kmくらい。ちょっとナメてた…。

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道のコンディションがいい車道をPennyで滑っていたのだが、マップで確認しても一向に距離が稼げない。道路は三車線で真ん中がバス専用車線となっていた。バスの車線だけフェンスで囲われている。なんだよ?バス、超スムーズじゃん。バス乗ろうかなぁ…?

そんなとき後ろからやって来た一台のNISSANが僕の斜め前方で停まった。これはっっっ!!!???

「ジャポン?」

「イエス!イエス!ジャポン!NISSAN!ベリーナイス!」

「どこまで行くの?」

「ジョルファーまで列車で行こうと思ってるんです」

「乗ってきなよ」

きたぁああああああ~~~~~~~っっっ!!!!

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そこからファニーなイラン人のお二人と20分ほどのドライブを楽しんだ。降ろされたのは駅ではなくアゼルバイジャン・スクエアー。あれ?ま、まぁいいか。

仕入れた情報によるとここで乗り合いタクシーでジョルファーを目指すんだとか。タクシーの運転手たちがお客を集めている。90,000リエル(360yen)とのこと。情報より少し値上がりしていた。その後ろにある数台のバス停まっていた。これってバスでも行けるんじゃねえ?

バス乗客の乗客に「ジョルファー(まで行く?」と尋ねてみるとあっさりうなずくではないかぁああ!!50,000リエル(200yen)っしゃあ!これでお金浮いたぁ!

バスの隣りのクソアーミーが「チーン?」とか言って僕をイラつかせたが、一応「ジャパン」と間違いを訂正しておいてやったが、その後はいくら喋りかけられてもまるきり無視。バカにかまってる暇はない。ムシムシ!寝よ寝よ!


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そこから2時間くらいのドライブだっただろうか?周りの景色は荒涼した大地とてっぺんに雪のかぶった山々が囲んでいた。なんか中央アジアっぽい!今回はいかないけど!


ジョルファーに到着した僕にタクシーの運転手たちが声をかける。ボーダーまで200円~300円くらいだという。

僕はアルメニアに入国する前にこのリエルをアルメニア・ドラムに両替しておきたかった。話によるとアルメニアではイランリエルのレートがアホみたいに悪くなってしまうらしい。50ドル分が40ドル分になっちゃったんだとか。とりあえずどっかに両替できる場所ねえかなぁ~。

タクシー運転手を適当にあしらっていると、バイクに乗った青年が僕に声をかけてきた。

「乗ってく?」

「いくら?」

「いいよ。お金は」

マジかぁああああああ~~~~っっっ!!!!

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タクシードライバーたちを横目に『悪いね!』と青年の後ろに乗る僕。バイクは軽快にジョルファーの町を走り出した。

青年に銀行を探してもらったが、銀行はどこも閉まっている。えっ?まだ17:00にもなってないぜ?どういうことだよ?

青年のお姉さんの家に一旦立ち寄る。お姉さんは英語の教師をしているそうだった。もう一度僕のしたいことを青年と確認して、再びバイクを走らせてもらう。見つけた両替屋はお店の人が不在だった。両替の需要がないのか…?

両替屋の近くにある他のお店の人が電話して、両替屋と話をしてくれたよだったが、ドルやユーロなどの他の通貨をイランリエルにしか替えられないという。困った…。

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マップアプリで確認すると、ここはジョルファーではないことが発覚した。

「とりあえずジョルファーまで言ってみるよ」という僕に青年はジョルファー行きのタクシーを探し出してくれた。値段交渉までしてくれて20,000リエル(80yen)。ありがとう。ただ、タクシーは乗り合いで、乗客が集まらないと出発しないという。

両替ができないことに若干の焦りを感じた僕は倍額の40,000リエルを払ってタクシーをジョルファーまで走らせてもらった。これならさっきいたタブリーズのアゼルバイジャン・スクエアで乗り合いタクシーで来たのと値段変わらないな。ま、そんなもんだ。

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そして到着したボーダー(国境)。

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さっさとお金を両替してしまおう。

タクシー運転手たちをはねのけて、僕はボーダー前の両替屋に声をかけた。手持ちのお金は4,650,000リエル(18,606yen)。提示されたアルメニアドラムは56,000ドラム(13,839yen)。

はっ??????な、なにそれ?今イランで流行のギャグかなにかですか?すいませんね、僕イランのエンタメ情報、全然知らないんですよ。

…いやいやいやいやありえない!ありあえない!その差額の40ドル分以上はどこに消えるんだよ!マージンか!!?まったくもって話にならん!どうする?試しにアルメニア行ってみるか…?

