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038.三角形で出来た卵

2002.11.5
【連載小説38/260】


例えば子供の頃に絵本で見た未来の宇宙開発。
月や火星に最初に作られるコミュニティは、ドーム型の小さな建造物群。
それはどこか遊牧民のテント村に似て、僕には牧歌的なイメージさえあった。

ハイテクを駆使して宇宙へ飛び出す未来の冒険と、未だ知らぬ地平線の彼方を目指したかつての冒険。
その双方に通じる開拓者たちのシンプルで機能的な住環境がある。

夢を追うには、日常を包む空間がシンプルであればあるほどいいのだろう。
そしてトランスアイランドにもそんな住処がある。
スタンが暮らすドームハウスだ。

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三角形で出来た卵。
それがSEヴィレッジの小高い丘に建つスタンのドームだ。

シナジー幾何学的に解説すると…
二種類の二等辺三角形を180個組み合わせることによって球面体を完成させることが可能。
その際の三角形の組み合わせは五角形と六角形に分かれる。
その球体の直径5/8を地面上に露出させるとドームハウスが出来上がる。
ということになる。

サッカーボールが五角形と六角形で出来ていることからすれば、納得できる仕組みである。
全ての多角形はその中心と各点を結ぶことで三角形に分割できるのだ。

かつて米国で、このドームハウスのプロモーション計画に加わったスタンは、トランスアイランド移住に際して自身の住居に迷わずこれを選んだ。

彼によると、以下のポイントがこの島にドームハウスが相応しい所以となる。

1.資源節約性
ドーム形状は空間に対する表面積を最小限に留めるから資源の効率活用を生む。
(スタンは全てにおいて実践的なエコロジストである。)

2.運搬効率性
二種の同一大三角形パネルと小さなジョイント器具が全てのため運搬効率が高い。
(実際、彼のドームキットは船便ではなく、定期飛行艇に収まって島に来た。)

3.空間効率性
柱や壁を必要としない構造が100%レベルの居住空間率を生む。
(外見はコンパクトだが、中に入ると天井高さが5メートルあり、その広さに驚く。)

4.工事即行性
基礎さえあれば、マニュアルに沿っておとな数人で2週間程度で完成可能。
(組み立て経験のあるスタンはプラモデルでも作るように5日で仕上げた。)

5.構造強度
外力を全体に分散させる球体構造は建造物の耐久性を高める。
(時折、強風が吹いても僕が住む四角い木造小屋のように揺れたりしない。)

6.エネルギー効率
球体による空気循環性の高さが冷房効率を高める。
(彼のドームにエアコンはないが、戸外にいるかのように風が吹き抜けて快適だ。彼が安定して貿易風が吹く島東部を選んだ理由はここにもある。)

加えて、スタンらしいドームハウスのアイデアを三つ紹介しておこう。

まず、彼はドームの天頂部の半分程度を強化ガラスによるスカイライトにしている。
屋外に人口の灯りのない島だから、毎夜プラネタリウム感覚で、星を見ながら眠りにつくことが可能なのだ。

そして残り半分を三角形のソーラーパネルで埋めている。
晴天率が高い島だから、生活電力のかなりの部分をまかなえるという。

もうひとつが、彼の趣味であるフリークライミングのための設計。
建物の内と外の一部を人工壁のジムにして、日々のトレーニング場としているのだ。
特に斜度が120度までになる部屋内部はヘビーな練習環境だ。

「ドームハウスはe-houseだ」と語るスタン。
economy&ecology。さらには、entertainmentの「e」ということのようだ。

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当初、スタンのドームハウスに対して、なにやら未来的で島に似合わないのでは?との指摘が一部であった。

ところが、どうだろう。
今回紹介したようなドームハウスの利点が明確になるにつれ、今度は島のオフィシャル建造物にしようという機運まで高まっている。
そうなると、集団購入によるコストメリットのプラスαまで生まれるだろう。

近い将来、トランスアイランドに大小様々なドームハウスが立ち並ぶとする。
その時、空からこの島を訪れる者の脳裏に、あの宇宙開発現場や遊牧民の村が浮かぶのだろうか?

プリミティブな南国の楽園を思い描いて来た人には、一瞬違和感をもって受け入れられるかもしれない。
が、その人々が島から去る時、再び見下ろすトランスアイランドには、きっと21世紀の新しいリゾート像が宿っているはずだ。
そう、「懐かしい未来」というスタンの提唱する時空間が…

------ To be continued ------

※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】

今、ドームハウスを見る人は「グランピング施設で見るあれね」と思うでしょうが、当時はそんなカテゴリーさえ認知されていなかったと思います。

『儚き島』は5年間の連載の中で、その舞台を東南アジアに移していきますが、足繁く通うことになるアセアン諸国との不思議な縁で、その後ラオスやカンボジアのグランピングリゾートを取材し、その魅力を日本に伝えることになります。

最近は「空飛ぶクルマ」のマーケティングに関わるほど未来化?した僕ですが、常に脳裏に浮かべているコンセプトは「懐かしい未来」。

テクノロジーと共にあるがどこか牧歌的…
20年を経て、僕のブレない軸になったコンセプトです。
/江藤誠晃




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