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[遠く橙]

郊外電車は海辺をなぞって
錆びついた香り 振りまいてゆく
逆向きのホームで君が
週末色へ手を振った

季節の狭間に咲いた
二人で見つけた花 ミニバラ
はためいては数え そっと
傷つけないようにと触れた

代わるがわるに顔を歪めて
愛する難しさを抱きしめた
僕が指さす僕の宝物
君の瞳が灯す青玉せいぎょく

君が振り向かず駆けだした音
そんな暇ないよって言った音
お天道様は役目を終えて
足跡はいずれ波間に消えて

最後に僕が吐いた大嘘を
どうせ君は知ってて受け取った
週末色は遠く橙に輝いていた

時刻に気づきながらも僕は
待合でため息を引き延ばす
ラブコールのような発車メロディ
風に乗って消えた

陳列に取り残されていた
二つだけの瓶を持ち寄って
運命と呼んで笑った
そんな騒がしい夜もあったよな

僕が指さす君の宝物
君は知らずに僕へ贈り物

君が振り向かず駆け出せたこと
嬉しかったって呟いたこと
帰り際 投げ捨てた瓶二つ
いつか思い出も丸みを帯びて

最後に君が打ちつけたくさび
僕は指をかけてすぐにやめた
週末色は遠く橙に輝いていた

浅瀬の遠くを望めば
一粒だけが澱んで輝いた
居座る言い忘れの欠片
流れ出さぬままの嗚咽を噛み殺す

君が振り向かず駆けだした頃
花弁はなびらのひとひらも残さずに
丘へと続く階段上って
気を揉むような顔はもういない

最後に振り返って叫んでた
青春は残酷だと聞こえたら
週末色には僕一人だけ佇む
寂しげな夢を見た

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