「ここってアルメニアのボーダーですよね?」

ボーダーの職員に声をかける。

「何言ってるんだ?ここはアゼルバイジャンのボーダーだ」

ほあっっっ….!!!!????

マップを確認するとなんか国境を示す赤い点線がいびつな四角形を作っている。き、聞いたことあるぞ、アゼルバイジャンとアルメニアは領土問題でイザコザを起こしてるって。てかアルメニアの国境どこだぁあああああああ!!!!

えっ?おれ間違えてアゼルバイジャンのボーダーに来ちゃったってこと?でも、ここまでの道のりは情報通りだぞ?アルメニア・ドラムへの両替をするために両替屋を探している最中、周りにいるイラン人たちの中にかろうじて英語が喋れるおにいさんがいた。彼はしきりに「ノルドスへ行け」と言っていた。そ、そういうことか…。タクシーの運転手と値段高所をすると、ジョルファーからノルドルというアルメニアへの国境の町に行くまでは8~9ドルと言ってきた。ここで余計な出費はしたくない!くっそう!バスとかねえの?バスとか?

一応、近くにあった高そうなホテルでトイレを借りたついでに国境までいくらで行けるか確認しておく。

「12ドルくらいですね」

上がってるし…。

ど、どうする?国境まで50km以上。
ヒッチハイクしかねえだろ。

だが、この時間で停まるのか?
時刻は18時を回っていた。日照時間の長いイランはあと2時間明るい。

国境までの方向をトボトボ歩いていると、さっきのホテルのスタッフが車で僕のことを追いかけてきた。

「タクシーは私たちが手配できます。よかったらそれまでホテルで待ってては?」

「や~~~…いいっす」

「どうしたんだい?」

と声をかけてきたのは別のおっちゃん、ホテルのスタッフと何やら喋っている。

「この方々もノルドスへ向かわれるそうです」

「えっ!乗せてってくれるってことですか?いくらですか?」

「もちろんお金はいらないよ」

後光が射したぁあああああああああ!!!

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「あ、ありがとうございます!」

トランクにはバックパックが入らなかったので、膝の上に乗せるようにして車の中に入った。

ドライバーさんしかカタコトの英語を喋れなかったが、とりあえず最初はテンションを上げて楽しい雰囲気作りを心がける。車の中でごちそうになった紅茶は漢方チックな味がした。

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国境を作る山々の間を通り抜け、20:00前にアルメニアの国境へと着くことができた。「ピュゥ〜〜〜〜…」漫画だったらそんな感じの荒涼とした山々が当たりを取り囲んでいた。さすがにこの時間になると太陽は山の向こうにいってしまったため、あたりは日陰しかない。 

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「まずは両替だな」

だが、国境前の両替屋は閉まっていた。近くにいた札束を持ったおっちゃんが「ここはおれの店だ」と言ってきた。まず嘘だろう。そして案の定レートも最悪。さっきのジョルファーといい、ここといい、40ドルは損が出る。もうこれって糞詰まりじゃん。もうここで両替するっきゃないってことかよ?アルメニア側で両替だともっとレート悪そうだもんだぁ。

なんとかおっちゃんにもっといいレートで両替できないかと辛抱強く交渉したが、「こっちのレートで両替したくないのであればどうぞご勝手に。さっさとアルメニア行きやがれ!」とジェスチャーしてきた。
イミグレーションの中にも両替所があるらしい。僕はそこに最後の望みをかけた。だが、結果は同じ。40ドル分の損失。マジふざけてるてか、ここでパスポートに出国スタンプもらったらアルメニアなんだな。

ウダウダしていると日本語の喋れるおっちゃんが、「これが今、イランで使ってるレートなんです。どこにも損はありませんよ」と言ってきてくれたので、僕は覚悟を決めた。レート計算アプリはリアルタイムのレートを教えてくれている。でもここはイランなんだ!ああいいよ!40ドル分くれてやるよ。このくそったら!そもそも、米ドルを両替した時に多く戻ってきたもんな。結局はここでその分を回収されたってわけだ。涙をのんで両替したアルメニア58,000ドラム。14,338円分。

僕はちゃっちゃと出国を住ませ、アルメニアビザを3,000ドラム(741yen)で取得した。21日分とスタッフは言っていた。


入国手続きを済ませると外はどっぷりと暗くなっていた。

明日の朝7:30に首都エレバン行きのバスがメグリという町から出るらしい。でも、こんな暗くちゃ無理だ。ヒッチハイクもできやしねえ。

この日辿り着いたのはアルメニアのイミグレーション。

僕はトイレで頭を洗い、出入り口にあるベンチに寝袋を広げた。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。