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【さかばなし03】大宮呑みと「酒路」のはなし

東京出張だったその日、池袋で仕事を終わらせたあとは、宿泊はせずに盛岡へ新幹線で戻ることになっていた。
仕事が終わったのが16時過ぎ、時間にゆとりがあったので、大宮まで移動し絵、久しぶりに大宮呑みとしてもいいかなと思い立った。

大宮一軒目は大箱の大衆酒場。その活気に、終始圧倒された。

本当にいい酒場だった。カウンター席で鰯刺し,大浅蜊焼きなどを食べ、生ビールを一杯と熱燗を一合。
仕事終えたスーツ姿のサラリーマンが続々と店を訪れ、すぐに満席に。席を譲るように小一時間ほどで店を後にする。

帰りの新幹線の時間まで、まだ少し余裕があった。大宮駅前のにぎやかな界隈から、少し離れたあたりを歩く。大宮の街を歩くのは久しぶりだ。

すると、路地の奥に一軒のバーを見つけた。店の名は「Bar syuro」。ふらふらと引き寄せられ、そのバーの扉を押す。
静かにジャズが流れる店内は、外とは別世界だ。

カウンター席に腰を下ろしジンリッキーを注文する。先客は若い女性一人、なにやら込み入った話をマスターとしているようだった。

ぼんやりグラスを傾けていると女性客が店を後にした。
そのタイミングに、続いてオールド・パルを注文する。バーテンダーは手際よく酒をステアし、よく冷えたカクテルグラスで供してくれた。

カクテルグラスを傾けオールド・パルをいただく。ライ・ウイスキー、カンパリ、ドライベルモットで作られる、クラシカルで、ほろ苦く、少し甘いカクテル。

「もしかして…バーテンダー、もしくは以前バーテンダーをやられていたことがありませんか?」と突然訊かれた。少し驚きながら、いえ全然、と答える。

「失礼しました。グラスを持つ手がバーテンダーのそれだと思いまして」とのこと。
ああ、そうなんですか、そう言われるのはバーを愛する者としては嬉しいですね、とバーテンダーに返す。

それからすっかり打ち解け話していると、マスターは秋田市の出身だということがわかった。ここでも東北のバーテンダーに出会えた。

帰り際「syuro」の意味を聞いた。なんでも開業する際に友人からシュロの木の鉢植えをもらったことから、そこからとったとのことだという。
たしかに店内の隅に、天井まで届きそうな大きなシュロの木が飾られている。

「でもですね、後から気づきましたがsyuro(シュロ)って,酒路(しゅろ)なんですよね。この店が奥まった路地にありますし,“酒の路”というのも店のイメージに合っていると思いまして」とマスターは続けた。

なるほど、そう聞くと、まさにぴったりの店名だと思ってきた。

勘定を済ませて店を出る。マスターは、「大宮にいらした際はまたお寄りください」と店がある路地「酒路=syuro」から通りまで出てきて、見送ってくれた。

ほろ酔い気分で、まだ少し空が明るい大宮の街を歩いた。大宮に寄って、本当に良かった。

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