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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2024年5月の記事一覧

119.南の果ての珊瑚の島

2004.5.25 【連載小説119/260】 たとえば、何時間歩き続けてもその先に地平線しか見えない荒野の一本道。 たとえば、目指す上方が霧に包まれ、いつ頂上に到達できるのか予測不可能な山道。 それらが如何に過酷なものであっても、人の切り開いた道である限り、旅人はそこで開拓者のポジションを得ることはできない。 人工の道は、その全てが先人の敷いたレールの上なのだ。 ところがが、海の道は違う。 目指す陸地が同じであっても、遠くに見据える水平線が共通のものであっても、

118.大人の修学旅行

2004.5.18 【連載小説118/260】 数年前、小学校から大学を卒業するまでの文集や写真アルバムを整理する機会があった。 年代別にダンボール箱に整理されたそれらの中から小学校の卒業文集が出てきたのだが、果たして12歳の自分がどんな文章を残したのか、全く記憶に残っていない。 まがりなりにも文筆で生計を立てている男の4半世紀前の初期作品?がいかなるものであったかが気になった。 早速、紙が黄ばんで年代モノといってもいい冊子のインデックスに自分の名前を探す。 6年4組

117.ラッフルズホテルから

2004.5.11 【連載小説117/260】 「日本に戻ったら世界が見えなくなる。自分の未来も見えなくなる。 林立する高層ビルの谷間で、おそらく1世紀前と変わらぬ静かな時間の流れるラッフルズホテル。 その中庭から不自然に切り抜かれたシンガポールの青空を見上げて私はそう確信した…」 この、ひとりの女性の独白は、僕がサマセット・モームの短編『エドワード・バーナードの転落』のトリビュート作品として創作を始めた短篇小説の出だしの一節。 シンガポールを旅した際に「nesia2」

116.21世紀的海の冒険

2004.5.4 【連載小説116/260】 「旅」と「冒険」の関係性について考えてみよう。 原始、人類にとっての「旅」は「冒険」だった。 生まれ落ちた場所から離れることは、糧を求めての狩猟や移住、部族間闘争後の敗北による逃走、天災による生活圏の喪失など、危険を伴うもの、やむを得ず行われるもの。 何れの場合も明確な目的地や行く先々に関する情報はなかったし、なによりも「帰る保障」がなかったのだから、本人の自覚は別としてそれらは全て「冒険」だったといっていい。 その後、