言語聴覚士が抱えるハンディを生涯の財産へ@口腔機能探求部

こんにちは奥住啓祐です。

月に4日ですが、言語聴覚士として福岡と熊本の小児歯科、歯科で、助産師さんと一緒に、障害の有無関わらず乳幼児を個別ケアしています。

ありがたいことに今年から、助産師さんとの個別ケアの予約を出産前にとられるケースも増えてきており、リピーターの方と合わせて現在半年待ちという状況が続いています。


さて、コロナ渦ずっとオンラインでの研修が続いていましたが、今年はBRIDGE 代表の理学療法士 小松さんからのオファーを頂き、3年ぶりに集合研修を企画しました。

既に開催が終了した名古屋、東京ともに、当初の予想を上回る多くの方に申込みを頂き、キャンセル待ちという状況。

参加者の経験年数は1年目の新人さんから20年以上のベテランセラピストさんまで様々な方が集まり、今回のテーマである「身体からみた口腔、口腔からみた身体」をテーマにした実技を多職種で行いました。

参加頂いたSTさんからの感想投稿

法人の若手STさん達と一緒に参加頂いた管理職のSTさんからは、「後輩たちが研修終了後からアセスメントへの苦手意識がなくなり、また、重度の障害がある方の担当も積極的に受けてくれるようになりました。」と嬉しい報告を頂きました。

ほんとに久しぶりの集合研修ですが、あらためてその良さを実感しました。開催するごとに内容をバージョンアップしていますので、次回の大阪開催に参加される方はお楽しみに。

小松さんとのコラボ研修では、研修が始まる前の30分の時間で、受講者全員の口腔機能を私が評価し、配布資料へ記録して、お渡ししています。そのアセスメント情報と、研修中に追加でアセスメントしていく、皆さんの身体のアセスメントとを関連付けながら、口腔を含めた全身の「どこから」「どの専門職が」介入していくことが、より効率的なのか多職種で考えていきます。場合によっては、言語聴覚士が先に口腔へ介入した方が、理学療法士さんが身体機能への介入が行いやすいという事もあります。


さて、コラボ研修以外にも、法人研修や、少人数での口腔臨床推論会も行いました。

口腔臨床推論会は、実際に受講者自身の口腔機能と身体のアセスメントを行い、把握できた情報から、食べること、話すこと等に関して悩みやすいことについて「乳幼児期に獲得した機能」という視点から掘り下げます。

その上で、口腔機能への介入を行い、その場で「より高い口腔機能を再獲得する」ことを体験して頂きました。

先日の東京開催では、上唇を自分でコントロールできるようになり、数分の介入前後で口唇の厚みが明らかに変化していきましたね。研修翌日も「発音の際の口唇の使い方が理解できて、発音しやすくなりました。上唇の形も変わってビックリしました。」とメッセージを頂きました。

この獲得している上唇の機能のハンディは、歯科でみているお子さん達も多く抱えている課題です。母音や子音を発音する際に、しっかりと口唇周囲筋をコントロールできるよう個別に対応する必要があります。このあたりは、前回の口腔機能探求部(母音①)でも、アセスメントに必要な視点をお伝えしました。まだ動画を見られていない方は、ゆっくり視聴されてください。

口腔臨床推論会では、歯科医院の臨床で行っている、アセスメントと介入の流れを、そのまま行っていきます。

特に初めて参加された方は、アセスメントと口腔の変化のスピードについていくことに苦労されたと思いますが、同じ流れで何度も観察することで、少しずつついてこれるようになったと思います。

ぜひ、繰り返し参加し、多くの方の口腔と身体を一緒に見て、分析していきましょう。きっと1年後、開口場面を見た瞬間に、気付ける情報量が各段に増えていると思います。

大阪での口腔臨床推論会。興味がある方はSNS等から個別に問合せください。少人数での開催ですので、すぐ締め切ります。



さて、今回の記事のテーマは、名古屋と東京での出張中、「約60人の専門職の方々の口腔機能を実際にアセスメントしてみて考えたこと」を共有していきます。

記事にしようと思ったキッカケは、「養成校時代から、お互いに口腔のアセスメント練習などを行うなかで、自分の口腔周囲筋の動かしにくさについて気付き、悩んでいた」という1年目STさんからのメッセージ。

