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ユナイテッド航空B777から考える設計の辛さ

 今,僕が考える科学技術による社会の分断をうまく伝えるテーマがあったので紹介させてください.ユナイテッド航空のB777の事故です.(本当はLINEの一件のほうが的確なのですが,もう少し落ち着いてから書かせてください)

事故概要と原因

 2020年2月20日,アメリカ,デンバーの上空でユナイテッド航空の旅客機のエンジンが離陸後まもなく炎上し,複数の部品が落下した事故がありました.

 この事故について,事故機はボーイング777-200型で,機体番号はN772UA,登録日は1995年9月です.つまり,機体年齢は26年になり,やや古めの機材になります.


 もう少し事故を掘り下げると,事故原因は,エンジンのタービンファンが破壊したことです.この手の破壊は十中八九疲労破壊です(注:最終的な結論はまだですが,疲労破壊が大きな要素となるという意味です).

 疲労破壊とは,繰り返し力がかかることで,金属にき裂が生まれ,それが広がることで破壊に繋がる現象です.この現象は特別なものではなく,繰り返しの力を受けるようなものの全てに起こる現象です.ですから,ただ単に棒や板を曲げ伸ばししても,起きる現象です.

 加えて,疲労破壊とは主に,応力集中をセットで語られます.応力集中とは,形状が急激に変化する部分に力が集中することです.そして力が集中した部分は,壊れやすくなることです.
 例えば,紙の真ん中に,パンチで穴を開け,その紙を両側から引っ張ると,穴の周辺から破れます.同様に,紙の横に切れ込みを入れる(専門的には,切欠きとかノッチなどと言います)ときも同様です.

 基本的に,疲労破壊は応力集中とセットで語られます.簡単に言えば,応力集中によって力が集中した部分に,繰り返し力がかかり,そこから破壊に至ります.

設計思想から考える原因

 さて,僕がこれから書くことは,ある人から,この事故について考察していることを,僕なりに補完したものです.


 この事故機であるボーイング777の設計は,ボーイング747-400(ジャンボジェット,以下写真(タイ国際航空より))よりもやや少ない座席数を持つ旅客機として設計されました.
(後に,B777-300の登場で,B747-400は生産中止になりますから,実質的な置き換えも意味します.実際国内線では747が飛んでいた路線は777で代替されます)

 トップの777の写真と,上の747の写真を比べて分かるように,それぞれエンジンが4発と2発です.つまり,777のエンジンは747のエンジン2個分の出力を出していることになります.実際,その直径は非常に大きく,同じボーイングの737型ジェット旅客機(小型機)がすっぽり入る大きさです.
 この画像は,手前の飛行機がB737,後ろがB777になり,B777の大きさがハッキリと分かると思います.(はくしの愛したブログより)


 この飛行機の直径ほどあるエンジンについては,当然ファンやブレードなどの回転部分の質量は大きくなります.回転部分の質量が大きいことは,それだけエネルギーロスや燃費,何より機体重量に影響します.そのため,軽量化が必要になります.

 とは言っても,当時(1990年代)は,まだ繊維強化プラスチックなどの複合材料はまだ,まともに登場しておらず,(そもそも,2008年に納入を目指したB787が,その複合材を多用したために,3年間もの開発遅れを起こしました)
 残るは,中空化になります.中を空洞にすることで質量を軽くすることです.結果として,エンジンのタービンは中空になりました.

 さて,このエンジンのタービンブレードですが,画像を出します.(三菱重工より)

 このタービン1つ1つが中空になっているわけですが,そのタービンも複雑な形状をしています.つまり,複雑なタービン部分に,応力集中が発生し,そこから破壊したことになるのです.

 もちろん,その対策や,整備をしていたことでしょう.例えば,設計で力の解析(応力解析)をするとか,整備で疲労破壊の下になるき裂を発見しようとするなどです.


 しかしながら,このき裂はとても小さなものです.そして,検査するエンジンは,下手な飛行機の胴体よりも大きい.そんな状況下で,整備している航空整備士や技術者の方には頭が下がります.

私見

 今回の事故は痛ましい事故です.しかし,離散したエンジン部品による人的被害は出ておらず,飛行機自体も優れた機長によって,乗員乗客無事に空港に降り立つことができました.また,この事故を受け,各国の航空局や航空会社,そして当該のボーイングやプラットアンドホイットニー(P&W)も早急に動きました.

 航空事故は1つ1つが歴史に残ります.日本でも,御巣鷹山の事故や,よど号の事故,羽田沖の事故など,全て歴史に残っています.


 僕は,何かが危険であるとか,何かが安全であるとか,事故はしょうがないなどと言いたいのではありません.飛行機の事故は、とてもすくないものです。それは、それぞれの技術者や整備士が全力で仕事にあたったからです.でも今回、事故が起きた.このとき,我々は,根拠ある論理的な思考をし,そして専門家の説明を待ち,理解しなければならないことです.

 幸か不幸か、日本の大手メディアは報じていない関係で、日本ではそこまで、777への批判はありませんし、日本企業(と思われている企業)への信頼から、こうした反応はないかもしれまん。
しかし、つい怖さを感じてしまいます。

 御巣鷹山の事故は,ボーイング社の原因によるところが非常に大きい事故です.しかし,飛行機,特に日本航空の経営は悪化しました.それは,事故というイメージで語られたためです.何より、今日でも憶測論が飛び交います。まずは、最終報告書を読んでから、議論しましょう。

 もちろん,事故調査はまだ続いており,その原因はまだ正式には発表されていない中で,このnoteを公表することは,少々矛盾かもしれません.ですが,このnoteを読んでいる人が,少しだけでも飛行機という英知と,技術者の努力をおもんばかってくれたらと思います.


拙い文章ですが,ありがとうございました。

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