本当にあった介護施設での残酷な終末期
介護施設への入所生活は、まだまだ先のことかと思っていませんか?
施設に入ってお世話になるなんて、普段は考えないでしょう。
でも、他人事ではありません。
そして、人は生まれてきた以上、避けられないある宿命があります。
生き物は生まれた以上、この世を旅立つときを迎えます。
介護施設に入所されているかたの殆どは、本人にとって施設が終の住み家となります。
死を迎える年齢は個人差があり、早くして旅立つ人もいれば、天寿を全うする人もいます。
もし、終末期になった場合、出来るだけ最期まで自由な生活を送りたいですよね?
孫との時間を大切にしたい。
友達と一緒に食事とガールズトークを楽しみたい。
温泉旅行でリフレッシュしたい。
人生の大半を自由に過ごし、好きなことをして楽しみたいというニーズは誰もがお持ちでしょう。
施設生活を送っているかたの多くは、体にハンディキャップを背負っています。
その為、本人にとって中々思うようにいかない終末を迎えてしまうことも少なくありません。
施設では元々そこまで面倒見きれない上に、人手不足が更に輪をかけています。
中には自分だったら嫌だな…と思う終末期を迎えるケースもあります。
介護が必要な状態に陥ることは、行動面における自由を奪われます。
介護にあたるスタッフと介護を受ける利用者様の信頼関係を構築することは非常に困難なことです。
介護業務は肉体的だけではなく心理的負担が大きい業務です。これには利用者様の行動面、利用者様のキーパーソンとなる人物との関わり、職場の人間関係などの複雑な事情が絡み合っています。
施設は生活の場と言えども、利用者様はいつ急変するのか分からない為、常に緊張感と隣り合わせです。
一方利用者は、身体が思うように自由がきかない、スタッフに強い口調で言われて不快な思いをする、利用者同士の人間関係など、利用者様ならではの悩みもかかえています。
介護保険法では「被保険者の心身の状況、その置かれている環境などに応じて、被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者及び施設に提供されるように配慮して行わなければならない」と謳われています。
現在、介護保険法では在宅生活に重点を置いた内容となっています。
施設入所の方が在宅復帰することは、現実的に無理なケースが多く、利用者の「家に帰りたい」という希望が身体状況からして無理なこともあれば、当人を取り巻く家庭環境も絡んでいます。
脳梗塞で倒れて半身不随になる生活は、高齢者だけの問題ではありません。
なかには若くして倒れてしまう場合もあります。
要介護状態になる原因は様々です。
状況によっては避けられないものもあります。
でも、生活習慣を改めれば、要介護状態の予防が可能である場合もあります。
50代前半にて要介護状態…施設入所へ
この事例は施設生活を送っている50代男性のSさんの話です。
Sさんが施設入所された時の年齢は54歳でした。
Sさんは脳梗塞で倒れるまでは社会人生活を送り、車の運転もしていました。
脳梗塞によって倒れてしまい、右片麻痺を起してしまったことによって要介護状態となり、施設生活を送ることになりました。
Sさんは当然ほかの利用者様より若くて体格も良かったので、御飯も大盛で食べていました。
Sさんは施設に入所したばかりのころは常食といって、普通の御飯、おかずは刻まないものが提供されていました。
ADLは杖歩行可能であり、ほぼ自立で生活が送れていました。
ところが、Sさんは脳梗塞の発作を起こしてしまいます。
この発作が原因で、Sさんは車いす生活になりました。
食事のレベルも落ちてしまい、全粥キザミ食となったのです。
おまけに主食の大盛は解除されてしまいました。
これはSさんにとって、とてもショックなことでした。
Sさん本人は「御飯が食べたい 」「御飯を大盛にしてもらいたい」と訴えていました。
でも、周りの介護職員はSさんの訴えを全面否定します。
スタッフの視点からすると、Sさんに御飯や刻まないおかずを提供すると、誤嚥の恐れがあるからと判断したからなのでしょう。
Sさんは元々頑固な性格の持ち主でした。
普段は大人しいのですが、怒り出すと暴力を振るい、杖を振り回したり噛みついたりすることもあります。
その為、スタッフの間ではSさんの評判が良くありませんでした。
Sさんは、しきりに訴えます。
「御飯が食べたい」
「御飯を大盛にしてほしい」
こんなSさんの要求に対するスタッフの返答は
「ダメ」
この一点張りです。
その口調は、まるで子供に叱るような強い口調でした。
そんな中、Sさんは再び発作を起こしてしまいました。
Sさんの食事レベルは更に落ちてしまい、キザミ食が更に細かいキザミ食に変更になります。
日常生活はベッドで送ることになりました。
一日中、寝たきり…
御飯が食べたくて、もっと沢山食べたいのに…
Sさんの施設生活は本人の理想と真逆になってしまいました。
どんなに要求を訴えても返ってくる言葉は
「ダメ」
と強い口調で言われるばかり…
この施設生活は、Sさんにとって奈落の底に突き落とされたようなものでした。
ある日
男性相談員スタッフの夏男さんがSさんに尋ねました。
「Sさんは何か食べたいものがあるの?」
Sさんは答えました。
「焼き鳥が食べたい」
しかし、看護師や介護士の間では
「焼き鳥をご馳走するなんでどういう神経しているのかしら」
…と非難ゴーゴーでした。
夏男さんはSさんに焼き鳥をご馳走しました。
そのとき、Sさんは大量の涙を流したのです。
我慢が積もってに積もって、これまで否定され続けてきたものが一気に込み上げてきたことによる涙でした。
数日後、Sさんは命を引き取りました。
Sさんは50代のうちに、お旅立ちになったのです。
その早すぎる旅立ちは、施設生活によるストレスによって早まったことも否めません。
しかし、この終末期は相談員の夏男さんの配慮がなければ、Sさんにとって最悪の終末を迎えることとなったでしょう。
本当に尊厳を保持する介護が出来ていたのか?
