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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2024年2月の記事一覧

106.優れたミュージアム国家

2004.2.23 【連載小説106/260】 博物館を訪ねるということは、極小の自己を到底かなわぬ歴史の重みの前にさらすことである。 開館と同時に先客のいない異国のミュージアムにひとり入り奥へと進む。 世紀を経たセピア色の人物写真の眼差し群がじっとこちらを観察している。 幾多の手垢にまみれた工芸品や民芸品の類が無言のうちに解せぬ言語で次々とメッセージを放ってくる。 窓のない密室に微風が吹き、頬を撫でたような気がする。 目を閉じると声が聞こえる。 「何者だ?」

105.リトルドラゴンの不思議

2004.2.17 【連載小説105/260】 60億人存在する地球上の人口。 それを幾つかのグループに分ける手法を考えてみよう。 まず誰もが国家という枠組みを思いつく。 が、ここでは国家そのものを論じたいので他の視点を求める。 大陸という物理的空間。 土地は人類を受け入れる器である。 ユーラシア大陸、南北米大陸、オセアニア大陸…といった大きな器から分類していけば人類のグルーピングは容易い。 次に民族。 国家建設に先立つのが人間集団としてのエスニックグループの存在

104.21世紀発の古典文学

2004.2.10 【連載小説104/260】 先週、東京で「大きくなり過ぎた島国」の編集会議に参加した後、翌日には日本を離れハワイへ戻った。 久しぶりの日本で、会いたい友人や訪ねたい所が他にありながらも3泊で慌しく旅立つたのは、マウイ島に立ち寄る予定があったからだ。 マウイといえば「ラハイナ・ヌーン」。 そう、僕が昨年10月に参加した太平洋を創作の舞台とする小説家の私的円卓会議である。 その参加者の面々は互いに匿名とし、開催日を事前に公開しないことがルールとなって

103.渡り鳥が選ぶ島

2004.2.3 【連載小説103/260】 島々のことを最もよく知るのは誰だろう? 今日の編集会議で話題になったそんな疑問に対して 「渡り鳥じゃないかな」 と僕は答えた。 学者や作家の名前が挙がる中、一同の笑いを集めた発言ではあったが、それには訳があった。 一昨日、5ヶ月ぶりに降り立った成田空港で大型旅客機の尾翼に止まる一羽の渡り鳥を見たのである。 季節と外見からしてカモメの類だったと思う。 東京湾の浅瀬には野鳥観察エリアもあるから、渡り鳥がいるのも不思議では