しゃべるピアノ
病気でピアノが弾けなくなってしまった。
「そんな顔して、どうしたの?」
ピアノを見ていると、ピアノに話しかけられた。
…ピアノに?
「ごめんごめん、君が元気ないから話しかけちゃった」
喋ることも出来ないから、返事出来ないのが悔しい。
「大丈夫、君は聞いてるだけでいいよ」
ピアノの蓋が開き、鍵盤が勝手に動き出した。
「これは、君が初めて弾いた曲だよ」
部屋中にピアノの音が響き渡る。
楽譜の読み方を覚えて、初めて弾いた曲だ…懐かしい。
「これは、君が演奏会で弾いた曲だ」
人前で弾くのは緊張したけど、沢山の拍手が嬉しかった。
「そして、これが…」
今まで僕が弾いてきた曲を、ピアノは次々と弾いてくれた。
僕はこんなに沢山弾いていたんだ…。
ピアノの音と共に、当時の記憶が甦る。
「これは、僕から君に送る…」
ピアノの演奏が始まると、胸が、苦しく…。
「別れの曲だ」
意識が遠のく中、見えたのは…ピアノを弾く死神だった。