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小さな馬の思い出、ふたつ



2019年。

初めて訪れた土地で、たまたま足を運んだ公園。
そこに「馬乗せ屋」がいた。

小さな馬に乗って、5分ほど歩いて、それで珈琲3杯分の料金だった。
屋台もなく、のぼりもなく、お兄さんがベンチで客待ちをしていた。

「乗りたいな」と、3歳の息子が言った。

でもそれは無理な相談だった。ここに着いてすぐに、持ち金をすべて盗まれたからだ。お兄さんは、私たちに乗馬を慫慂しなかった。なんらの言葉をも発さずに、ただただ微笑みを浮かべていた。

そうしてそのまま、今日に至るまで「馬乗せ屋」を見かけていない。私は、お兄さんと小さな馬の健勝を願っている。彼らの生存を願っている。

ウクライナ・キエフ郊外の、ささやかな思い出。


2018年。

パレスチナの難民キャンプで、私は自転車を漕いでいた。そこへ少年たちが近づいてきた。汚れた馬を引き連れて。

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