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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年7月の記事一覧

024.善循環と悪循環

2002.7.30 【連載小説24/260】 「循環」という概念は自然の中でこそ、身にしみてわかる 海水が太陽光線を受けて蒸発し、空へ昇る。 冷やされて雲となった水は、風に吹かれて旅をする。 山に行く手を遮られた雲は、雨となって大地へ降り注ぐ。 降り注いだ雨は川となって大地を流れ、その道中で様々な生命を潤し、再び海へと還る。 循環は局所でも成り立っている。 例えば、僕らと木々の関係。 僕らは絶えなき呼吸で、酸素を体内に取り込み二酸化炭素を排出する。 木々はそれを受け取っ

023.真の独立は何処に

2002.7.23 【連載小説23/260】 「自分たちの国を真の意味で“独立”させたい」 マーシャルからやって来た少年ジョンのメッセージを端的に表現すると、そんな独立の願いだった。 完成された文明国に住んでいると、その国家が独立しているか否かなどの疑いを持つことはないだろう。 が、21世紀を迎えた今でも、国家集団としての世界はまだ混沌としている。 今年の5月、オーストラリアの北にあるティモール島東部に21世紀初の独立国、東ティモール民主共和国が誕生したのは記憶に新し

022.カヌーの訪問者

2002.7.16 【連載小説22/260】 「謎の漂流者」 7月11日 既に100回の発行を超えていた島のオフィシャルニュースペーパー『Trans Post』に、初めて事件の見出しが登場した。 言い換えると、今までは事件らしい事件もなかったということであり、その日のうちにカヌーで西海岸に漂着した少年の話は島中の話題となった。 その後、コミッティの調べで、意識を取り戻した少年がマーシャル諸島共和国の首都マジュロから単独の航海でこの島を目指したこと、そして僕、真名哲也を

021.東西軸と南北軸

2002.7.9 【連載小説21/260】 どんな小さな島でも、世界に対してその空間的ポジションを明確に表現可能な方法がある。 緯度と経度。 つまり、東西と南北の2軸をその上に交差させればいいのだ。 「点」は「点」である限り、「点」でしかなく、「面」に対して存在なきがごとくだ。 が、「点」と「点」を結べば「線」となり、「線」が無数に重なるところに「面」は出現するのだから、「点」はまず、「線」の上に自らを位置づけることで「面」に大きく近づくことができる。 そして、自ら

020.郵便配達人に憧れた少年

2002.7.2 【連載小説20/260】 午前7時の日課はメールチェック。 日の出と共に起きて、少しの散歩の後、朝食をとり、一段落した時間だ。 以前はリアルタイムでメールチェック可能な環境に身をおいて仕事をスピーディーにこなしていたつもりだったが、この島に来てしばらくしてやめた。 ネットワークに繋がっていることで生まれる幾つかのデメリットのひとつが、仕事に終わりがないという不規則性だ。 就業時間差や時差を超えて行き交うメールは最たるもので、即時対応を続ければプライバシ