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技術と倫理,キーノート「タイタニック」(チャレンジャーコラム第1回)

 みなさん,おはようございます.これから,Wein.Team 九州沖縄team,チャレンジャーコラムを連載しますYoshidaです.(自己紹介はnoteのプロフィールにピン止めしてます)

今私が挑戦していることは,「技術と社会の在り方を再構築するアイデアをまとめ,青写真を小論文に描くこと」です.その挑戦で考えていること,複数のトピックに分けてを語りたいと思います.

なかなか自分の挑戦を丁寧に語ることが出来ずにいたので,機会を頂いた九州沖縄teamのみなさん,ありがとうございます.

第1回:技術と倫理,キーノート「タイタニック」
第2回:技術と報道,キーノート「常磐線と福島第一原発」
第3回:技術と経営(経営と城下町)
第4回:技術と社会(GDPRと金盾)
第5回:技術と古典
最終回:技術を考える今日と小論文

 今回は,技術と倫理・そして安全について語りたいと思います.そしてキーノートに,タイタニック号の沈没を取り上げたいと思います.

 技術と倫理

 倫理の中で強く意識することがあります.

「できる」≠「してよい」
"can"≠"may"

このことについて前半は語りたいと思います.


 クローン技術を規制するのは,なぜなのか?.その問いかけから倫理の授業は始まりました.
 もちろん,髪の毛一本からでもヒトを生み出せてしまい,親子の問題やDNAの偽造の懸念があるから,クローン技術は規制されます.
(写真,クローン羊「ドリー」wikiより)


 よく,技術倫理について,「技術の進化に倫理的な議論が追い付いていない現状」と言われます.この議論が追い付かなかった結果,技術が大きな問題を引き起こしかねないことです.しかし,それだけではありません.この技術をわざわざ実現する意味はあるのか?という問や,可能性ベースの問もあります.

 「その技術をわざわざ実現する意味は?」という問に対して,私がよく出す例えとして,出生前診断があります.私もそこまで現状について詳しくありませんが,性別などが分かることは,まあ個人の自由で許容できますし,僕も性別くらいは教えて欲しいとも思います.
 しかしながら,病気や身体的個性の一部まで分かることはどうなのでしょうか.もちろん,分かること自体に問題がある訳ではありません.しかし,現状病気や一部の身体的特徴に対して偏見がある中では,疑問が残ります.

 別の見方をすれば,本来あってはならない偏見によって,技術の進展が阻害されている,我々の文明の進化が滞っているともいえます.

 「可能性ベースの問」に対する私の例えとして,人類の宇宙探査をヨーロッパから見た新大陸の発見になぞらえます.つまり,宇宙という未知の領域へ旅立つことは,かつての新大陸の発見であり,どのような生物や植物,病気が潜んでいるか分からない土地です.
 実際,ヨーロッパの病気が新大陸に持ち込まれ,免疫のない原住民が滅亡に危機に瀕しました.これは宇宙においても同じことではないでしょうか.
 もし,ちきゅうには存在しないような病気が見つかったらどうするでしょうか?コロナどころではないかもしません.もし,宇宙人がいて,人間と知能や身体性において何等かの違いがあったら?「ガリバー旅行記」の小人の国や巨人の国の比ではありません.

 しかし,もちろん可能性ベースの問ですから,その可能性を議論すること自体への疑問もありますし,悠長に待ってられない気持ちも分かります.
(写真,ガリバー旅行記,福音館書店)

 
 倫理の問題を語るとき,どうしてもネガティブな方向に走りがちですし,私もそうでした.しかし,技術は我々の暮らしをよりよいものにしてきたことも事実であり,その面もきちんと評価する必要があります.

 例えば,インターネットができるまでは,炎上なんてものはありませんから,インターネットが我々に「社会に干されやすい」状況を持ち込んだことは事実です.しかし,それ以上の利益を我々は享受しているはずです.私の所属するコミュニティの全てがSNSを通じたでありであり,非常に感謝しています.

 技術は確実に人々の生活を便利にしました.しかし,その利便性とそれに伴う数々の問題を改めて認識すべきなのかと思います.
 だからこそ,「できること」と「してよいこと」を考えるべきだと思います.

 このことが,僕の考える技術と社会の1つめの問です.

キーノート「タイタニック号の沈没」

 この「できること」「してよいこと」を考えるうえで,具体例を一つ上げて説明したいと思います.
 ちょうど金曜ロードショーであった「タイタニック」です.

タイタニック号の沈没については様々に語れますが,なぜ氷山の衝突によって沈没したのか?そして,なぜ多くの犠牲者が出たのかについて語りたいと思います.

