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note51: ポルト(2011.8.14)

【連載小説 51/100】

リスボンから北へ約300km。
3時間弱の鉄道の旅はドウロ川に掛かるサン・ジョアン橋が入り口であるかのようにポルトガル第2の都市ポルトへと旅人を誘う。

ドウロ川が大西洋に注ぐ丘陵地帯に広がる港湾都市ポルトはポルトガルを代表する古都の一つで、河岸とその周辺に広がる歴史地区全体が1996年に世界遺産に登録されている。

ところで、リスボンでも同様のことを感じていたのだが、聖グレゴリウス聖堂・ポルサ宮・聖フランシスコ聖堂などの歴史的建造物が並ぶ町を歩きながら、久しぶりのヨーロッパ訪問であるにもかかわらず、その雰囲気と感覚にすんなり溶け込める自分を不思議に思っていた。

そして、その謎が今朝届いた一通のメールで解けたのである。

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真名哲也様

お元気ですか?
3月にマカオでお目にかかったNHです。

今、ポルトガルを旅されているのですね。
あの美しいマカオの街並みのルーツである本場のリスボンやポルトを訪ねておられるのが、とてもうらやましいです。

真名さんのfacebookレポートがアップされるのを心待ちにしながら「世界一周」の旅が着々と西の方へ進んでいくのを楽しく拝読しております。

私はあの後マカオからインドシナ半島のベトナム・カンボジア・タイ、マレー半島のマレーシア、シンガポールと旅して、7月からオーストラリアのメルボルンに滞在しています。

縁あって環境と建築デザインの勉強と研究をしているのですが、各国を旅して撮りためてきた町並みや建築物の写真がとても役立っています。

9月にはオーストラリアを離れて東回りで「世界一周」を目指しますが、必ず
サウダーデの国ポルトガルには立ち寄るつもりです。

メールを打ちながら、マカオの聖ポール天主堂跡前で食べたエッグタルトの味を思い出しました。
また何処かで何かおいしいスイーツを食べながら真名さんと「世界一周」のお話がしたいです。

  ATJスタッフ NH
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本名の部分をプライバシー上イニシャルの「NH」に変えたが、僕が「SUGO6」の旅をはじめてすぐの3月半ばにマカオで会ったATJスタッフの女子大生からのメールである。
※彼女とマカオ歴史市街地区を歩いたレポートは【note5】

将来は建築設計家になることを夢見る彼女は世界中の建造物を見たいとの思いで「世界一周」の旅に出たと聞いたが、順調に見聞を重ねているようである。

ということで10数年ぶりのポルトガルに僕が溶け込めたのは、5ヶ月前にその植民地史を持つマカオの世界遺産を堪能したからであった。

ところで、彼女のメールにもあったがポルトガルといえば「サウダーデ」という言葉が思い浮かぶ。

郷愁や憧憬、思慕、愛惜、ノスタルジー等々の意味を併せ持つこの言葉は内外の様々な文学や楽曲に登場するが、僕には「孤愁」という日本語が一番フィットする。

「ひとり静かに物思いにふける…」
そんな異国の旅の空間にポルトの町は相応しい。

明日は再び列車に乗ってスペインのマドリッドを目指すから、今日がポルトガル最後の夜になる。
ポルトと言えば有名な「ポートワイン」でも飲みながら美しい町に別れを告げようと格好つけたいところだが、実は僕は全くアルコールを飲まない。

代わりにどこかで本場のエッグタルトを買って、ドウロ川のほとりに座って物思いと共に食べるとしよう。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年8月14日にアップされたものです。

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