5.愛知県(日帰り)―2024年6月
ベルーガに、あいたい。
4月から、新しい職場で働き始めた。思うところあり、全く経験のない職種への転職だ。それなりにキャリアを積んでからのキャリアチェンジである。覚悟は十分にあった。
でも、覚悟だけではだめなのである。
先方から「人事の問題で」と切り出され、3ヶ月で首を切られることになった。転職は何度かしているが、初めての経験である。流石に落ち込むのである。そして、体調も崩すのである。
それでも、次の仕事を探さなければならない・・・つらい心と身体に鞭打って転職活動を続け、新たな職場とのご縁をいただけた。
が、心と身体は戻らない。その状態を隠しながら最後まで働き続ける心の内に、もやっとした黒いものがひそっと現われた。じわじわと大きくなっていくその黒いものに、不意にスポンと白いものがはまった。
何だろう? ずるっと引っ張り出してみる。柔らかい脂肪を蓄えた、真っ白いイルカ。以前テレビで見て、その愛くるしい姿に心つかまれたベルーガだ。
ベルーガに、あいたい。心の内を少しでも、淡いグレーに薄めるために。
ベルーガを飼育している水族館を調べ、愛知県にある名古屋港水族館を目的地に決めた。
早起きをして、さあ出かけるぞー・・・と意気込んだが、前回の空腹宮城県旅を思い出し、朝食をしっかりと取とってから駅へと向かう。今回は小田原駅から新幹線に乗ろう。小田原駅では、まずは自販機を物色。水を購入し、新幹線「こだま」に乗り込んだ。
小田原駅に来る途中、電車の中で(はたから見ると)ちょっと(自分的にはだいぶ)嫌なことがあったのだが、乗り込んだ車両の一番後ろの席に座り、背もたれを思う存分倒して深呼吸をすると、少しだけ嫌な気分が和らいだ。
背もたれの傾きを適度な角度へ戻し、これからの旅に思いを馳せる。せっかくだから、名古屋のファッションリーダー「ナナちゃん」にも会いに行こう。お昼はやっぱりひつまぶしかな。大好きな天むすと外郎は最後に買って、帰路の新幹線で食べよっかな・・・
新富士駅への停車を告げるアナウンスで我に返る。
富士山見よう、富士山🎵 と、窓の外に目をやるも・・・富士山見えないな・・・おかしいな・・・
窓にへばりつく私をあざ笑うかのように、発車のベル音を響かせて新幹線はまた走り出す。あきらめかけたその時・・・あ! 頭!!
どうやら厚い雲に覆われて隠れていた模様。ちょっと寂しいけれど、頭だけでも見られて良かったな。ありがとう、富士山。
カバンからガサゴソと持ってきた本を取り出し、読みふけるうちに名古屋駅へとついた。出発が遅かったうえに、各駅新幹線でやってきたので、既に11時を回っている。駅を出て直ぐの空はどんよりと曇っている。まぁ、水族館に行くんだし天気関係ないか・・・そう言い聞かせつつ、スマホを開いて地図アプリで乗りたいバスの発車時刻を調べると・・・あと2分!?
慌てすぎて他のバスに乗り込むも、発車前に気づき、何とか目的のバスに乗ることができた。
バスを降りても、天気は変わらずどんよりとした曇り空だ。
水族館はバス停から徒歩10分。日焼けしなくて良いじゃないか。気持ちを落とさないように注意しつつ、歩き出す。
歩道横の車線の多い道路を、たくさんの車やトラックが猛スピードで走り抜けてゆく。歩行者は私だけ。こっちであってるのかな? とちょっと不安になりつつも、ほぼ10分で目的地に着いた。
朝一ではないからか、平日だからか、チケット売り場は中々の空き具合である。スムーズにチケットを購入し、館内へと入る。
よし、ベルーガだ! ベルーガにあうんだ!!
はやる気持ちを抑えつつ、ベルーガがいる「オーロラの海」へ・・・あれ? 何か幕がかかっている?? 水槽見えないぞ・・・
どうやら、ベルーガの「ナナちゃん」が妊娠中のため、展示は中止されている模様・・・
ちゃんと調べてこなかった自分のウッカリ具合にガッカリ・・・である。
まぁ、落ち込んでいてもしょうがない。ナナちゃんが無事に元気な赤ちゃんを産みますように!(6/29に赤ちゃんベルーガの死産が報道されていました。せめてナナちゃんが、また元気な姿を見せてくれますように。)
せっかくここまで来たんだし、他の生き物たちを見ていこう。そう思ってイルカショーを行う大きなプールの方へ行ってみると、飼育員さんがバケツを持って大きなプールの脇にある小さなプールの方にやってきた。どうやら、イルカショー前後のケアの時間みたい。小さなプールの中でごろんと横になってぷかぷかと浮かぶイルカを、飼育員さんたちはなでたり観察したり。その後、飼育員さんとハイタッチをしたり、小さなジャンプをしたりと、プチショーを間近で見せてくれ、口から自然と「わー🎵」という声がもれてしまう。
間近でイルカを堪能し、館内をウロチョロ。お・・・蒼く大きな水槽を発見!
