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【事例報告と反省】頭頚部外傷に対する現場対応

【8月18日】
海野祐生先生(@yypopo1Kazuhito Kawahara先生(@kazu72462からの頭頚部固定についてのアドバイスを『4:初期対応』に追記しました。


こんにちは、だいじろう(@idoco_daijiro)です!


わたしはトレーナーとして様々な競技の練習や合宿、大会などをサポートしてきました。


そのなかで

●足関節捻挫
●アキレス腱断裂
●膝靭帯損傷
●筋損傷・挫傷
●バーナー症候群
●鎖骨骨折
●肩鎖関節脱臼
●肩関節脱臼
●肘MCL損傷
●橈骨遠位端骨折
●手指脱臼骨折
●下顎骨骨折
●鼻骨骨折
●眼窩底骨折
●脳震盪

などの外傷の応急処置・救急対応などを経験してきました。


今回、高校ラグビー部の合宿をサポートする機会があったのですが、そこではじめて「頸髄損傷」が疑われるケースを経験しました。


恥ずかしながら、その際の対応でまずかった点などがありました。

わたしの準備不足です…


今回のようなケースは、スポーツ現場で活動するトレーナーでも遭遇する機会の少ないケースだと思います。


なので、自戒の意味もありますが、今回の経験がだれかが初めて遭遇したときの一助となればと思い、個人情報・チーム情報などに配慮しつつ公開できる範囲でシェアさせていただきます。


本noteはスポーツ現場で活動するトレーナーの方々の助けとなることを目的としております。
そして、それが『アスリートの安全』につながると考えております。

多くの専門家の先生方からのご意見・アドバイスを集約していき、より良いものにアップデートしていけたらと考えております。
ぜひご意見・アドバイスをいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします!




1:症例紹介

・某高校ラグビー部3年生

・ポジション:左フランカー(6番)

・既往歴:バーナー症候群の既往あり

※他校の選手だったため、最低限の情報となります。



2:受傷機転

ラグビーの試合中、ラックになった際(下画像)に頭部が下がった肢位(赤丸)で相手選手が突っ込んで(赤矢印)きて受傷したとのこと。(本人談)

(参考:https://laws.worldrugby.org/?law=15

問診の結果から頭頸部過屈曲が強制されたことによる受傷と考えました。



3:受傷直後の肢位

わたしはSA(セーフティアシスタント)としてサイドラインにいて、現場からボール・選手が離れていったあと、該当選手が倒れていたのに気づきました。


ラグビーでは選手が倒れていることは多々あるので、それだけでは立ち上がっていつでも入れる準備はしますが、実際にグラウンド内には入りません。


パッと見て該当選手の動きがほぼ見られなかったことから、「危険」と判断し、現場に直行しました。


このとき、痛がったりして動いていたりしたほうが安心します…


現場についたときには下の画像のように頚部をおさえた肢位で選手は倒れていました。

(再現画像。笑うな!)



4:初期対応

現場に到着してから以下の流れで対応しました。

①周囲の選手に該当選手から離れる(触れない)ように指示
②大出血、変形などがないことを確認し、頭頚部固定
③呼吸を確認し、正常呼吸であることを確認
④頚部を抑えている手を離させ、落ち着かせる
⑤この時点で該当選手のチームのトレーナーAさんが到着、レフリーも試合を中断
⑥Aさんに感覚障害や運動麻痺の有無を確認してもらう
⑦感覚障害・運動麻痺が認められ、自力での移動困難と判断し、スパインボードを要請
⑧頭頚部固定を維持したまま、スパインボードに移す
⑨グラウンド外の日かげに搬送

それぞれの対応について詳しく説明していきます!

①周囲の選手に該当選手から離れる(触れない)ように指示

この時点では動かせる状態かどうかが判断できていないので、無理に動かしたりしないようにするために該当選手から離れてもらうことが大切です。


選手が倒れて動けない状態のときは、動かしていいかどうかの判断が重要です。


※先輩トレーナー談ですが、脳挫傷を起こした選手に外部の人間が勝手に足を動かしたことで反射が起こって大変だったことがあるそうです。



②大出血、変形などがないことを確認し、頭頚部固定

(再現画像。変な顔すな!)

