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タバブックスの本棚から04―女も人間

今日3月8日は国際女性デーだ。

この日と関係の深い3人の女性、ナ・ヘソクとホ・ジョンスクと山川菊栄が、タバブックスの『夢を描く女性たち イラスト偉人伝』に登場する。
この本は、『私たちにはことばが必要だ』や『失われた賃金を求めて』を刊行した韓国のフェミニズム出版社ボムアラムによる、女性だけの偉人伝の日本語版だ。女性イラストレーターによるイラストとともに、世界の女性偉人の人生が紹介されている。

思い返してみると、教科書に出てくる歴史上の偉人は男性ばかりだった。私は小学生の頃「歴史上の人物で誰が好きか?」「尊敬する偉人は?」という質問にうまく答えられなかった。自分が憧れられるような人がいなかったのだ。もしこの本が身近にあったら、いくらでも答えに困らなかっただろう。めちゃくちゃかっこいい女性たちが出てくるからだ。

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韓国女性として初めて世界旅行をし、自由恋愛を主張し、子どもに自分と夫の姓を両方つけ、離婚後に世間の非難を浴びるなかで堂々と「離婚告白書」を発表し、朝鮮社会と男性の二重性(※)を暴露し、妊娠・出産の苦痛と育児の苦しみをありのまま述べて母性愛が女性の本能ではないという事実を訴え、良妻賢母は女性を奴隷にするためのことばだとさけびながら家父長制とたたかった人  (※男性の二重性:結婚する女性に純潔を求める一方、男性は浮気をしたり妾を囲うなど矛盾していることを指摘することば)

そのように紹介されるナ・ヘソクは、日本統治時代に画家、彫刻家、小説家、社会運動家、独立運動家などとして活躍した女性だ。植民地支配下で「女も人間だ」と訴えつづけた。

Wikipediaの「国際女性デー」韓国語版のページによると、朝鮮における女性デーは1920年に、ナ・ヘソクをはじめとする自由主義系の女性たちと、ホ・ジョンスクら社会主義系の女性たちがそれぞれ女性デー記念行事を始めたことで定着したという。

ホ・ジョンスクもまた、『夢を描く女性たち』に登場する偉人だ。

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「革命が職業だった女性」と言われるホ・ジョンスクは活動当時から「頭脳明晰で透徹した理論の持ち主」と評判のすぐれた思想家であった。母親を見て家父長制の不条理を早い段階で悟ったジョンスクは培花女子普通学校時代の先生だったチャ・ミリサを手伝って女性の教育活動を開始する一方、社会主義女性団体の組織を主導し、女性の権利のために力をつくした。

彼女はほかにも「女性の美しさ」を強要し、女性を商品化する男性的な文化を批判し、髪の毛を短くカットする「女性短髪運動」を主導した。またナ・ヘソクと同じく独立運動にも参加した。


一方、日本に国際女性デーを伝えたのは山川菊栄だ。彼女は若い頃、紡績工場で年下の女工たちがきびしい労働環境に置かれているのを目撃したことをきっかけに、女性労働運動に取り組んだ女性である。

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社会主義にもとづくフェミニズムの理論を深め、評論家として頭角をあらわしていく。なかでも与謝野晶子、平塚らいてうとの「母性保護論争」は日本フェミニズム史に残る議論となった。(中略)菊栄は、職業労働と育児は本来矛盾せず、両立を阻んでいるのは資本主義の社会だと切りこむ。そのうえで、女性が安い労働力として搾取される危険性や、家事育児が不払い労働であることにまで言及した。

ウィメンズマーチ東京のウェブサイトによると、山川菊栄は、コミンテルンで3月8日と定められた国際女性デーの情報をキャッチし、1922年に「八日会」を結成して翌年1923年に日本で初めての女性デー「女だけの講演会」を計画したという。(官憲による弾圧で開催はできなかった。)


こうしてみると、過去の女性たちが関心を持っていた問題は、約100年が経っている現在も残存しているように思う。女性に純潔を求める一方、男性は性的に活発であることを要求する「男性の二重性」は今も存在するし、母性愛を女性の本能だとする神話や、「女性の美しさ」を商品化する文化も根深く残っている。山川菊栄が指摘した、女性が安い労働力として搾取されることや、家事育児が不払い労働であることはまさに今、議論されている問題だ。

こんなにも「今の問題」に取り組んできた過去の女性たちの運動について、私はあまり知らずにいた。これまでは私自身が生まれてからの経験をフェミニズムのことばで捉え直す段階だったのかもしれない。次の段階では、私自身の問題意識と過去の女性たちの問題意識を、バラバラなままではなく連続的なものにするために学びたい。

またこの本を読みながら、日本の植民地支配と搾取と暴力に対して当事者として声を上げた女性たちを(「従軍慰安婦」のサバイバーとして名乗りをあげたキム・ハクスンさんをのぞき)、私はほとんど知らなかったことに気づいた。学校で使う教科書にはそんな女性たちの話にスポットライトが当てられることはなかった。ナ・ヘソクとホ・ジョンスクの他にも同書で紹介されているチャ・ミリサ、クォン・キオク、ブ・チュンファもまた独立運動に参加した女性たちだ。

女性の権利のために活動した女性が独立運動にも関わることが多いのは、偶然ではないと思う。被植民地または占領下の社会では民族の解放なしに女性の解放はないからだ。それは現在のパレスチナやウクライナの女性たちにも通じるように思う。私はもっとそのような女性たちのことを知り、自分のフェミニズムとどう連結させるか考えなければならない。

私はナ・ヘソクやホ・ジョンスクや山川菊栄につながるこの日を、ただミモザを買ったり贈ったり、インスタに投稿したりして過ごしたくはない。
偉大な彼女たちの足跡を思いながら、私もその行進に加わるために、声を上げながらウィメンズマーチを歩きたい。

(げじま)

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