介護保険法の総則では、「加齢に伴って介護が必要になった時、要介護者の尊厳を保持し、その有する能力に応じ、自立した日常生活を営むことができるように、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付をおこなう」と謳われています。
「尊厳の保持」
この言葉を用いて体裁を装うことは至って簡単なことです。
当該施設でも「尊厳の保持」という言葉が頻繁に用いられていました。
ここで挙げた介護スタッフの施した介護は、Sさんの尊厳を本当に保持したのでしょうか?
Sさんは何度か脳梗塞の発作を起し、そのたび、身体機能が低下していました。
介護スタッフは、Sさんの体の自由が利かなくなったことから、出来ないことは頭ごなしにダメだと言い続けていました。
これを続けていれば、退化する一方です。
おまけに、本人の要求が実現不可能なものであっても全面否定していれば、本人のストレスはハンパありません。
この、残された機能をどのように最大限に引き出すのか、残存機能を最大限に引き出して、日常生活を出来るだけ張り合いのあるものにしていくことに努めることが、介護にあたるスタッフの役割ではないのでしょうか。
自分よりはるかに若い人に強い口調で言われることは、本人にとってプライドがズタボロに傷つけられることです。
しかし、ケアに当たる側としては、ついつい感情的になってしまうのかもしれません。
要介護状態は身体的な自由を奪われてしまいます。
尚更、施設生活となると何かと制約があるものです。
ただ、介護スタッフはSさんを虐待する意図はありませんでした。
どのように対応したら良いのか分からなかったことも考えられるでしょう。
介護スタッフからすれば悪意がないとしても、実際おこなったケアが尊厳を保持したケアと真逆なことも無きにしも非ずです。
もし、倒れなければ…
もし、Sさんが脳梗塞で倒れず施設生活を送ることにならなければ、もっと人生を有意義に過ごせた筈です。
Sさんは元々、頑固な生活の持ち主。
周りがSさんの生活習慣を見て、いくら注意しても言う事を聞かなかった…ということがあったのかもしれません。
そのような性格が仇となって要介護状態に陥ってしまったというのも考えられます。
施設生活は集団生活の場
介護保険法では尊厳の保持を謳っているものの、一人一人の要望に完全に応えられるものではありません。
身体にハンディキャップを持っていると、行動が制限されます。
そして、集団生活である以上、ある程度の妥協を求められます。
また、介護スタッフと利用者様本人との相性もあり、お互いが悩ませているところです。
要介護状態になっていいことはない
脳梗塞を起こす原因は様々です。
普段から塩分の多いものを摂っている、偏食、身体に悪い油の摂取、飲酒や喫煙、ストレス、寝不足等が挙げられます。
誤った食生活、生活習慣は要介護状態のリスクを高めてしまいます。
要介護状態に陥り、施設生活を送ることとなった場合、巡り合わせが悪ければSさんの二の舞を踏むこともありうるでしょう。
早々に脳梗塞で倒れ、要介護状態となって余儀なく施設生活を送り、自分より遥かに若い人に強い口調で叩かれ、怒りの感情に心がうずくまったままこの世を去っていく生き方は、あなたにとって幸せだと思いますか?
こんな終末期を誰もが嫌がることでしょう。
そうならないためにも、自分の身体を守ることは大事なことです。
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