救急対応の基本ですが、変形や大出血がある場合は、そちらを先に対応します。


今回は、変形も出血もないことが確認できたので、すぐ頭頚部固定に入りました。


徒手での頭頚部固定の方法はさまざまですが、今回は意識が朦朧としていたこと、気道確保と同時に頭頚部を固定するために画像のような固定を選択しました。


意識がはっきりしている場合は、カラダを動かしてしまうことがあるので、両前腕で頭部を挟み込み、両手を胸郭上部にあてがい、文字通り「頭頚部」での動きが生じないように固定する場合もあります。

※この固定法では、固定者がきつい肢位を強いられ、選手の顔の真上に固定者の顔がきてしまい、コミュニケーションが図りにくい印象なので、わたしは画像のような固定をすることが多いです。


__________

●頭頚部固定についての補足

私は、片膝立ちやう○こ座りのような体制でいつも頭頚部固定をしており、体勢がしんどいなぁと感じておりました。

海野祐生先生(@yypopo1は下の画像のようにうつ伏せで両肘をついて、前腕・手で頭頚部を固定されているそうです。

(日本製鉄鹿島硬式野球部HPより http://kbw-bb.com/9136.html
↑このサイトも非常にわかりやすいので、ご参照ください!

たしかにこの体勢であれば、肘が支点となり、より安定した頭頚部固定ができますし、救助者への負担は少ないと考えます。

土や芝のグラウンドではこの姿勢で頭頚部固定をするようにしていきたいと思います。
アスファルトはもちろんですが、人工芝なども気候によってはとても熱くなっており、救助者が寝ることが困難な場合があるので、注意してください!


③呼吸を確認し、正常呼吸であることを確認

頭頚部を固定したまま呼吸を確認し、異常呼吸がないことを確認しました。


異常呼吸があり、意識がない場合は心肺蘇生に切り替える必要があります。



④頚部を抑えている手を離させ、落ち着かせる

頸部を抑えているてを離させ、深呼吸を促し、該当選手を落ち着かせるようにしました。

(再現画像。やっとマジメになった。)


選手が落ち着いてきたら、少しずつコミュニケーションをとりました。


まず意識障害の有無を確認するために、SCATの内容を参考にして質問していきました。


該当選手が混乱してる部分もあったのですが、受け答えははっきりしていて、受傷機転も説明できていたので、意識障害については無いものと考え、脳震盪よりも頸部外傷としての対応に切り替えていきました。



⑤この時点で該当選手のチームのトレーナーAさんが到着、レフリーも試合を中断

この時点で受傷後1分程度だと思いますが、該当選手のチームのトレーナーAさんが現場に到着し、レフリーも緊急性を察知し、試合を一旦中断しました。



⑥Aさんに感覚障害や運動麻痺の有無を確認してもらう

わたし自身は頭頚部固定に手をとられていたので、問診以外のチェックができない状況でした。


なので、Aさんに感覚障害や運動麻痺の有無を確認してもらうよう依頼しました。


このとき、判断が難しいことがあるのですが、今回の状況であれば、リスクが高いため、初期から対応しているわたしがリーダーとして救急対応を進めたほうが良いと判断しました。


リスクが少ないケースであれば、所属チームのトレーナーさんに任せた方が良いと思います。



⑦感覚障害・運動麻痺が認められ、自力での移動困難と判断し、スパインボードを要請

検査の結果、感覚障害・運動麻痺ともに認められたので、自力での移動・体動が困難だと判断し、スパインボードを要請しました。


グラウンド脇の駐車場にある倉庫内からチーム関係者の方々がスパインボードを持ってきてくださいました。



⑧頭頚部固定を維持したまま、スパインボードに移す

グラウンドにあったスパインボードには頭部固定用のパーツがなかったため、今回はわたしが頭頚部固定を維持したまま、半側臥位になり、スパインボードに移しました。


選手を含め、数名の人が手伝ってくれるので、わたしが指示・合図を出しました。


__________

具体的なスパインボードへの移し方はKazuhito Kawahara先生(@kazu72462が教えてくださったサイトがわかりやすいと思います!