どうやら、イルカショーの水槽の水面下部分みたい。
2匹で仲睦まじく泳ぎ回るイルカや、お腹を上にして沈みながら空気孔から空気をぷくぷくっと出して、くるっと回転してその空気をかみ砕いて小さな泡を作って遊ぶイルカ。みんな思い思いにその環境を楽しんでいる。
時間を忘れ、しばし、イルカたちの戯れを眺めた後、他の生き物たちをゆっくりと見て回った。
生きている物たち以外にも、大きな骨格標本がたくさん展示されている。その中にベルーガの骨格標本を発見! 標本の上面も見えるようにと天井に貼られた鏡を使い、一緒に記念写真を撮ることに成功したのである🎵
最後に、お土産を求めてミュージアムショップへ。ベルーガ、ベルーガ・・・ベルーガグッズを中心にショップを見て回るも、今の気分に合うお土産は見つからない。ベルーガが描かれた、トランクを模した小さな缶(お菓子入り)を見つけ、ひとつだけ購入した。ちょっと消化不足で帰ろうとしたとき、ショップの入口に「くじらといるか」なるガチャガチャを発見。全6種類。ベルーガもいるぞ!
ベルーガ出ろ出ろ・・・と念じながらガチャガチャを2回まわし、シロナガスクジラを2体ゲット!! ・・・なんでやねん・・・
まぁ、そう上手くいくわけないよね。あきらめてバスに乗り、名古屋駅へと戻る。さて、名古屋駅のナナちゃんは・・・いた!
こちらのナナちゃんには無事にあえて一安心。が・・・なんかアイスのカップはいてる? トップスはアイス?? 手にはスプーンを持っているけれど、暑い時には自分の服を食べるのか・・・???
さすが名古屋のファッションリーダー。前衛的過ぎて誰もまねできんな、こりゃ。
前衛ナナちゃんをしっかりとカメラに収め、時間を確認する。15時過ぎか。この時間にやってるひつまぶしが食べられるお店は・・・スマホの地図アプリで検索すると、駅の地下街にある「うな富士」というお店ならこの時間でもやっていそうだ。
地下街が予想よりも広くて少し迷うも、何とか到着。平日の昼をだいぶ過ぎた時間ということもあり、待っているお客さんもいない。すんなりと中に入れた。
心は「ひつまぶし」で決まっているのだが、念のため注文前にメニューをチェックする。うな重もあるのか・・・心が揺れつつも、ひつまぶしを注文。お茶うけに出されたお漬物のきゅうりをパリポリ言わせながら、メニューに書かれたひつまぶしの食べ方の説明をじっくりと読む。
ひつまぶしを食べるのは人生で2回目。復習しておかないと。
お茶うけを食べ終えたタイミングで、ひつまぶしが運ばれてきた。
「食べ方分かりますか?」と聞かれ、「(今じっくり確認したので)大丈夫です」と常連ぶって返す。(テーブルの上にちょこんと置かれたカメラNikon Z50が「観光客です~」と主張してるのにも気づかず・・・)
ひつまぶしの器は、囲碁の石を入れる器のような形をしている。口が少しすぼんだ独特な形のせいか、蓋を外すと、皮のパリっと焼けた香りが一呼吸おいてからゆっくりと立ち上り、鼻をくすぐってきた。
まずは4等分にして・・・先程読んだ食べ方の説明を思い出しつつ、木製の小ぶりしゃもじで4等分のひとつをお茶碗によそう。
そして一口。途端に、少しの苦味とタレの甘さとが口の中に広がる。ウナギの表面は焼かれてサクッと歯触り良く、中の身はふわっと柔らかい。
味わいつつ掻き込み、2杯目突入。今度は薬味をかけていただく。ネギをたっぷり、ワサビは少々かけて一口。薬味によってウナギの旨味が引き立っている。
そして3杯目。ワサビを多めに載せ、お出汁をかける。ウナギの脂が少し溶け出したお出汁にワサビを溶かし、ちょっとお行儀悪いかな・・・と思いつつ、お椀に口をつけてさらさらと流し込む。
お腹が満たされ始めたところに、食感と風味が変化したウナギがするすると流れ込んでくる。
さて、4杯目は好きな食べ方で・・・とのことなのだが、動きやすさを考えてジーンズをはいてきたこともあり、お腹が圧迫されてこれ以上入らない。4杯目はお持ち帰りさせていただくことにした。
お腹が満たされ大満足。さて帰ろうと新幹線に乗り込み、少しだけシートを倒して一息ついたところでふと気づく。
て、天むすと外郎・・・買い忘れた・・・
結局、お土産はシロナガスクジラのガチャガチャ模型2個と、ベルーガのイラストが描かれた小さなトランクのみ・・・か。
まぁ、でも・・・生き物たちと美味しいウナギに癒された、今の私にちょうど良い旅だったかな。少しだけグレーになった心で、そう思った。
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