「因果関係あり」と認められるのは?

因果関係が認められない、エビデンスは今はない、などを耳にする昨今、「因果関係」について意識する人も多くなったのではと思います。その因果関係あり、と認められるには何がわかれば良いのでしょうか。

因果関係が認められる、という場合、主に2つの方法があります。

(1) 原因と結果が明らかなもの。誰も疑問を持たない事柄もあれば、技術が進んで少しづつメカニズムが理解されるようになったものまであります。例えば標的に矢が当たったとしましょう。誰かが何処からか矢を放ったのが原因、標的に矢があたったのは結果。原理はともかく、誰も疑問を持たないはずです。天然痘は、経験的に牛痘にかかった人は天然痘にならないことが知られていましたが、当初は因果関係は不明でした。水俣病の原因がメチル水銀だとわかり、チッソとの因果関係がわかったのは、最初の患者が出てから何年もかかりました。このように、因果関係のメカニズムは簡単にわかるものから複雑なものまで存在します。複雑であれば因果関係が確認されるまでに時間がかかる場合もあります。
いずれにしても、結果がどのような原因に基づくのか、メカニズムが理解されると因果関係が明らかになった、と理解されます。(但し、人によっては理解しようとしない場合があるので注意が必要。例えば公害や原爆被害の場合、中々因果関係を認めない人がいることもあります。)


(2) 統計的に因果関係があると判断されるもの。実はこちらが今回の話題の本質です。

上の(1)の因果のメカニズムが解明され、認知されるには時間がかかりますが、それでも何とかしたい場面は数多くあります。ホットな話題で言うと、例えばRNAワクチンの有効性。おおよそのメカニズムがわかっているけれど、完全には究明されていません。どうして抗体ができにくい人がいるのか、時間と共になぜ抗体価が下がるのか、など、詳細解明には相当長い年月がかかると思われます。それでも「有効性あり」、つまりワクチンを接種すると、感染リスクが低下する、という結論が世の中に受け入れられました。統計的にワクチンの効果、ワクチンを接種すると発症リスクが下がるという因果関係が認められた訳です。(新薬、治療の効果についても同様です。)

受け入れられるために行われる実験の代表が、RCT(ランダム化比較実験)です。これは、単純化して言うと、比較したいワクチン接種の有無による違い以外の要因(交絡因子)が、結果に影響を与えないようにするための方法です。説明としてはブラセボ効果が有名ですね。この方法では、厳密な条件下で比較するグループを決めて実験することが求められます。
このような厳密に設計された条件下で行われた実験結果であれば、(メカニズム不明でも)統計的には因果関係が認められると判断できる可能性があります。

さらにRCTが様々な理由でできない場合でも、何とか因果関係を推定しようという試みがあり、条件によっては因果関係が認められる場合もあります。(但しここまで来ると、条件ごと、様々な分析が必要で、とられるアプローチも様々。因果推論と呼ばれる分野になります。)


なお、すべてにおいて「因果関係が示唆されていても因果関係が認められない」状態も存在することを思い出しておきましょう。いろいろな事例を集めてみたら関係がありそうだ、相関関係はある。それでも、上記の2つの方法のどちらかで因果関係が認められるまでは、因果関係が認められない状態になります。そして因果関係が認められない状態の時は、因果関係があると言えないだけでなく、ないとも言えないことに、改めて注意しておきましょう。つまり、「今はわからない」。

(因果関係と相関関係の違いについては、因果関係を相関関係と混同しているんじゃないか?、そして「因果関係不明」をどのように理解すべきか も参考にどうぞ。)