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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年5月の記事一覧

015.郷土意識の芽生え

2002.5.28 【連載小説15/260】 WelcomeとSee you again。 「ようこそ」と「またいつか」。 最近の島の暮らしで、最も多く発する言葉は、間違いなくこのふたつだ。 僕だけではなく、全ての島民がそうだろう。 トランスアイランドの主要産業である観光客誘致が順調である。 飛行艇でハワイからやって来る観光客と交わす挨拶や語らいが、日々の生活に大きな割合を占めるよういなった。 「来るヒト」と「迎えるヒト」。 その関係性が生まれるだけで、二ヶ月の歴史し

014.生活密度

2002.5.21 【連載小説14/260】 水を引き入れたばかりの水田に5月の空の青さが映り、麦わら帽子を被った農夫が黙々と田植え機を操る。 長野県の農村に住む友人がメールに添付して送ってくれた写真を見ている。 遠い日本は今、とてもいい季節だ。 そして、多分、この写真の光景の中に吹いている風には、トランスアイランドに吹く風と同じ匂いがあるはずだ。 「狭い国土に多数のヒトがひしめきあって暮らす日本という国」 この例えはあまりにも無謀だ。 確かに都会は人口高密度空間だが

013.エネルギー革命?

2002.5.14 【連載小説13/260】 ヒュン、ヒュン、ヒュン… ノースイースト・ヴィレッジの村はずれに設置された小さな小屋の上で、垂直軸に3本のブレードがついたダリウス形風車が、ロープを回す時に聞こえるような音をたてて軽快に回っている。 小屋に入った僕は、「nesia」を幾つかあるクレードルに差し込むと、横にあるコーヒーサーバーのスイッチをオンにした。 風車の回転パワーで挽かれたコーヒー豆と風車の電力で沸騰したお湯は、PDAの充電を待つ訪問者に、出来立てのコー

012.物語のスピード

2002.5.7 【連載小説12/260】 人類は既にタイムマシンを手にしている。 などと断言すると驚かれるだろうか? 時間を超えるのがタイムマシンなら、まぎれもなく我々はそれを入手するばかりか、それを活用して、過去から見れば充分にSF的な日々を過ごしていると僕は思う。 例えば1世紀前に遡ってみよう。 ひとりの人が他の誰かに何かを伝える時、そこには空間の移動とそれに伴う時間の消費が求められた。 話すにしろ、手紙を誰かに託して届けるにしろ、コミュニケーションとは、人が動い