伏臥位からのログロール
https://ops-old.tama.blue/ops/tech/050913fukugai_log/050913fukugai_matu.html


このサイトでもわかるように、頭頚部固定は基本的に初期対応時のアライメントを保持することが推奨されています。

無理に動かすことで、頚椎の脱臼・骨折などが起こり、重症化してしまうからです。


スパインボードに移し、四肢の感覚障害や運動麻痺が無いこと、頸部を動かす際に痛みや抵抗感・制限が無いことを条件に、正中中間位にもっていくことが良いと考えます。



⑨グラウンド外の日かげに搬送

スパインボードに移し、ストラップでカラダを固定したら、計7名でグラウンド外の日かげに搬送しました。


もちろん搬送中も頭頚部固定を維持していました。


今回のケースでは、四肢の感覚障害・運動麻痺が生じていたため、頭頚部固定がもっとも重要なポイントだと考え、アライメント保持に細心の注意を払いました。



5:グラウンド外での対応

グラウンド外へ搬送してから、Aさんと連携して再度バイタルや神経症状のチェックをしていきました。


ニューラプラキシアのように一過性の神経症状も考えたので、この時点では10分程度経過をみようと判断しました。


実際に10分程度経過をみていっても、感覚障害・運動麻痺ともに改善はみられなかったため、チームスタッフに救急搬送の必要性を伝え、了承を得ました。


そして、Aさんに救急車を呼んでもらい、合宿所が山間部だったため、救急車の到着を20分程度待ちました。



6:救急搬送

救急車が到着し、救急隊にHOPPSにそって情報を伝え、選手を引き渡しました。


救急隊のスパインボードに選手を移し直す必要があったのですが、このとき、無理な体勢での頭頚部固定の影響で、足が痺れてしまってました。


なんとか無事に対応することはできたのですが、救護する側に負担がかからないような方法を模索していく必要性を感じました。



7:経過報告

その日の夜、21時くらい(搬送が16時)に監督から連絡があり、「該当選手のチーム・保護者の方がお礼を言いたい」とのことだったので、経過が心配だったので、挨拶に向かいました。


そしたら、監督、保護者だけでなく、該当選手もその場に挨拶にきてくれてました。


頸椎カラーも装着しておらず、普通に歩いていました。


話を聞くと、病院に到着して症状も落ち着き、MRIなどにも異常がみられなかったとのことでした。


「大丈夫だったので、明日からまた頑張ります!ありがとうございました!」と言っていたので、「?」となりました。


ドクターストップかかってないの?


翌日、監督が該当チームの別の選手から聞いた話では、チームのトレーナーも今回のような対応はほとんどせず、無理な復帰が多いとのことでした。


もしかしたら、ドクターからはストップがかかっていたけど、監督判断で復帰させていたのかもしれません。


最終日に該当選手に話せるタイミングがあったので、話をすると、やはり受傷後翌日にも右上肢の軽い痺れなどが出ていたようです。


チームは引き続き別の合宿に入るとのことだったので

●頸部が不安定になっており再受傷のリスクがかなり高い●無理しない(本当はストップさせたかった)

を伝えて、サヨナラしました。



以上が今回の対応の流れです。



8:どくしょー先生からのご指摘

今回、わたしは初めて「頸髄損傷」が疑われるケースに対応しました。


今回の対応が良かったのか、悪かったのか、見直す点はどこなのかを知りたかったため、ONLINE COFERENCE(医師・セラピスト限定無料コミュニティ)で外傷整形を専門とされるどくしょー先生(@ShoichiroMizunoに相談させていただきました。


Q:今回のように四肢全体にニューラプラキシアが起こることはあるのでしょうか?

A:全然あり得ます。損傷高位以下にどのような麻痺が生じても不思議ではありません。


Q:頸損で運動麻痺が起こる場合、受傷直後から起こるものでしょうか?

A:多くは受傷直後から起こりますが、例えば脱臼などがあり、頚部固定が不十分であれば二次的損傷を起こし麻痺が増悪するとかもあり得ます。外傷後から24〜48時間くらいであれば(時間にエビデンスはありません、臨床上での経験則です。何か論文あるかもです)麻痺が増悪する可能性もあります。搬送されてきて、経過を見てると麻痺が増悪したため手術をするというケースはあります。


Q:当該選手は翌日競技復帰してた(おそらくチーム判断)のですが、かなりリスク高いですよね?

