サイバーエージェント(4751)22年第3四半期決算

7月27日、22年9月期の第3四半期決算(4-6月期)が発表されています。
先日話題になった、「新卒初任給42万円」のニュースは驚きました。
IT人材のみならず、それ以外の人材でもそれだけの給与を最初から出して良い人材が欲しい、ということだそうです。
この4月も約350名弱の新入社員が入社していますが、年間の人件費(全社)は340億円ほどであるのに対し、初任給を上げることによる追加の人件費は3億円ほどだそうで、「優秀な人材を確保できるならむしろ安い」と社長自らおっしゃっていました。
日経新聞や各種メディアでも取り上げられていましたので、広告宣伝費として3億円分くらいの効果は既にあったのでは・・・とも思ったりします。

サイバーエージェントの事業内容は以下の3つです。

・広告事業
・ゲーム事業
・メディア事業

売上を牽引するのは広告事業で、全体の45%、次がゲーム事業で39%です。
今のところこの2つが売上のほとんどですが、将来的にはメディア企業になっていきたいというのがサイバーエージェントの中長期的な展望です。

次に利益ですが、利益はゲーム事業が88%、続いて広告事業が21%です。
この2つで100%を超えるじゃないか、というツッコミがありそうですが、3つ目の事業であるメディア事業(ABEMA:アベマ)はまだ赤字を計上しているためです。
決算説明会で社長自ら、「メディア事業はまだ急いで黒字化する段階ではない。引き続き、メディアとして育てる段階」と言っています。
黒字化しようと思えば黒字化もできるものの、そうなると将来的に見込まれる利益成長が小さくなるため、今はまだ種を蒔き続けている段階です。

<第3四半期決算:所感>

【良かった点】

1.売上を牽引する広告事業が伸びている(決算説明動画、決算説明資料P17より)

広告事業は、顧客企業の決算期に左右される面があり、3月の年度末を含む第2四半期、12月の年末を含む第1四半期に伸びる傾向があります。にも関わらず、その第2四半期よりも第3四半期は売上が伸びています。

2.2016年から継続しているメディア事業のABEMAへの投資が継続(決算説明資料P13P29P41)

ゲーム事業の反動減により昨年対比では減益であるものの、全体の売上は伸びているので、メディア事業への投資もできます。
藤田社長は、アメーバブログ(2005年〜)→スマホゲーム(2012年〜)と常に先行投資で事業を当てているので、今回のABEMA(2016年〜)も勝算あっての先行投資と考えます。
事業を当てている、というと語弊がありますが、いろいろなものをたくさん仕掛けながら「これは行ける!」と思ったものには大きく投資するというスタイルで、麻雀で日本一になったり趣味の競馬から馬主になったりと、元々勝負師的な要素を持った経営手腕がサイバーエージェントを大きくしてきたところがあります。

3.今期の業績予想に対する進捗率が順調、9月の本決算では上振れる余地あり(決算説明資料P15)

通常、企業の業績予想は本決算である第4四半期に発表されます。
ですが、サイバーエージェントは「特にゲーム事業において、既存ゲームの運用状況や新規ゲームの提供開始日により大きな業績変動が見込まれることから、業績見通しについて適正かつ合理的な数値の算出が困難」とし、非開示でした。
要約すれば、「大ヒット中のスマホゲーム【ウマ娘】の動向次第で結果が変わってきます」というわけで、今期の着地が見えた(今期の業績予想が出せた)のが、上期を終えた第2四半期決算時でした。
ただ、第3四半期を発表した時点で、もう既に売上・利益ともに進捗の目安となる75%を上回っており、かつ、第4四半期には、第3四半期にリリースした【ウマ娘】の韓国・台湾版の売上も計上されてきます。
第4四半期の期中である8月には【ウマ娘】日本版の1.5周年イベントもあることから、業績は上振れると予想しています。

【悪かった点】

1.第3四半期での、前年同期比での減収減益(決算説明資料P5P6P7)

前年度に、ゲーム事業の【ウマ娘】が大ヒットし、前年対比で売り上げが10%、営業利益が76%減となりました。
特に、営業利益の76%減というのは数字のインパクトが大きいので、中身をきちんと精査せずに数字だけ見ると、「うわぁ・・・サイバーエージェント、大丈夫か?」と思う投資家もいたと思います。
決算翌日の株価反応を見ると、それが明らかです。

結論から言うと、これは想定内で、昨年の【ウマ娘】大ヒットによるバブル的な利益は、時間と共に減っていくことはあらかじめ分かっていたことです。
ただ、この大ヒット自体がサイバーエージェントにとっても想定以上だったようで、「昨年からのこの反動減をいかにこなしていくか、ソフトランディングしていくかが経営の課題」と社長がおっしゃっています。
サイバーエージェントは、ゲーム事業において この作品のヒットを「10年タイトルにする」という長期計画を立てています。
つまり、ミクシィの「モンスターストライク」やガンホーの「パズドラ」のように、爆発的ヒットの後も10年以上愛されるタイトルに育てていこう、ということです。
韓国版や台湾版のリリースもその一環です。

2.メディア事業は相変わらずの赤字(決算説明資料P28)

メディア事業は、四半期ベースで大体40億円前後の赤字が継続しています。
年間だと120億円前後です。
この赤字がなければ、もっと利益は伸ばせますが、引き続き、売上を伸ばし赤字は継続する方向で行くようです。

以上を踏まえての決算印象をまとめます。
ゲーム事業で稼いだ利益をメディア事業に投資、という方向性は変わりませんが、昨年ヒットしたゲームタイトルのリリースからそろそろ1年半経つので、ゲーム事業での利益のバブルは終わりかけています。
もちろん、広告事業やゲーム事業では元々利益が出ていますので、【ウマ娘】のヒットがこのまま鈍化しても、メディア事業への投資は引き続き可能です。
藤田社長ご自身に、メディア事業の黒字化をする気がまだないという点で、株式市場としては、メディア事業の黒字化が明言されるまで、もしくは黒字化の時期がおおよそ見えてくるまでは 企業評価を上げにくい、ということかと思います。


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