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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年12月の記事一覧

046.楽園年表

2002.12.31 【連載小説46/260】 『楽園年表』 いつかそんな作品を創作してみたいと考えている。 多分、それは僕の人生における最後の作品。 未だ見ぬ世界の輝きを、ひたすら書物の中に求めて乱読を重ねた若き日々。 物語を書く作家稼業に身を投じて、不器用ながらも自由を追い求めて世界各地を転々とした10年余。 偶然めぐり合ったトランスアイランドという小さな島での満ち足りた時間。 そして… 夢と現実、フィクションとノンフィクションが交錯するその私的紀行記をもって、僕

045.優秀な観光ガイド

2002.12.24 【連載小説45/260】 この島に来るまで、僕は各地を転々と取材する旅の生活を重ねていた。 そして、そこで獲得する知識の質量、さらには旅先の日々が有意義であるか否かは、全て出会うガイド達次第だったといえる。 言葉の全く通じない島で、生死の境目のごとき危険地帯で、数メートル先の視界さえ不確かな密林の地で…、優秀なガイドの存在が僕に希少な体験と優れた創作モチーフを与えてくれてきた。 ガイドはまず、その地のあらゆる分野にわたる情報に精通していなければなら

044.青きコンセプト

2002.12.17 【連載小説44/260】 「BLUEISM」 以前、僕の提唱したワードが島の楽園創造における基本コンセプトとして採用された。 「青き海、青き空、青き自然、青き地球…、永遠に変わらないであろう、それらに包まれて、極小の僕らも同じく青きまま生きよう」 というBLUEISMは、島民の内的な精神支柱であるのと同時に、環境と人の関係性を模索するトランスプロジェクト自体の外的グローバルメッセージでもある。 (詳細は第18話) いかなるプロジェクトも、そこに核

043.楽園創造の数的バランス

2002.12.10 【連載小説43/260】 平洋上の島々の中で行こうと思いながら、行けなかった島がある。 ミッドウェイ島だ。 ハワイの西方2000km、ここトランスアイランドから北方1000kmにあるミッドウェイ島は、美しい環礁に加えてアジサシやアホウドリ、オオグンカンドリなど希少鳥類が棲息するサンクチュアリとして、また、絶滅危機に瀕しているハワイアンモックシールの繁殖地としても有名な島である。 僕がこの島を訪ねてみたかったのは、アメリカの国立自然保護区に制定されな

042.楽園創造の速度観

2002.12.3 【連載小説42/260】 この島に住むようになって腕時計をしなくなった。 日本にいた時のような時間に追われる仕事がないこともあるが、島では人間のリズムの前に自然のリズムがより大きくあるというのが理由なのだろう。 赤道に近づくほど季節の変化が少なくなるのと同時に、昼夜のサイクル変化も小さくなる。 日の出と日没の方角はより東西極に寄り、一日における昼と夜の比率が均等に近づく。 そして、見上げた空の太陽の位置や肌に受ける太陽光のニュアンスで大体の時間はわかる