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消滅寸前集落の一家が未来に繋ぐもの

「お昼ごはん、卵かけご飯でいいかなっ!」

会ってすぐのことでした。

初対面の大学生にこんなあたたかい言葉をかけて迎えてくださったのは、(有)土遊野の代表・河上めぐみさんです。

土遊野がある富山県富山市の土集落には、現在河上さん一家しかもう住んでいません。

何十年もかけて築いた棚田と、日本の文化と資源が溢れる里山をなくすまいと、平成7年に両親が会社を設立。手に負えなくなった集落の田畑を引き継ぎ、現在面積は当時の倍以上に。

「農地を引き継いで残したい」

河上さんの想いは持続可能な循環型農業として形に現れています。

例えば、棚田ではアイガモ農法を導入し有機米を、鶏舎では手作りの餌で元気に駆け回って育った鶏の卵と地鶏肉を。その他キウイや有機野菜、穀物、苔など新しいことにどんどん挑戦し農地を活用。また、鶏糞からできた有機肥料を使ったり、小麦や大豆を作り地力を上げ、除草剤を使わないようにしたりと、様々な工夫をしています。

どうしてここまでして農地を守るのか。

河上さんのルーツに迫り紐解きながら、「農業で大切なことって?生きるって?豊かさってなんだ?」そんなことを考えさせられた、インタビューをお届けしたいと思います。


聞き手:奥野香子

あたり一面に広がる棚田。

農業やろうと思ったのは、上京したから

両親が関東から富山・土集落に移住(今でいうIターン)をして、農業を始めたのが土遊野の始まり。めぐみさんは小さい頃よくお手伝いをしていたそう。

農業系の大学に進むかと思いきや、東京外国語大学でタイ語を学び、女子サッカー部に所属、バイトも掛け持ちという、女子大生を謳歌していた河上さん。

「上京した時は農業したいと思ってなくて、天職探しに行ってた。東京に行けばいい出会い、やりたいことが見つかるかなって(笑)」

しかしその上京で、東京はお金があればなんでも買えるけど、何にも作れない場所だと気づきます。
「輸入、経済に安心して、農業や食料がなくなっても誰かが作ってくれるだろう、飢えないだろうって私は思えなかった。そのどこか、誰かが不確かだった。日本の大地を耕して、美味しいお米、元気な鶏を育てて、っていうのが私にとっての安心。長い目で見ても。だから、農業を選んだ」
卒業後土集落に戻り、農業を自分の手で始めてあっという間に9年。
「今はやりたいことが尽きない。もっとこうしたらどうかなあとか、全部自分で考えてやれるのが農業の面白いところ」
東京で暮らしたことが農業を始めるきっかけに、そしてその言葉一つ一つから感じる力強さと誇りから、農業こそが河上さんの天職なのでは、と思ったり。
どんなお仕事をされているのか、詳しくお話を聞くことにしましょう。


ヤギもいます。

-具体的にどんなお仕事をされているんですか?

めぐみさん:農業ってどんなイメージ?

-うーん、土いじりとか…

めぐみさん:ウンウン、鶏に餌やって育てるとか、田植えして稲刈りするとか、畑にいるイメージだよね。だけど、ここは作るだけじゃなくて、受注、出荷、配達するところまで全部自分たちで。

-届けるところまでやる意味とは?

めぐみさん:距離が近くなる!農業って食べてもらわないと成り立たなくて、サポーターづくりがすごく大切。自分たちで全部やることで、「こんな人が作ってるんだ、この鶏はあそこで飼ってるんだ」ってわかるし、質問・疑問があってもすぐ受け答えができる。食べる人も安心だよね。見える関係を作ることで、信頼がつながっていくから、自分の手で届けることを大事にしてるかな。

確かに、インタビュー中もひっきりなしに注文の電話が鳴ってます!(笑)ただつくるだけでなく、想いやこだわりが届くから、土遊野をマイファームにする人がたくさんいるのかあ、なるほど。

丹精込めて作った商品を一つ一つ丁寧に梱包します。


-「やりたいことが尽きない」とはじめにおっしゃっていましたが、今はどんなやりたいこと、目標があるのでしょうか?

めぐみさん:届けるのと一緒に、食べる人が土遊野にきてもらえることかな!なるべく現場に来てもらって、色々なことを感じてほしい。

-ほうほう、その心は。

めぐみさん:一つは、畑、家畜、生産してるみんなと近くなること目の前で鶏を見るだけでも、私たちは他の命をたくさん食べて生かしてもらっている現実を知ることができる。そして無駄にしたくない気持ちが芽生える。人間は命を潰す力を持っているからこそ、もっとちゃんと見なきゃいけない。それを伝えるのも農家の仕事かな。

二つ目は、里山には資源があるということ。里山って、不便、熊が出る、コンビニが遠い、生活しづらそうっていうイメージを持たれがち。実際そうかもしれないけど、土がある、飲める水がある、棚田の粘土質の土はお米がすごく美味しくできる。日本のここほんの一部だけでこんな豊かな資源がある。そこに課題を見るより、私は豊かさの方がいっぱい感じられた。自分の作った農作物を食べてもらって「美味しい」から見てみよう、風景素敵だな、こんな生き方、暮らし方があるんだな、日本ってまだまだ捨てたもんじゃない!って体感してほしい。

私も鶏舎に案内していただきました。そこはただの生産現場ではなく、私たちに命や生きること、当たり前だけど忘れがちな大切なことを教えてくれる場所でした。

生まれてこのかた確実に決まってて、わかってることは「死ぬこと」

鶏も人間も、同じ。だから死ぬのはかわいそうじゃなくて、私たちにもいつか死は訪れるからちゃんと生きよう、できることをしよう、頂くときはありがたくいただいて力にしよう、って思うことの大切さを鶏たちが教えてくれた。さら(娘さん)にも知ってほしいし、伝えていきたいかな。


このヒナたちの中で100%生きながらえる子はいない。弱っている子、卵割り切れずに死んじゃう子、ちっちゃい子、必ずいる。人間も一緒!みんなが同じサイズで均等に育つことはありえない、性格もある。なのに、いじめもあるし、成績順で分けられる。人間社会の中で苛まれちゃう。それは、人間社会しか知らないから。そういうときはこの子達を見てほしい。生き物って違いがあることが当たり前だって、あいつちっちゃいけど頑張ってるなって!

自分の手で納得のできるものを作り、届け、反応ややりがいを直に感じられる農業の魅力、そして、自然や動物たちとの暮らしは、豊かさや生きることを直接教えてくれるかけがえのない場所であると感じました。「農業って、ただつくるだけじゃない」そう感じた一日でした。河上さんは「人と自然がこれ以上離れないよう、繋ぎとめたい」という想いから、農場見学・農業体験を行っています。季節ごとに姿を変える里山、日々姿を変える生き物たち。訪れるたびに、きっと何か素敵なものに遭遇し、大切なことに気づかせてくれるはずです。

詳細:http://doyuuno.net/farmstay.html
お問い合わせ・申し込み:doyuuno111@gmail.com

【土遊野について】
HP:http://doyuuno.net/
FB:https://ja-jp.facebook.com/doyuunno/


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