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くそつま本読書会(後編) 自分で未来を選んでやっていく

ヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)の『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』、通称『くそつま本』の読書会。後編は、前編で出た緊急事態宣言中の話の続きからスタート。話題は汽水空港のモリテツヤさんが大学の授業で『くそつま本』を扱ったことまで広がっていきます。(構成:小沼理)


参加者プロフィール


●荻原貴男
REBEL BOOKS店主。1979年生まれ、群馬県高崎市出身。本屋の傍らデザイン業もやってます。

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●惣田紗希
グラフィックデザイナー/イラストレーター。栃木県在住。音楽ジャケット、書籍、パッケージなどのデザイン、イラストを手掛ける。

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●モリテツヤ
1986年北九州生まれインドネシア&千葉育ち。汽水空港乗務員。建築現場、執筆、焼き芋販売など雑多な物事を組み合わせてどうにか生きている。

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●小沼理
1992年富山県出身。ライター・編集者。カルチャー系のメディアなどで色々執筆。

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店を閉じたら、生活が楽になった

小沼:お金や自分の意志の流れを意識することは、コロナ禍でさらに身近になりましたよね。個人の消費もそうだし、税金の使い道や政治のあり方もそう。「国がちゃんとやってるか?」をこれまで以上に気にするようになりました。
 緊急事態宣言中はお店を営業する上でもいろんな影響があったと思うのですが、モリさんと荻原さんは何か感じたことはありますか?

荻原:あの期間は来客も少なかったので、週末の営業をやめていました。だから店舗の売り上げは減っていたけど、そのぶんネットショップを充実させるようにしていて。本をアップしたら、買ってくれる人がたくさんいたんです。店舗とネットショップを合わせたら去年と同じくらいの売り上げにはなって、ありがたいなと感じました。
 緊急事態宣言後は、けっこうみなさん来てくれますね。イベントを開催できないのが個人的にはつまらないのですが……。

小沼:それは前編で話した「自分たちで店を支える」という意識がREBEL BOOKSのお客さんにも共有されているからかもしれないですね。汽水空港はどうでしたか?

モリ:地元の店がどんどん休業していくので、汽水空港も3月下旬から7月上旬くらいまでは店を閉じていました。その間は、畑仕事に精を出していました。これまでは自分とパートナーが自給自足するための野菜しか作っていなかったんですけど、もう「食える公園」として、実ったものは誰でも食べて良いし、作業したかったら一緒にやれる場所にしようと思って。
 朝起きたら畑に行って、昼はピクニックして、午後また畑、夕方は缶ビール片手に湖の夕日を見る……みたいな日々でした。大きな声では言えないけど、本当に幸せな人生の夏休みでしたね。そしてそこで気づいたのが、汽水空港って本当になんのお金も生み出していなかったんだなと(笑)。店を閉じたら逆に生活が楽になったんですよ(笑)。
 それまではほぼ毎日のように建築現場に行って、その日当で本を仕入れたり、ゲストを呼んだりしていて。それをやらないからお金がまったく減らないんですよ。だから最初は「ハッピーすぎる!」と思ったけど、でもそれは自分しかハッピーじゃないから。文化的なことに触れる機会とか、自分が思う良い街を作っていくためにも店は開けたほうがいいと思って、7月の中旬にまた再開しました。
 ただ、再開してからはオープンを11時から13時に変えました。それで午前中は畑に費やして、「食える公園」計画も続けています。

荻原:モリさんの話で思い出したんですが、REBEL BOOKSも営業時間を短くしました。12〜20時だったのを13〜18時にしたら、すごく人間らしい暮らしになりましたね。僕は店以外にデザインの仕事もしているし、子どもが1歳とまだ小さい。営業時間を短くしたら朝も子どもとゆっくり散歩できるし、夜は一緒に夕飯を食べることもできる。余裕が生まれて、自分の生き方を見直す機会になりましたね。

「やっていけんの?」と聞かれるけれど

小沼:僕もコロナで仕事が減って暇になった時期があって。それまでは「毎月このぐらいの額を稼ぐぞ!」と思っていたんですけど、仕事が減ったので全然達成できなくなりました。でも、たとえば固定費を見直したり、空いた時間で自炊をしたりすることで変わらず生活ができたんですよね。むしろ料理が楽しくなったし、外食する時は応援したい店を選ぶようになった。お金から離れたところで生活の豊かさを感じるきっかけになりましたね。
 同時に、こうしてやっていけているのは恵まれているとも思うので、生まれた時間の余裕で社会や政治のことをもっと勉強しようと思うようにもなりました。

惣田:働かないことで余裕が生まれて、別のことを考える時間を作れる人が増えれば、必要なものが明確になったり、心地良さを大事にできる社会が作れるのかもしれないですね。

モリ:みんながゆるやかに生きて行くために経済ってシステムがあったはずなのに、いつのまにか逆にシステムに使われるようになっていた感じがあります。これをどうしたら変えていけるんだろうというのは、今いろんな人が考えているんじゃないかと思いますね。

荻原:この前トークイベントで、ひとり出版社のころからさんと話す機会がありました。そこで「“やっていけんの?”ってよく聞かれるけど、こういう質問をしてくる人の“やっていける”と、我々の“やっていける”って違うよね」という話になったんです。一般的な基準からは外れているかもしれないけど、自分としては全然やっていけてる。『くそつま本』はそういう多様性というか、生き方の自由を肯定してくれるのが良いよなと思います。