 氷山の衝突によって,沈没した理由

 まず,氷山が出るような超低温の海(-2度:凝固点降下によって氷点下の温度になる)を船が高速(時速40km以上,今のカーフェリーとほぼ同じ)で走っていました.

 この結果,当時の船に使われているリベット(鉄板と鉄板を留めるホチキスのようなもの)が,衝撃や変形に弱い状態になっていました.このように金属が低温状態に置かれると衝撃や変形に弱くなることを,低温脆性と言います.
(言い方を変えると,当時の鉄の一部は,低温になるとガラスのように,硬いが割れやすくなった.そして,氷山にぶつかったことで,割れた.という認識です)

 次に,氷山をかすめるような,軽い衝撃が走ります.その結果,船に穴が開いたのです.この氷山の衝突は,本質的な原因ではなく,沈没に至る引き金です.

 さて,このタイタニックは,当時最新の水密区画を備えた先進的な船でした.

水密区画:
船の浸水に対して,船底をいくつかの区画に分けることで,浸水を食い止める方法.タイタニック号では,AからPの扉(下図,赤線)で区画を仕切っていた.

 ところが,この水密区画は同時に2つの浸水に耐える設計でしたが,今回の浸水は同時多発的で,設計の想定を超えていました.(タイタニック号の破損箇所(緑線),wikiより)

 しかしながら当時,この低温脆性はまだ発見されておらず(発見は1940年代),同時多発的な浸水に対する水密区画の安全設計は,まだ取り入れられていません.(この安全設計の考え方は,太平洋戦争の頃に確立されます.cf.平賀譲)


大きな被害が出た理由

 この被害の多さは,船の沈没が当時の認識よりも早かったことです.船が沈没すると分かっても,12時間くらいかかるという認識です.そのための避難設備しか用意されていませんでした.また,法令もその程度でした.

 しかし,タイタニック号は1時間半程度でほとんどが沈んだ.そのため,被害が大きかったのでした.

例えば,救命ボートが足りない,となっていましたが,それは救助にきた他の船とピストン輸送するためであって,当時,ことさら安全意識が低かったわけではありません.(そのため,非常食も救急箱もありません)

 そして,ボートを降ろすにしても手で手繰って降ろすため,時間がかかり,もし冷静な状況でしたとしても,1つのボートを降ろすのに20分かかるという結果もあります(ナショジオ,キャメロンのタイタニック).
 さらに言えば,海に飛び込んで,ボートまで泳ぐなんてことをしようものなら,心臓ショックで死にます.相手は-2℃の海水です.

 つまり,短期間で船が沈むと分かった時点で,もうすでに詰んでいたことになります.
(写真,タイタニックの救命ボート,Nikkei,ナショジオスペシャルより)


 他にも,船が氷山にあたった理由や,その他の原因についても,ありますが,重要なことは,みんな事故を減らそうと,それ相応の努力をした.その努力も足りなかった点もあったかもしれませんが、重要なところでのミスはほとんどありません.ただ、だれも氷山にぶつかって沈没するなんて考えていないし,ましてやあんな短時間に沈むなんて思いもよらなかったと思います. 


 ここまでの話をまとめると,タイタニック号の沈没は,仕方なかった.そして,大きな被害が出てしまうのも,ある意味で運命づけられたものだったのです.ここから,責任探しをするのは,沈没したからその責任者を処罰するという,後出しじゃんけんで人を裁くことであり,私的制裁(サンクション)です.

 タイタニック号の沈没で言えることは,当時分からなかった原因で,安全だと思われていた船が,想定よりも早くに沈んだ.結果,大きな被害が出てしまった.

 「できること」と「してよいこと」の議論ならば,「タイタニック」のような船を建造し,動かすことは,「できること」であり,「してよいこと」のように思われていました.しかし,実際は違った.しかも,当時は原因すらも分からない.
 誰も悪くない.それぞれに,与えられた状況で,ベストではないにしろ,ベターな行動をした.もちろん,ハッピーエンドではないと思います.けれど,ここで,誰かも責めることはあってはなりません.

 船が沈んだから誰かを責めることは,「後出しじゃんけん」のように思います.船を運航するとき,船を建造する過程で,発見できたはずのミスを見逃した.それは,問題です.けれど,だれも分からない原因で,でも結果大勢の人がなくなったからと,制裁を加えることは,感情をぶつけているだけではないでしょうか?


 では,どうすればよいのか?,今私は,その問を考えています.


拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました.
トップ写真はwikiから頂戴しました.

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