A:高リスクです。脳震盪のスポーツ復帰と同様に考えてもらっていいと思います。翌日競技復帰はあり得ません!


Q:今回、受傷後10分程度経過をみたのですが、今回の程度の感覚障害や運動麻痺がある場合は、初期評価で確認できた時点で救急車を呼ぶべきでしょうか?
それとも頭頚部固定ができていれば、10分程度経過を見るのは許容範囲でしょうか?

A:麻痺があるのであれば初期評価で確認できた時点で呼ぶべきだと思います。数分で自然軽快してくるのであれば結果様子を見てもよかったとなりますが、それはあくまで結果論だと思います。仮に頚椎に脱臼があれば迅速な整復が麻痺の予後に影響しますので、明らかに麻痺があるのに現場待機するメリットがありません。



このようにドクターの先生に相談できる場があること・懇切丁寧に解凍してくださるドクターがいることは、トレーナーとしても非常にありがたいです!



9:反省点

今回のケースを踏まえていくつかの反省点を挙げます。

●スパインボードの事前準備
今回は合宿で、試合がひっきりなしに行われているので、事前に倉庫内からグラウンド内に出しておくべきだったと反省しています。

海野祐生先生(@yypopo1がツイートされていたように、今後は事前に準備をしておきたいと思います!


●救急搬送の判断の遅延
今回、グラウンド外に搬送してから「10分程度の経過観察」という判断をしてしまいました。

理由としては、2つ。

前述したようにニューラプラキシアのように一過性のもので消失していく神経症状をかなりの頻度で経験してきたこと。

他チームの選手だったため、チームの背景などがわからず、早急な救急搬送に踏み出せなかったこと。

どくしょー先生(@ShoichiroMizunoからもアドバイスをいただきましたが、やはり受傷直後に感覚障害・運動麻痺が生じていた時点で、救急搬送を依頼すべきだったと思います。

結果として何事もなかったので良かったのですが、少しでも判断を間違うと選手の一生を左右してしまうという責任ある立場だということを再認識させてもらいました。


●救急車到着までの時間の把握
恥ずかしながら、これまで全くやってきてなかったのですが、とくに今回のような山間部での合宿のサポートの場合は、事前に救急車が到着するまでの時間を把握しておくべきだったと思います。

今回は救急車到着まで20分だったため、経過観察の時間を含めると、30分以上選手を危険な状態にさらしてしまっていたことになります。

今後は、現場への救急車の到着時間も含めて事前に確認していきます!



10:ドクターへの提言

今回のケースのようにスポーツ現場ではドクターの指示を無視した競技継続・復帰も少なくありません。


とくに熱中症や脳震盪など、症状が一過性のものなどは、選手が動けるようになるとすぐ復帰させてしまう傾向にあります。


ドクターの先生方へのお願いになるのですが、アスリートが受診してきた際には「軽い熱中症だね」「軽い脳震盪だから」というように「軽い○○」という表現を控えてもらえないでしょうか?(不躾なお願いで、大変恐縮です。)


もちろんそういった外傷・障害への正しい対処法を啓蒙していくのは、スポーツ現場にいる我々トレーナーの役割です。


しかし、まだまだスポーツ現場に理解してもらうには時間もかかるのも現実です。


わたしが意見できることではないのは重々承知の上ですが、今のスポーツ選手を守るためにも、ドクターの先生方のご協力をいただけると幸いです。


なお、今回の対応についての厳しいご意見・アドバイスなどもよろしくお願いいたします。


多くの先生方からの意見がいただけると、トレーナーがより安心してスポーツ現場で活動することができるようになります。


何卒、よろしくお願いいたします。



11:Special Thanks!

●ツイートを引用させていただいた海野祐生先生(@yypopo1

●ご指導くださいましたどくしょー先生(@ShoichiroMizuno

●情報提供してくださいましたKazuhito Kawahara先生(@kazu72462

●なぜかSNSで晒されたがってたサポート選手Sくん(カメラマンマン)・Gくん(該当選手役)

↑「これでモデルの仕事が来る!」と意気揚々とすき家に向かいましたw

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