新人STの教育に携わるSTさんには知っておいてほしい内容です。また言語聴覚士の学生、20代のセラピストも知って頂き、自分の獲得している機能を改めて振り返るキッカケにして頂けると幸いです。



お知らせ

1.最近、口腔機能探求部に参加され始めた方向けに、口腔機能探求部(オーラルハンドリング編)の記事をお求めやすい価格でマガジンにまとめました。研修動画は消しませんので、ゆっくり視聴されてください。

2.来月、口腔機能探求部(母音②)を開催します。参加希望の方は必ず、事前に母音①を視聴されておいてください。

3.「子どもの発達支援を考えるSTの会」の次の会報誌に口腔研修の内容が掲載されます。実際今年行った講義動画を視聴できるQRコードを付けていますので、お楽しみに。




健常群が獲得している機能の変化

歯科医院では、疾患のない、健常乳児も助産師さんと一緒に多くみます。中には生後数週の赤ちゃんを見ることもあるのですが、多くの乳児を見る中で気付いたことがあります。

それは疾患の無い、健常といわれる乳児であっても、既に生活するなかで、過緊張と低緊張の筋が口腔周囲筋含め混在した状態で、食べる、話すといった活動を習得しようとしている現実でした。

内舌筋全体が過緊張な乳児もいれば、内舌筋全体が低緊張な場合もあります。舌の部位によって、過緊張、低緊張が混在しているようなケースもあります。その背景は様々。

また、乳児期の泣き声に嗄声があるケースも稀ではありません。この一年、嗄声を伴う赤ちゃんの泣き声への介入もよく行っています。

これら乳児期の課題は成長と共になくなるのか。その答えは就学前後のお子さんを見ていくと分かってきます。実際に就学前後のお子さんをみると、乳児期の課題と同じものを抱えるお子さんと出会います。


必要な機能は目的次第

さて、身体の機能には誰しも左右差などはあるもので、全員がベストな状態であることを目指す必要はなく、それを実現するための社会的資源もありません。

医療的なケアが必要な方とは違い、口腔周囲筋の課題などがあったとしても生きていくことはできます。

当然ですが、その方にとって必要な機能というのは「目的・目標」次第


口腔に関わる専門職にとって必要な口腔機能

実際に名古屋、東京で多くの専門職のアセスメントを行うなかで、特に20代のセラピストの口腔機能、身体機能の課題が目立ちました。

具体的には

・開口範囲が1指~2指
・内舌筋の緊張を保った状態で口唇を超えて舌を前に出せない。
・常時噛みしめており、母音の発音にも影響(母音講座参照)
・舌の運動にあきらかな左右差あり
・なかには挺舌時に偏位がある方も

身体機能としても、基本的な体幹回旋可動域などに明らかな制限がある等の特徴が観察されました。口腔機能探求部に参加されている方は、きっとこの時点で、いろいろ気付かれるのではないでしょうか。

小松さんとのコラボ研修では、参加者全員の口腔機能をチェックします。アセスメントにかける時間は1人につき1分ほどですが、名古屋、東京と行って、若手、ベテラン含めて何もチェックがつかなかった方はいませんでした。どちらかというと、沢山チェックが付いた方の方が多かった印象です。

これらの特徴は、歯科医院で個別にケアを行っている健常群のお子さんたちが抱えている課題と共通のものになります。

あらためて数年ぶりに若手セラピスト達の口腔機能等をアセスメントしてみて感じたことは、

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国内外11人の言語聴覚士を中心に執筆。このmagazineを購読すると、言語聴覚士の専門領域(嚥下、失語、小児、聴覚、吃音など)に関する記事や、言語聴覚士の関連学会に関する記事を読むことができます。皆さんからの体験談など、様々な記事も集めて、養成校で学生に読んでもらえるような本にすることが目標の一つです。

国内外の多くの言語聴覚士で執筆しているので、言語聴覚士が関わる幅広い領域についての記事を提供することが実現しました。卒前卒後の継続した学習…

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