小沼:生活のスケール感を把握して、自分が選んだやり方でやっていこう、という本ですもんね。

モリ:「やっていけんの?」って、僕もよく言われるんですよ。「金稼げないのに」みたいな。で、ある時からもう信仰ってことにしました。「これは私の信仰なのですから……」みたいな(笑)。そうしたら相手も納得してくれたし、自分も腑に落ちました。
 「世界に幅と揺らぎあれ」というキャッチコピーを、汽水空港の方針として掲げています。そのためにやっているから、お金とかなくてもいい。そうして個人個人で編んだ信仰が、その人の求める未来なんじゃないかと思います。

惣田:『くそつま本』では装画と挿絵を香山哲さんにお願いしています。編集の宮川さんと「お金の行先を考えながら一つ一つ学んで、課題をクリアしてくそつまらない未来を変えていく、RPGみたいな世界観のイラストがいいよね」と話をする中で、ちょうどその時読んでいた香山さんの『ベルリンうわの空』が頭に浮かんだんです。それで提案したら、香山さんとヤマコンさんが知り合いだったんですけど。
 『ベルリンうわの空』も、今みなさんが話していたことと重なる内容です。あらためて提案してよかったなと思いました。

くそつまらない未来かどうか、自分で判断する

モリ:そういえばこの前、友達が大学で授業を1クラス持つことになって、そのゲストに僕を呼んでくれたんですよ。「自由に話をしていいよ」と言われたので、『くそつま本』を使うことにしました。

惣田:すごい! 面白そう。

モリ:参加したのは15人くらいで、みんな18〜19歳の大学一年生。コロナに直面しながら、どんな社会を作っていくのか能動的に考えていく世代です。自分より一回り以上年下の彼らにこそ『くそつま本』を読んでほしいし、そうしたらみんな意識が変わるんじゃないかと思ったんです。
 それで「読んできて感想をください」と言って、次の週にわくわくしながら授業に参加したら……全然響いてなかったんですよ。

全員:え、ええ〜!!

モリ:いや、きっと響いていた人も半分くらいいたと思うけど……印象的だったのは「くそつまらない未来とか良い未来とかじゃなくて、与えられた範囲で楽しめばいいよね」とか、「でも、みんながそうやって好きに生きていたら社会がまわらないよね」といった感想が目立ったこと。「毒にしかならないような商品を作っていたとしても、そこに雇用が生まれていることは考えないといけない」とかもありました。

荻原:それは厳しいですね……。

モリ:くそつまらない未来か、そうじゃない未来かを自分で判断することをみんな放棄してしまっているんですよね。良いと思うものを支持したり、反対に悪いと思ったことを表明したりする勇気を持たないと、自分の街を作っていくことってできないと思うんですけど、その勇気が感じられなかったのがショックでした。

いい本屋はカルチャーに触れるための希望の場所

小沼:これ、宮川さんとヤマコンさんも聞いてるんですよね。二人とも今の聞きました?

ヤマコン:聞いてましたよ〜。みんなくらってて、ちょっと面白かったです(笑)。

宮川:うーん、世間厳しいですね。ハードル高い!(笑) でも、実際感想をみていても若い子はぴんときていなくて、30〜40代くらいの人のほうが反響が大きい気がします。
 でも、若い人たちが「悪い仕事でも雇用が生まれている」みたいな考え方をするのって、たぶんそういう考え方を発している大人が近くにいるからですよね。根深いな〜。

小沼:現状維持の考え方の背景には「自分がやっても変わらない」という気持ちがあるんじゃないかという気がします。自分の行動なんてちっぽけなんじゃないかと感じてしまう瞬間は僕もよくあるけど、それでもやめずにいられるのってどうしてなんだろう。

ヤマコン:そういう考えって環境も大きいですよね。俺が小さい時はまだコンビニとか大手チェーンの店がそんなになくて、コンビニが増えて個人の商店が消えていくのと一緒に育ったから。子どもの頃からチェーン店があるのが当たり前の状況で育っている人とはバックボーンが違うから、良いと思う考え方も違うかもしれないですね。ただ、良いと思っているんじゃなくて流されているだけだったらダメだと思うけど。

モリ:そうそう。本の中で「正義感に自分を明け渡しすぎてつまんないことになるのは嫌だ」と書かれていたのをシンプルに切り取りすぎて、「要は自分が楽で楽しけりゃいいんだよね」みたいに読んでいる人もいて。「その前にもっといろいろあったじゃん!」とも思ったなあ。

ヤマコン:まあでも、本はタイトルとかデザインでフィルタリングされているから、普通に売っていると気が合わなさそうな人は手に取らないじゃないですか。だからランダムで読まれるといろんな感想が出てきて面白いですよね。

宮川:たしかに面白いですけどね。まだまだやることはいっぱいあるぞ!みたいな(笑)。

モリ:これは2を作らないといけないですよ。『くそつま本2』を。

小沼:こういうのは陣地戦なので、触れる機会を一つずつ増やしていくことが大切ですよね。

ヤマコン:俺はカルチャーに触れる機会って、どこに生まれるかでランダムだと感じていて。でも、いろんなところに良い本屋さんがあることで、そういうものに触れられる機会が増えるし、それが世界の希望だと思っているから。みなさんがこうやって良い本作ったり売ったりしていることは、俺にとってすごくありがたいですね。色々良い感想を聞けて、よかったです。

モリ:最後に僕が言いたいのは、ヤマコンさんには億万長者になってほしくて。荻原さんの話で出た「やっていけんの?」界隈の中から飛び抜けて金持ちになる人がいたら面白いじゃないですか。

惣田:たしかに(笑)。私は今iDeCoが気になっているので、ぜひ教えてほしいです。あと、REBEL BOOKSでもイベントやってほしいですね。

荻原:いいですね。やりたいです。

小沼:どんどん広がりますね。本当にまだまだやることがたくさん(笑)。みなさん今日はありがとうございました。


(収録:2020年12月15日)


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