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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年10月の記事一覧

037.懐かしい未来

2002.10.29 【連載小説37/260】 「懐かしい未来」 そこから幾つものストーリーが生まれてきそうなフレーズだが、僕のオリジナルではない。 トランスアイランドのマーケティングエージェント、スタンのコンセプトワードだ。 小説を書く僕が言葉をリリカルに扱おうとするのに対して、スタンは常にそれをロジカルに活用する。 同じ景色を見て、同じ風に吹かれて、同じ意識を持ちながらもスタンの感じ方はいつも僕を驚かせる。 例えば、島という空間に暮らす感覚。 前回、僕はそれを「浮

036.海からしか見えないもの

2002.10.22 【連載小説36/260】 この週末、海野航氏、ナタリーと3人でアウトドアミーティングに出かけた。 (「週末」という表現の持つ休日性に違和感を感じる。この島ではウィークデイとウィークエンドの質的な差などないからだ。単に出かけた日が土曜日だったということになる。) そして、その心地良い浮遊感の余韻が今も残っている。 僕らはシーカヤックで海に出たのだ。 島の南西部の海岸沿いを漂い、語り合いながら海上の半日を過ごした。 さて、トランスアイランドのエージェント

035.温故知新の考古学

2002.10.15 【連載小説35/260】 温故知新。 古きをたずねて新しきを知る… 今週、海野航氏と有意義な議論の時間を重ねた僕とナタリーが再認識したことは、「今」に至る「歴史」の重みであり、それなくして、如何なる未来もありえないということだ。 トランスアイランドにおけるエージェントの使命は、ある意味で島の未来創造。 故に、ともすれば今我々が立脚する地点に対して、前ばかりに目が行ってしまう。 が、文化人類学者である海野氏は違うのだ。 彼は徹底して「過去」を見つめ、

034.ナタリーの旅

2002.10.8 【連載小説34/260】 「僕らには、語り合うべきことが山ほどある」 「どれだけ語り合っても、話題はつきない」 「明日も会おう、もっと話し合おう」 恋人たちのセリフではない。 ここのところ定例のコミッティ会議だけでは物足りず、毎日のようにノースイースト・ヴィレッジのカフェに集まって議論を重ねている僕たちトランス・エージェントの合言葉だ。 Café Isleは、島で一番人が集まる場所。 間もなく、開店後の延べ集客数が1万人を数えるという。 我々エージェ

033.コペルニクス的転換

2002.10.1 【連載小説33/260】 長旅から帰る。 しばらくはその余韻に浸りながら、何もせずにゆっくり過ごす。 それが僕流の正しい旅の締めくくり方だ。 3週間ぶりに戻ったノースイースト・ビーチで、昨日と今日、僕は本当に何もせずに、波の音をBGMにのんびりした時間を過ごしている。 そして、3週間分巡った季節を感じた。 秋に向かうノースショアの波が確実に高くなっているのだ。 そこにずっと留まると見えないものが、しばしその場を離れることで見えることがある。 マーシャ